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騎士団出動

「死ねぇ!」


アルテマが放った黒光りの球は、カルベラに衝突した。彼の身体は木っ端微塵に砕け散って、跡形もなくなった。


「何だ……つまらないなぁ……」


(しかしこの力…凄まじい威力だ……! 魔王様の血が身体にたぎる……っ!!)


憎悪……私ももっと……憎悪がほしい……。

人間たちの……美しき憎悪!!


「くくくくっ!!」


アルテマは薄ら笑いながら、その6枚の橙色に染まった羽をはばたかせて、生界へと飛び立っていった。


アルテマがいなくなったのを確認すると、影の中からにゅるんと悪魔は姿を現した。


(はぁ……。何なんだ、あの堕天使は……)


シェムハザのことをシェムと呼んでいたな…。知り合いの天使なんだろうか……。


既のところで影と入れ替わった。

アルテマは俺のことを殺したと思ったみたいだ…。


「シェム……」


カルベラもまた、シェムハザの跡を追おうと、生界に飛び立った。





ウルドガーデたちが北区を抜けると、既に北の隣街が火事になっているのを見つけた。


(こ、これは酷い……)


暴れているのは炎の魔物イツァムの群れだ。2つの顔を持つイグアナに似た魔族で、人間と同じくらいの大きさがある。普段はおとなしく、もう少し北のグラル火山に生息している魔族だ。


「イツァムが何で…?!」

「ベンガルさん、気をつけて!」


イツァムは騎士団と術師たちを見つけると、炎を吐き散らした。


「こんの野郎!」


ベンガルは炎を硬化させ、固体化させる。


「さすが硬化師のベンガル殿だ!」


騎士団たちは術師の力に感服した。


「水の精霊ウィンディーネ、力を貸してください!!」


ウルドガーデが祈りを捧げると、その美しき青い精霊が姿を現した。


「お任せくださいウルドガーデ様!」


ウィンディーネはイツァムの炎をものともせずに、その群れを水の力で次々に倒していく。

他の者たちにはウィンディーネの姿は見えず、どこからともなくやってきた滝のようなその水だけを目にすることができる。


「おおお!」

「精術師ウルドガーデ殿がいれば百人力よ!」


ベンガルもひゅーっと口笛を吹いた。


「こりゃウル1人いればわけねえな」


ウルドガーデは戦いをウィンディーネに任せると、雨の精霊レイニーを呼んだ。

水玉模様の傘を持って飛び上がった女の子のような姿のレイニーは、ひょんきんな口調でにこやかに笑った。

黄色の髪はくるくると渦巻いてツインテールになっていた。雨の雫のようなブルーの瞳を、ぱちぱちと瞬きさせる。


「はいはーい! レイニーちゃん登場だよーん」

「レイニー、火事を消したいのです! 力を貸してください!」

「はいはーい! お安い御用だよウルちゃん!!!」


レイニーは傘を右手に持ってふわふわと空に浮かびながら、左手を軽く払うと、激しい大雨が降り出した。


「皆さん下がってください! 濡れてしまいますから!」


ウルドガーデに言われ、騎士団たちはさらに何歩か退いた。


レイニーは炎の燃え盛るその街にだけ、きっちりと雨を降らしていた。


「火花にお水をあげましょう〜っと!」


レイニーはふんふんと鼻歌を歌いながら雨を降らし、あっという間に街を燃やしていた炎を消し去った。

ウィンディーネもまた、その力でイツァムの群れを根絶やしにした。




リルイットたち騎士団は南区へ進んだ。

騎士団たちの数は30人ほどだ。

元々200人を超えるシピア帝国の騎士団を、区画ごとに分散し、迎撃に当たらせている。


彼らは国境を超えると、森の中に入っていく。


「1匹たりとも国に入れるな!」

「速やかに迎撃せよ!!」


騎士団長レグリーの指揮の元、攻め込んでくる魔族たちを倒していく。


これまで何度も魔族の反乱を鎮め、返り討ちにしてきたシピア騎士団だ。その強さは圧倒的だった。


日頃の訓練の成果を出す時がやって来たと言わんばかりに、騎士団たちはむしろ意気揚々と剣を振るうのだが、リルイットに限ってはそうではない。実際に魔族と戦うなんて、初めてなのだ。


まもなくダイアウルフの群れが騎士団たちを襲った。


(凶暴化してやがる!)


