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ケイネスの研究所

「え?! ここどこ?!」


目を覚ましたリルイットは、見知らぬ景色が目に入ると、びっくりしたように声を発した。


木の家だ。イグの出したコテージではなさそうだ。

いや……ていうか俺、また気絶した…?


「リル!」


ラスコは覗き込むようにリルイットのことを見た。


「え? 何ここ…俺どうなった?!」

「森の上空でエルフの矢を打たれて、気絶して墜落しました」

「ああ、うん……そうだった気がする」

「その後私1人を乗せて、研究所に飛びました」

「え? イグとシルバは?」

「置いてきました」

「何で…?」


リルイットが正気に戻ったのを悟ったラスコは、苦笑した。


「知りませんよ。あなたがそうしたんです」

「はあ? どういうこと?」


ラスコは何も語らずに、トマトを出すと、リルイットに放り投げた。リルイットはすかさずそれをキャッチした。


「それを食べたら、出発しますよ」

「お、おう…」


リルイットはわけもわからず、トマトを丸かじった。

トマトの酸味が口内に広がって、寝ぼけていた目が開いていく。

トマトをかじりながら、ラスコに尋ねた。


「イグたちは何処にいんの? 無事なの? マキさんも無事?」


ラスコは白けた目でリルイットを見ていた。


「いつもみたいに索敵してんだろ? 教えろよ」


ラスコはますます白けた目で、調子のいいリルイットを睨みつけた。


「イグさんたちの安否はわかりません。森の木々たちからの声が完全に途切れてしまったのです」

「え…どういうこと?」

「森に何かあったのかもしれません。そしてマキさんは、朝方から、痛みを感じているようです」

「えっ?! 大丈夫なのか?!」


呑気にトマトを食べている場合ではなくなった。すぐに出発しなくては…!


「どうする…?!」

「とりあえずマキさんのところに向かいましょう!」

「っし!」


リルイットは鳥に姿を変え、ラスコを背負うと空に飛び上がった。ラスコの指示に従い、研究所を目指した。

飛ぶこと小一時間、それらしき建物が姿を現す。


「あれか…?!」


それはたくさんのソーラーパネルがついた、ドーム状の巨大な建物だった。見渡す限り自然界のその場所に、たった1つそびえ立つその人工物は、明らかに浮いている。


「随分最先端じゃねえか…」

「中にマキさんがいます…!」


リルイットは研究所の近くに降り立った。さすがに強行突破!とはいかない…。あくまで慎重にだ。ラスコの植術で、小さなツルを隙間から伸ばし、中の様子を探らせる。ツルが見たものを、ラスコに伝えてくれるのだ。


「どうだ?」

「マキさん以外にも、たくさんの人が眠らされています…。起きている人はいません」

「誰もいないってこと?」

「そうみたいですけど…」

「だったらチャンスだ! 行くしかねえ」


リルイットは研究所の扉を開こうとした。さすがにカギがかかっている。


「リル?!」

「マキさんを取り返してさっさと逃げる!」

「ちょっ」


リルイットはその剣に力を溜めると、その扉を斬り裂いた。斬り口から火が燃え上がり、入り口を開けたところで炎を消す。


「強引ですね…!」

「まあね…!」


リルイットとラスコは研究所の中に入った。


(何なんだよここ……)


見たこともない機械がたくさんある。何に使うのか、まるでわからない。けどとにかく、新型って感じだ。

円形の建物の中には、カプセルに入ったベッドがたくさん壁に沿って並んでいる。その中には見知らぬ人間たちが横になって眠っている。


(生きてるのか……?)


