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番外編・田舎町ダズール③

「好きだ!! ウル、俺と付き合ってくれ!!」

「…ごめんなさい!」


ダズールに引っ越して3年、ダズール中学校の卒業を迎えた俺は、誰もいない教室で意を決してウルドガーデに告白するも、玉砕した。


「……他に好きな奴がいんのか?」

「いえ、いませんが…」

「嘘だろ……本当はリルのことが好きなんじゃねえのか?」

「違いますけど…」

「だったら何で…」


振られた理由が知りたくて、俺は何とかウルの本心を聞き出そうとするのだけれど、彼女は困ったような顔を浮かべるだけだった。


「いや…ごめん。俺のことが好きじゃないんだもんな。理由なんてそれだけで充分だ」

「そんなことは…。ベンガルさんは私の大切なお友達ですもの…」

「ああ。わかってる。困らせてごめんな…。俺、先に帰るな!」

「あ……」


(お友達……)


わかってるよ。

ウルドガーデが俺に何の気もないことくらい。


でも伝えたかった。

伝えたことには満足した。


だけど……


「くっそお〜!!!」


帰り道、俺が喚きながら家に入ろうとすると、庭で剣の素振り中だったリルイットに目撃された。


(げっ!!)


リルイットは完全に俺のことを見ていて、口をぽかんと開けていた。しばらく無言で俺と目を合わせた。そして、彼は言った。


「振られた?!」

「リル〜!!!」


俺はリルの前で半泣きになって、リルはよしよしと俺をなだめた。

ここじゃなんだからとリルの家に上がりこんで、俺は失恋のショックを彼にぶちまけるのだった。


その頃にはリルはもう、俺の大親友になっていたんだ。


「まあでも、ついに告白したんだな〜! 何で前もって言ってくれねえんだよ」

「言わねえよそんなこと。女子じゃあるまいし…」

「親友なんだから相談しろよ〜」

「うるせえな…もう振られてんだよこっちは……くぅ……くそぉおおお!!!!!」


うなだれるベンガルを見て、リルイットは苦笑する。


「青春だな〜いいなぁ〜」

「よくねえよ! 失恋してんだよ!!」

「いやいや、俺は失恋も経験できないからさぁ!」

「しなくていいよそんなもん! 失恋するぐらいなら……」


初めてウルに会って、何て可愛い子なんだと思った。

すごくいい子だとわかって、会ったその日に好きになった。


それから3年、彼女の近くにいて…もちろんリルも一緒だったが…、それでもたくさん話をして、もっともっと彼女を好きになったんだ。


俺のことを好きになってほしくって、いいとこ見せようと思って、できることなら何でもやったよ。


それでも俺は気づいていた。

ウルは俺を、見ていない。


気づいていたんだけど、無理だとわかっていたんだけど、それでも告白しようと決めたんだ。


「失恋するぐらいなら……好きになんてなりたくなった……」


俺がふてくされたようにボソっと呟くと、リルは何だかわからないけど呆然としたような表情で俺を見ていた。


リルはこれまで誰のことも、好きになったことがないと言っていたっけ。


「そうなんだな〜」

「え……」

「いや、振られたことなんてないからさ、わかんなくって」

「……」

「振ったことなら数えきれないほどあるんだけどさ!」

「てめぇ……許さん!!」


俺はリルを軽く小突いた。もちろん冗談だぜ。


「泣き出す女もいてさ、参ったよ」

「何で振るんだよ…。付き合ってみたらいいじゃねえか。好きになるかもしんねえのに」


俺もそんな風に、思ってしまったんだ。

もしウルが俺と付き合ってくれたら……俺のことを好きにさせる自信があるのに、なんてさ。


「それはできないかな」

「何でだよ」


リルはほんの少し考えたあと、答えた。


「愛をもらうだけってのは、辛いから」

「え……」

「俺もあげたいから。その子が俺を好きなのと同じくらい。それが無理だとわかっているから、付き合わない」

「……」


リルは俺が思っているよりも、愛に誠実だ。

こいつは興味がないわけじゃないんだ。

それは何となくだけど、俺にもわかるんだ。


「なんて、語れる立場じゃないけど!」

「リル…」

「ウルもベンガルのことは本当に大切な友達だと思ってるよ! お前はそれじゃ満足できないかもしんねえけどさ…でもウルの奴も、真剣に考えて答えを出したんだ。適当に付き合うよりも、真摯に向き合ってくれたと思うぜ」