リルイットたちはダイアウルフを迎撃した。

騎士団たちの剣術は素晴らしく、また訓練されたチームワークも見事なもので、あっという間にダイアウルフを片付けた。リルイットが手を出すまでもない。


(先輩たちすっげえ〜……)


「へっ、口ほどにもねえな」

「シピア帝国で悪さができると思うなよ! 魔族共!」


しかし、3つ首の巨大獣、ケルベロスがその姿を現すと、騎士団たちもその驚異に一瞬怯んだ。


「こ、こんなところにケルベロスかよ…!」

「うろたえるな! 取り囲んで殺すぞ!」


騎士団たちは3つに分かれると、ケルベロスを前面と後方二箇所から取り囲もうと試みた。


「ウガルルルルルゥゥ!!!!!」


ケルベロスは怒った様子で人間たちを睨みつけている。


(何でこんなに怒ってんだ…?! 今まで人間を襲ってきたことなんてなかったのに…?)


リルイットは異常なまでに憤怒しているケルベロスを見ながら、他の騎士団に続いて後方へと周り込む。


「今だ! 突撃ぃ!!」

「うおおおお!!!!!」


騎士団たちは一斉にケルベロスに襲いかかった。


「足を落とせぇ!!」

「前面は防御に徹しろ!!」

「うおおお!!!」


騎士団たちは叫びなから、抵抗するケルベロスの身体を斬り刻む。

足を斬られたケルベロスはウギャアアアと悲痛な声をあげると共に、その怒りを顕にして、前面の騎士団たちを盾ごと薙ぎ払った。


「うわあああ!!」


その力に耐えられず、騎士たちはふっ飛ばされた。

盾を剥がされた何人かの騎士たちがケルベロスに食われていった。


「ひっ!」


騎士たちが飲み込まれるのを見たリルイットの顔は青ざめた。


「んの野郎!!!」

「首を斬れ! 斬り落とせぇぇ!!」

「ウガアアアア!!!」


騎士団たち総出で、その巨大なケルベロス1体を何とか仕留めた。


(こんなのが次々襲ってきたら、さすがに耐えきれねえぞ…!)


散らばった数人の死体の腕や足をあとにしながら、リルイットたちは先に進んだ。

警戒態勢を怠らず、魔族を見つける度に仕留めていく。


「また出やがった!」


再び別のケルベロスが現れて、騎士団たちに襲いかかった。


「さっきと同じだ! 全員で仕留めろ!」

「うおおお!!」


(まじかよぉっ!!)


リルイットも顔をしかめながら仲間の騎士たちに続いた。逃げることなんて許されるはずがない。


しかし先ほどと同様にケルベロスを囲んで突進していく騎士たちは、後ろから現れた炎の魔族イツァムたちの猛攻に気づかなかった。


「うわああああ!!」


何体ものイツァムたちが放つ炎は、ひとかたまりになって激しく燃え盛り、ケルベロスごと騎士たちを燃やし尽くした。


「うううっ!!!」


リルイットも瞬く間にその炎に飲み込まれた。


(し、し、死ぬっ……!!! な、何だこの強さ…! イツァムだけでこんな……っ?!)


リルイットは、イツァムの後ろに隠れるその恐ろしく巨大な獣の姿を見つけては、目を見張った。


真っ赤な鱗に力強い翼。炎をまとったその龍がそこに立つだけで、森の木々は焼き尽くされる。異常な熱気と、湧き出るオーラは、これまでのどんな魔族よりも群を抜いて脅威的だ。


(ファイアードレイク……!!)


最強とうたわれる炎のドラゴン、ファイアードレイク。その存在を知る者は数知れないが、実際に見たことはない。

それ故に伝説とさえ呼ばれていた。ドラゴンの中でも随一の力を持つ、炎の飛竜だ。


こいつが人間を襲うなんて……!!