ラスコの言った通り、ベッドに寝ている以外の人間はいない。リルイットの反対側に向かっていったラスコが、立ち止まって声を上げた。


「リル! マキさんがいます!!」

「!!」


リルイットはマキが眠っているベッドに近づいた。

そこには臨月のようにお腹が大きくなったマキが、そのカプセルの中で、苦しそうにしながら呻いている。


「マキさん!!」


リルイットがカプセルをバンバン叩くが、びくともしない。ラスコは周りを見渡すが、カプセルをの解除の仕方はわからない。


「開けられません!」

「くっそ!」


すると、声に気づいたマキが目を開けた。彼女の目にはリルイットとラスコがぼんやりと映った。


「お、お前たち……」

「マキさん!!」


カプセルに覆われているが、声は通るようだ。


「マキさん! 何でこんな…」

「早く逃げろ…もうすぐ奴が………ぃぎっ!!」


マキは突然痛みに顔を引きつらせた。


「マキさん?!」

「ぅうう……」


悶絶するような下腹部の鈍痛がマキを襲う。


「もしかして、陣痛が?!」

「えっ?!」

「くぅうう……」


マキは泣きそうになりながら歯を食いしばる。リルイットもラスコを、あたふたと見ていることしかできない。


しばらくして陣痛の痛みが引くと、マキは口を開いた。


「朝から続いてる…。もう間隔が10分きってる…もうここで産む……お前らは早く…ここから……」


すると、研究所の燃やされた扉から誰かが入ってくる。カツカツと靴の鳴らすいい音が響いた。


「これ、お前たち、わしの研究所で何をしておるんじゃ」


リルイットとラスコはビクっとして振り返った。そこにはヨボヨボの白髪アフロの爺さんが、丸眼鏡をキラリと光らせて立っている。


(何だこのじじい…!!)


「扉まで駄目にしよって。けしからん奴らじゃ。レノンの奴は何をやっとるんじゃ」

「?!」


リルイットはレノンの名前に反応すると、怪訝な顔でその老人を睨みつける。


(レノンを知ってる…? こいつも敵……)


「そこから離れるんじゃ。出産が始まるぞい」

「マキさんを返せ! 勝手にこんなところに連れてきやがって…!」

「ほっほ。それは出来ん。貴重な術師の女じゃ。簡単には返すまい」


リルイットとラスコはマキを守るように立ちはだかり、構えをとる。老人は一切動じることなく、彼らに近づいていく。


「さあ、早くここから出ていくんじゃ。痛い目に合いたくなかったらのう」

「お前は誰なんだ! お前の目的は何だ?!」

「聞こえなかったのかのう? さっさと出ていけと言ったんじゃ」


リルイットは剣を抜き、老人に向けた。老人はため息をついた。すると、老人の後ろからラスコのツタが襲いかかった。外から忍び寄るように伸びたツタは、老人の足元に絡みついた。


「答えないと、拘束しますよ!!」

「でかしたラスコ!」


ツタはあっという間に老人の身体中に巻き付き、縛り上げた。


「ほっほ。お前さんも術師じゃったか。見慣れぬ術じゃ」


ラスコは老人をきっと睨むと、その締付けを強くした。


「マキさんを解放しろ! ここに眠ってる奴らも全員だ!!」

「そうはいかぬ。皆わしの大切な研究体じゃ」

「立場がわかんねえのか? 言うことを聞かないとただじゃ済まさねえぞ!」


リルイットは慣れない様子で声を荒げながら、じりじりと前に詰め寄る。


「立場がわかっていないのはお前さんたちじゃ。わしの研究の邪魔をするやつがどうなるか、教えてやろう」

「?!」


老人の身体は、白濁のゲル状に変化した。その状態は、この前リルイットたちが倒したスライムもどきに大変よく似ていた。


ゲル化した身体は簡単にツタの隙間を通り抜けると、床を泳ぐように伝っていき、1つの部屋の扉を開く。


「何だ?!」

「ひゃっ!!」


その扉から、スライムもどきが溢れ出した。白濁色のゲルはたくさんの目を散りばめながら、物凄い勢いで研究所内に広がっていく。目はそれぞれパチパチと瞬きをし、まるで生きているようだ。


老人のゲル化した身体はその扉から溢れた多量のゲルと混ざり合い、巨大なゼリーの塊のようになっていく。


「逃げろ! 早く!!」

「何なんですか!!」


リルイットとラスコは一目散に研究所の外に飛び出した。スライムもどきはぎろりと2人に目をやると、にゅるにゅると床を這いながら追いかけてくる。外に出たスライムもどきは、巨大なゴーレムのように形をなした。頭の中には先程の老人が、人の姿を成して入っている。


(何なんだよあの爺さん!!)


