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旅の始まり

「リ、リル!」


ラスコはリルイットに駆け寄った。


「こ、これは…」

「いや、俺にもわかんないんだけど……」


ラスコはハっとした様子で言った。


「大木さんたちが、森から魔族が1匹もいなくなったと言っています。アルラウネが倒され、リルに恐れをなして逃げたようだと……」

「……」


2人はしばらく沈黙して、目を見合わせた。

すると、ラスコは言った。


「リル…ありがとう……。私の仲間の仇をとってくれて……」

「いや、いいんだ。うん。良かった」


尻もちをついたままのリルイットに、ラスコは手を差し伸べた。


「えっと……」


リルイットは恐る恐るその手に触れた。


(大丈夫だ……燃えはしない……)


リルイットはその手を握って、立ち上がった。


(さっきは何で燃えたんだろうか……。まあいいか…)


「リルは凄いですね」

「え? いや、たまたまだってさっきのは」

「いえ、その……女の子を褒めるのが、得意なんですね」

「えっ……」


リルイットは苦笑した。


「別にそういうわけじゃねえんだけどな」

「リルはイケメンですもんね。女の子にモテまくりなんですよね。羨ましいです」


そう言いながら微笑んでいるラスコからは、どことなく不満げなオーラを感じる。


(なんだよいきなり……は!)


『そんなブスの生気を吸い取ったら、お前の美しさも汚れちまうんじゃねえか?』


アルラウネの機嫌をとるべく、ついラスコのことをブス呼ばわりしちまった。

まさかそれで怒ってるのか…?!


「ち、違うぜラスコ。俺はお前のことも可愛いって思って…」

「はあ?」


ラスコはこれまでに見ない冷ややかな目でリルイットを見てきた。


「え…」

「私、リルの顔は一般的にかっこいいとは思いますけど、私の好みなんかじゃありません。勘違いしないでください」

「は……?」


リルイットは顔を引きつらせた。


(な、何か振られた気分……)


「あ、ああそうかよ! 俺だってお前の顔なんてタイプじゃねえよ!」

「あ! やっぱりブスだって思ってるじゃないですか! これだからイケメンは嫌いなんですよ! 女を落とすために嘘八百! 女は皆自分のことを好きだと思ってるんですから!」

「思ってねえよ! バーカ!」


しかし2人は罵り合いはしたが、互いに冗談だとはわかっていた。睨み合っていたが、最後にはプッと吹き出した。


「んじゃ、俺は行くわ」

「え?」

「この目で見ないと納得できないし。シピア帝国が滅亡したってこと」

「そのあと、どうするんです?」

「お前と一緒だよ」

「?」


リルイットは、アルラウネの死んだあとを眺めると、言った。


「シピア帝国を滅亡させた奴をぶっ殺す。人間を襲う魔族は皆敵だ。俺は帝国の仇をとる」

「……」


リルイットからは燃えたぎる憎悪を感じた。

行き場のない怒りが、彼を覆っている。


「私も一緒に行ってもいいですか?」

「え?」


リルイットはその突然の申し出に驚いて彼女を見た。


(あれ? 私なんでそんなこと…)


「ラスコ……」

「いや、その……」


リルイットはラスコに笑いかけると、うんと頷いた。


「ありがとう、ラスコ!」


ラスコはリルイットの笑顔に、不覚にもまたドキっとしてしまったのだが、頭の中でフルフルと首を横に振って、彼に笑いかけた。


「はい!」


そうして2人は、イスタールをあとにして、北西のシピア帝国まで足を進めることとなった。


「でもいいのか、故郷を放っておいて」

「大丈夫です」


ラスコは振り返ると、イスタールを守る巨大樹を見上げた。


「私の国は仲間たちが守ってくれますから」


リルイットも同じく、その寛大な巨大樹を見上げた。


「そうだな!」


魔族のいなくなったアルバダの森を歩いていくと、大木たちがリルイットたちに話しかけた。


「どこへ行くんだぁ〜い? ラスコぉ〜」

「森を出ていってしまうのかぁい?」


大木たちは皆同じような顔をして、同じようなノロマな話し方をしている。


「リーファ、リフナ、私達はシピア帝国を目指しながら、暴れる魔族たちの討伐の旅に出るのです」


(どうでもいいけど名前も似てる…まじで、誰が誰だ! わけわからん! 見分けるのはもちろんだが、名前と顔を覚えるラスコの暗記力すげえな!)


「そぉ〜れは大変だ」

「気をぉつけないと〜」

「ありがとう!」


大木たちはラスコの身を案じていた。


「そぉ〜だ。これに乗っていくがいい」

「え?」


すると、大木たちは自らの枝を切り落とし、それらは自在に何かの形をなしていく。

枝は木材のように切りそろえられ、勝手に積み上がっていくと、四角い荷台が出来た。


「まあ!」


荷台はタイヤの代わりににょきにょきと足を生やした。四本指の人間の顔くらい巨大な、木製の足だ。


「さあ、どうぞぉ〜!」


リルイットは唖然として、その不気味な荷台を見つめた。


「これも持っていきなよぉ〜」


そう言って、果樹の大木たちは、木になった果実をポンポンと振り落とした。リーファは自分の枝を手のように動かし、その果実を集め、また枝の1つをバスケットのようにしてそれを入れると、ラスコに持たせた。