終わった……もう……!!


全滅だ……!!!


炎が消え入ると、そこにいた騎士とケルベロスは、見事に灰になって消え去った。


「え……?」


リルイットはただ1人、無傷でそこに立ち尽くすと、イツァムの群れとファイアドレイクと目を合わせるのだった。


(何で生きてんだ、俺……)


リルイットは、その自身の身体の無事に目を見張った。


(痛くも熱くもなんともない…? あんなに燃やされたのに? 俺の身体全身、炎が纏っていたのに…?)


イツァムの群れとファイアドレイクを前に自分1人と、絶体絶命の危機的状況に陥ったリルイットは、あまりの絶望に声も出ず、手も足も動かない。


(や、やらなきゃ…俺が……)


リルイットは腰の剣に手を当てた。


(俺が……倒さないと……)


震えながらも剣をゆっくりと引き抜くと、魔族たちを前に構えた。


「ウガアアアア!!」


ファイアードレイクの激しい咆哮と共に、イツァムの群れがリルイットめがけて襲いかかってきた。


「ひいい!」


リルイットは恐怖に目を閉じた。


(あれ…)


しかし剣を持つリルイットの手が、勝手に動き出した。身体も自然と動き出すと、イツァムたちに斬り掛かった。


(ええ?! 何これ?!)


リルイットはものの見事に敵をさばくと、一瞬にしてイツァムを斬り殺した。


(お、俺がやったのか?!)


斬った先からは激しい炎が舞い上がって、炎の魔物と呼ばれるイツァムさえも焼き殺した。


「っ!!」


しかし驚く間もなく、ファイアドレイクがその翼をはためかせると、リルイットに突進してきた。


「ウガァアアアアアアア!!!」


そのまま口から激しい炎を吐き出す。


「うっ……!!」


あっという間に目の前が炎で覆われる。

逃げ場など到底ない。

しかし、驚くことに、なんの熱さも感じやしないのだ!


(き、効かねえ!!!)


なんでかわかんねえが、炎は俺には効かねえようだ。

だったら…


「怖いもんなんかねええ!!」


ファイアドレイクはその勢いのまま、爪を振り上げてリルイットを攻撃する。


「いや、物理攻撃は勘弁してぇ!!」


リルイットは逆の手に持っていた盾でその爪を受け流す。


(あれ…)


何なんだ…身体が勝手に動く…。


(今だ!)


斬ってやるよ…!


リルイットにはその時不思議と、ファイアードレイクを斬り裂く未来がはっきりと見えた。


(お前も派手に燃え尽きろ!!)


「うああああ!!!」


リルイットは大声を上げながら、そのドラゴンに斬りかかった。

自分のものとは到底思えないその身体の動きで、ドラゴンよりも高く飛び上がると、あっという間にドラゴンの首を斬り落とした。


(や、やった…!!!)


斬られた首のあとからは、激しい炎が燃え盛る。


マグマの中を泳げるとさえ云われていたファイアードレイクを、リルイットの炎は焼き尽くそうとしている。


「燃えろぉおおおお!!!」


リルイットの声に反応するかのように、炎はその激しさを増し、力を大きくした。


やがてその炎はドラゴンの何倍にも膨れ上がり、ファイアードレイクでさえも耐えられないほどの高熱で、ドラゴンを焼き払った。


「ハァ…ハァ……」


リルイットは緊迫状態が続いたことによる疲労感と共に、これまでに感じたことのない高揚感に襲われていた。


「ううっ!!!」


リルイットは突然、これまでに感じたこともないような酷い頭痛に襲われた。


(なんだこれ……)


右手で頭を抱えて、その痛みにうずくまる。


すると、遠くから何やら叫び声が聞こえた。

リルイットが頭痛に耐えながら振り向くと、そのシピア城の高さをも超える巨人が、どしんどしんと城に向かって歩いているのが見えた。


(くそ!)


リルイットは痛みを感じながらも、城に向かって駆け出した。

















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