「ほっほっほ! 術師の女、ここに来たのが運の付きじゃな。前もわしの実験体にしてやろう」

「ひぃっ!」


スライムもどきはラスコを狙っている。目的は術師の身体なのか…?!


「させるかよ!!」


リルイットは巨大スライムもどきに向かって炎を吐き出した。するとスライムもどきはその身体を真っ赤な色に変え、炎を防ぐ。まるで効果はなさそうだ。


(やっぱりあのスライムもどきと同じ…!)


「効かぬわそんなもの。わしのインヴァルにはのう! ふぉっほっほっほ!!!」


老人は高らかに笑いながら、その巨大な手でリルイットに殴りかかった。リルイットは咄嗟に羽を生やして飛び上がると、その拳を避けた。拳は地面にぶち当たり、大きな穴を開けると共に、激しい振動がその地を襲った。


「ひゃっ!」


ラスコはその地響きと地震に足を取られ、尻もちをついた。咄嗟にお尻の上に花のクッションを出して衝撃を和らげる。


「ラスコ!!」

「ほっほっほ!! 植物を操る術師か。面白いではないか」

「えい!!!」


ラスコは真っ赤な色のスライムもどきに向かって栄養水を発射した。高圧ガンほどの威力はないかもしれないが、炎耐性になったスライムもどきには水が効くはずだ…!


それに気づいたリルイットも、炎を更に吐き出す。


「燃えろおおお!!!」

「ほっほっほ。無駄じゃ」


スライムもどきは真っ赤な姿で炎を受け、足元のゲルを分離させると、ラスコが発射した水攻撃から身体を守るように立ちはだかり、その色を青く変化させた。


「この!!!」


ラスコは発射方向を変える。しかし分離した水の盾となったゲルは、ラスコの攻撃に合わせてその位置をすばやく移動させる。まるで吸い寄せられているみたいにだ。


「くそっ!!」


リルイットは一旦炎を止め、体制を整えた。


(炎を吐き続けるのはエネルギーを大きく消耗する…。無駄うちは好ましくない! それにしてもどうすりゃ…)


「えい!!」


ラスコは地面から、毒々しい赤い花びらの華を咲かせる。巨大な猛毒花だ。


「効かんぞ。インヴァルには、何も効かんのじゃ! ほーっほっほ!!」


スライムもどきはその色を紫色に変える。


(毒耐性もあるんですか…!!)


ラスコは顔をしかめながらも、猛毒花を操り、毒を送り込む。リルイットも敵が紫色になったのを確認すると、もう一度炎攻撃を仕掛ける。


(今度こそ!!)


「燃えろぉおおお!!!!」


豪快な炎がマグマのようにスライムもどきを包み込もうとする。すると、スライムもどきはそのまま地面に這うように一瞬で広がり落ちると、炎から逃れた。炎は地面に咲いた猛毒花を燃やしきってしまった。


(くそがっ!!!)


敵は地面を泳いでいく。白濁色に戻り、なだれ込むゼリーのごとくその地面にへばりつきながら進み、ラスコを狙いに行く。


「来ないでくださぃい!!!」


ラスコは多量のツルをその地面をかち割るように生やすと、スライムもどきを攻撃した。しかしツルはスライムもどきの身体を斬り落とせない。異常な弾力に簡単に跳ね返されてしまう。


(やっぱり物理は効きませんか…! あの時と同じスライムもどきです…!)


「ラスコ!!」


敵に捕まる既のところで、リルイットはラスコを抱えて空に逃げた。


「何なんだよこのスライムもどきは!!」

「スライムもどきではない! インヴァルじゃ! ふぉーっほっほっほ!!!」


老人は腰に手を当て大きく胸を張り、再び声高らかに笑った。ゲル状ゴーレムも同様のポーズをしている。


「インヴァルってなんなんだよ…!!」

「インヴァルはわしの作った新型生物じゃ!! わしの名はケイネス・ヴェルバクトロ! この世に唯一無二の存在となる男である!!」


老人はそのように名乗ると、その姿を巨大な鳥に変化させた。老人の身体もその中に埋もれ、一体化している。


「さあ、わしの力を見るがいい!!」


ケイネスはリルイットとラスコにくちばしを向けると、襲いかかった。









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