「どうもありがとう皆!」


すると、リルイットとラスコを乗せた木の荷台は、馬車とも相違ない、いや、それ以上の速さで1人でに駆け出した。


「おおっと! 速えな!」

「これなら1週間もかからずシピア帝国に辿り着けそうですね!」


こうして2人は、シピア帝国に向かって足を進めた。




「お、お前は……」

「君のあるじだよ」


ベンガルが目を覚ました時、目の前には謎の女がいた。

ここはどうやら、洞窟の中のようだ。


その女、歳は40歳くらいだろうか? いい歳のおばさんだ。

深い藍色のローブを身にまとい、茶色の髪はもじゃもじゃとしていて、白髪が混ざっている。肌は歳の割には綺麗で、ほんのちょっとツリ目だった。

そういやこの顔、誰かに似て……。


「主…? どういうことだ…いや、それよりも俺はもう……死んで……」

「木っ端微塵に消滅した」

「……」


そうだ…。アルテマと名乗った魔族に襲われて、俺は死んだんだ…。


「ように見せた。この私がな」

「え?」


女はドヤっとした表情で言った。


「私の名はエウラ。国王レウラ・シピアの姉だ」

「お、お姉様…? 国王の……?」


エウラと名乗る女は頷いた。


(そうか。国王に似ているんだ……)


「この通り浮浪者でな、王政はレウラに任せて、自由に世界を旅していたところ、呪鳥から手紙が届いたのさ。何でもシピア帝国が魔族に襲われているというじゃないか。急いで駆けつけたが、時は既に遅しだった…。すんでのところで殺されそうなお前を見つけ、助けたというわけだよ」

「助けたって…どうやって……」

「ふふ! それは企業秘密というやつさ!」


(……何だか陽気なおばさんだな。お前の国も弟も死んだってのに……)


「レウラが死んだあと、服従の紋をかけた術師の後継人は私に決まっていた。まさかあのレウラが死ぬとは驚いたよ。長寿計画が進行中だから姉さん(おまえ)に頼ることはないだろう、なんて偉そうに言っていたものだがな」

「……」


(なるほど。だからつまり俺は今、このおばさんに服従してるってわけか……)


「話はわかりました…。命を助けてくれてありがとうございます」

「礼には及ばないよ若者!」

「そう言えば、今回の魔族の襲撃は、人間が自分たち魔族を実験体として好き勝手していたのが発端なんだと、敵の魔族が言っていました…。おそらくその…長寿計画のことだと思われます…」

「なるほど。君は長寿計画については何か知ってはいるのか?」

「詳しくは知りません…。ただ、友達のお兄さんがその研究者だったので、少しだけなら話を聞きました。人間と魔族の間に子供を作るとかなんとか…」

「ほう。全く、おかしなことを考えるなぁ!」


エウラはハッハッハと、馬鹿にしたように笑っている。


(このおばさん…やっぱり変だぜ…)

 

「まあいいだろう。シピア帝国はもはや滅んだ」

「! や、やっぱりもう…あの国は……」

「ああ、もう駄目だ。誰も生きちゃいないよ」

「…ウルは……俺の他に生き残ってる術師はいないのか……?!」

「ああ、服従の紋の反応があるのはお前だけだね。あとの術師は皆死んでいる。他に生きてる奴も見当たらなかったよ」

「……!!」


ウルが……死んだのか………?


それに、リルも……。


ベンガルは怒りと哀しみでいっぱいになり、その拳を強く握りしめて震わせた。


「おや、怒っているのかい」

「当たり前です……皆殺されたんですよ……。あなたは怒っていないんですか…?」

「別に怒っちゃいないよ」

「ど、どうしてですか?! 弟が殺されたんでしょう?!」


エウラは淡々とした様子だった。


「魔族を怒らせたんだ。自業自得さ。それに私は、あの帝国に興味なんてないのさ」

「な、なんて無慈悲な……」

「おいおい若者よ。失礼なことを言うんじゃないよ」

「だ、だって……」


エウラは感情を顕にするベンガルを見て、ふっと笑った。


「ならお前はどうしたいというのか」

「決まってるじゃないですか……魔族に復讐するんですよ……」

「ほう。まあ普通はそうだろう。家族を殺されたら、黙っちゃいないか」

「俺には家族はいません…。母親は生まれた時からいないし、父親もとっくに事故で死んでいるんで…」

「…そうだったのか。しかし、ならなぜそんなに怒るのか?」

「大事な友達が……殺されたので……」


ベンガルは、ウルとリルの死を何よりも悲しんでいた。

家族のいない彼にとって、2人は家族と同じくらい大切な友達だったからだ。


「うぅ……」


ベンガルは耐えきれなくなって、涙を流した。

エウラは彼の背をとんとんとやって、しばらくの間なだめ続けた。


「ならば私も手を貸そうとしようかね」

「え…? どういうことですか…?」

「復讐の手伝いをしてやると言っているのさ。ええと、硬化師の若者よ、名は何と言うんだったかな?」

「べ、ベンガルです…」


(俺が硬化師だってことは知ってるのか……)


「ベンガルか。それじゃ、行こうか…」


エウラは淡々とした様子で、彼を連れ、その洞窟の外へ出た。






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