「……」


(結構秒で振られたんだけどな……)


「ま、振られたからって諦める必要もねえし」

「うん?」

「ウルも時間が経ったらコロっと考えも変わるかもしんねえし?」

「変わんねえだろ…。適当なこと言うなよ」

「はは! わりぃわりぃ!」


(何なんだよもう……)


でも…何でかはわからないけど……

リルは親友になっても相変わらずうざったいイケメンだけど……


(何か……楽になった気がする……)

 

俺が落ち込んでいるのに、リルはけらけら笑っている。こいつはいつも、よく笑っていて、皆の人気者で、女にモテるのも顔だけじゃないって気がするよ。


そんなこいつが、俺と親友になったのだって、よくよく考えればウルのおかげだったような気もする。


(友達って……大事だなぁ……)


ふと俺は、振られたショックを他所に、そんなことを思ったりして、口に出しては絶対言わないけど、こいつがいてくれて良かったなんて思ってしまっていた。


「俺も今日さ、3人に告白されちゃって! 後輩なんだけどさ、全然知らねえやつ! もちろん振ったけどさあ!」

「ちっ……」


うぜえけどな。クソほどに。


「じゃ、話はこの辺にしてさ! 一緒に素振りやろうぜ〜!」

「だから、俺は騎士にはなんねえから!!」

「いいからいいから〜!」


こいつは過去に騎士の男に森で助けてもらって以来、剣技を磨いている。俺もそれに付きあわされることはしばしばだ。


俺たちはリルの家の庭に出て、並んで素振りをする。

たまに打ち合いもするが、正直言ってリルは、あんまりセンスはなさそうだけど…。


まあ、努力しないと始まんねえからな…。


素振りはクソつまんねえけど、リルとやるのは、そんなに嫌いじゃない。


ブン!!


木刀が空気を斬る音は、結構好きだった。


「俺も失恋したら、ベンガルに話聞いてもらお〜っと」

「失恋の前に恋しねえと!」

「だよな! はぁ〜早く現れねえかな〜! 運命の相手!!」

「はぁ…呑気でいいよなぁ〜」


俺たちはその後、空が夕日の橙色になるまで、しばらく素振りを続けた。




数年経って、18歳になると、ウルと俺は国家専任のフリーの術師として就職した。術師は大体国に就職する。それが1番金も待遇もいいからだ。


リルは奇跡的に(といったら失礼だが)、騎士団の試験に合格した。花形就職が決まったあいつは、更にモテるようになった。本当に人生うまくいく奴っているよな。


俺もウルも、城の近くに引っ越して独り暮らしを始めた。リルのやつは、研究所に勤めている兄さんの家に転がり込むらしい。

 

城下町シアンテールの景色が懐かしくって、住み始めた時はちょっと感慨深かったよ。


俺たち3人の関係は変わらなかった。ウルは俺を振ったあとも、変わらず俺に接してくれた。それがすごく嬉しくて、やっぱり俺は彼女が好きなままだった。



そして、俺が就職して家を出て1ヶ月も経たないうちに、親父が死んだ。事故死だと聞いた。

飛び職人だった親父は、仕事中に足を滑らせて落下したらしい。


「……」


信じられなかった。親父がそんなヘマするはずないと思ったから。


でも信じるしかなかった。

だってもう、親父はいないのだから。


葬式は田舎町ダズールで行われた。

隣人で顔を知っているリルやウルも参列していた。

親父の親戚のやつらは誰1人来なかった。親父は昔に縁を切ったと言っていたからそうなんだろうけれど、本当に誰も来ないことに驚いた。


でも当時はそんなことを考える余裕もなく、親父が死んだというその事実に俺は、深く悲しんだ。


「ベンガル……」

「ベンガルさん…」

「うぅ……ぐぅっ……」


俺はその日、ボロボロになるまで泣いた。


親父は俺の、たった1人の家族だったんだ。


母親のいない俺を、男手1つで育ててくれた。


親父の顔を思い出すだけで、涙が止まらないんだ。


言葉もでなくって、ただ永遠と泣いて、そんな俺をリルとウルが、ずっと慰めてくれた。



葬式が終わって、世間はこれまでと同じような生活が始まった。


俺も未成年とはいえ男だし、就職だってしてるし、いつまでも泣いてなんていられなかった。


頭ではそうわかっていた。もちろん仕事はしていた。だけど、俺の心は正直折れてしまっていて、何をするにも身が入らなくなってしまった。


知らぬ間に家は、物が溢れかえって散乱し、ゴミ屋敷みたいになっていた。流し台には食器が溢れかえり、洗濯もまともにする元気がなくて、衣服は山のように積まれている。そんな家に帰るのも億劫で、だけど片付ける気力なんてない。


この世に家族がいないというその喪失感が俺に与えた精神ダメージは、信じられないほど大きかったんだ。



ある日、俺が仕事を終えて家に帰ると、家の電気がついている。


(あれ…俺消し忘れたっけ?)


最近の俺はどうも上の空だからな、これまでしたこともないようなヘマをするのも頷ける。が、


ガチャ


(開いてる……?!?!)


さすがに鍵を締め忘れるヘマなんて…この俺が……?

ま、まさか泥棒……?!


俺はかなり焦って、家に上がり込んだ。


(え……?!)


家が物凄く綺麗に片付いているのを見て、目を丸くする。


「だ、誰かいんのか?!」


俺がリビングに行くと、たくさんのおかずが丸テーブルに目一杯並んで、リルとウルが囲うように座っている。


「よ! おかえり〜!」

「遅かったですねぇ! お疲れ様です!」


驚くのと拍子抜けするのとで、俺は力が抜けて立てなくなりそうだったよ。


「な、何でお前ら…」

「すみません! 精霊さんに頼んで鍵を開けてもらいました!」

「はぁ…?」

「やっとウルと俺の休みがかぶったんだよ! だから大掃除、してやったぜ!」


リルは美しく片付いた家を、自慢げに手で示した。


「あ、ほとんど飯は惣菜だぜ! 掃除大変すぎて作る暇なかっわ! あはは!」

「洗濯と洗い物もやっておきましたよ!」

「お前ら……」


俺は葬式の日みたいに、いやそれ以上にボロボロ泣いた。

そんな俺を見て、リルもウルもけらけら笑ってやがったよ。


「汚れた皿はすぐに水につけといたほうがいいぜ〜。そうしないと俺さ、兄貴にいっつも怒られんだよ」

「……」

「お腹空いたでしょう? 冷めないうちに食べませんか?」

「……」


俺は情けないくらい涙を流した。

おかずは俺がいっつも買ってくる惣菜飯だったけど、2人と食べるとそれだけで物凄く美味しいからびっくりしたよ。


「ぅぅ……勝手に人の家侵入すんなよ…ひっく……犯罪だぞ…」

「ふふ! すみません!」

「じゃ、今度はウルの家でパーティしようぜ〜!」

「いいですよ! その次はリルさんの家で!」

「いいぜ! 兄貴に何か作らせよ!」

「ご迷惑じゃないですか! 何か買っていきますよ」

「いいのいいの! 兄貴あの顔で料理結構うまいから!」

「まあ!」


就職したばかりで、皆慣れるまで忙しかったり、休みも合わないこともあって、こんな風に3人で集まるのはシアンテールに来て初めてだった。


「2人共…ありがとう……」


俺は目を腫らして、2人にお礼を言った。


「何だよ水くせえな!」

「ベンガルさんらしくないですよ!」

「うるせえよ……」


俺は家族がいないけど、それと同じくらい大切な友達がいる。


それも、2人もだ。


俺たちは3人でその飯をたらふく食べて、2人共疲れたからここで寝るなんて言ってそのまま俺の家に泊まった。客用の布団なんてないから、俺の布団にウルが寝てもらって、俺はソファで寝て、リルは雑魚寝をした。


「あ〜この床ちょうどいい硬さだな」

「嘘付け。帰ってベッドで寝りゃあいいだろ。そんなに遠くねえんだから」

「俺はどこでも寝れんだよ。それが俺の特技なんだよ」

「しょっべぇ特技……」

「それに俺がいねえと、ベンガルがウルを襲うかもしんねえし!」

「んなことするわけねえだろ!」

「うふふ! おやすみなさい!」

「おやすみ〜」

「おやすみ…」


俺はその日、夢も見ないほどぐっすり眠った。






















番外編終了です!

次から第1章が始まります!


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