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家族

「今日からお前が俺だ。お前がシルバだ」


マキの引き取り手が見つかった1年後、イグは自分の身代わりの呪人を作り出した。そいつにシルバの名をやって、俺はこの施設から抜け出したんだ。


抜け出した理由は2つある。1つは自分の生まれた場所や、生んだ親がどんなやつなのか、顔だけでも見てみたかったから。別に見つけたあとに何かしようなんて思っちゃいないぜ。ただちょっと興味本位で、ツラ拝んでやろうと思っただけだ。俺もうすぐ10歳だ。2歳で俺を捨てたんだ。俺がやってきたって、気づかないだろう。


そしてもう1つ、俺は、マキに会いたかった。


施設で初めて会ったマキは、皆のことをすげえ睨んでいた。俺のことも。無愛想だし、いつも1人だし、いけすかねー女だなと思っていた。まだ6歳だった彼女が復讐のために剣技を磨いているのを見た時は、驚いたもんだよ。


俺とマキは喧嘩ばかりしていた。くそーうぜえ女で、皆の嫌われ者。2人1組で絵を描く授業で、俺はマキとペアになった。その時に描いたあいつの怒った顔、よく似てたよな〜。


だけど彼女も本当は怒ってるわけじゃなくて、ただ辛いだけだった。両親の死の悲しみを、ずっとずっと我慢していたんだ。その我慢が溢れた時、彼女は俺の前で初めて涙を見せた。それを見た時俺は、無意識に彼女を抱きしめたんだ。


その日から、いや、本当は心の何処かで、ずっと前から気になってたんだ。そうじゃなかったら、話しかけたりなんかしないもんな。他の奴らみたいに、無視してるもんな。


俺は彼女のことが好きだった。

だから俺は、マキに、会いたかったんだ。


その頃俺は、呪術も結界術もうまく使えた。施設にいる間に本で調べたが、術を使うのに体内エネルギーってやつがいるらしい。だけど俺、どんなに術を乱用しても、気絶なんてしたことないんだよな〜。


異なる術師の間に生まれた子供が、2つの術を使えることが稀にあるらしい。そしてそれを、多術師と呼ぶらしい。俺はその、多術師ってやつらしいんだ。それについても色々調べようと思ったんだけど、まともな見聞が残ってない。本当に稀で希少な存在なんだ。もしかしたら、現存で生きているのは俺だけかもしれない。


俺はまず、故郷を見に行くことに決めた。自分の家族がどんなやつだったかって話を、マキにしてやろうと思ったからだ。


ああ俺、透過結界で透明人間になれるから、どこでも行き放題、入り放題。悪用したことはねえけど。 


そういや忍術に隠れ身の術ってやつがあるらしい。だけどあれとは少し違う。


何が違うかっていうと、隠れ身は見えなくなるけど攻撃されたら食らうんだ。だけど他の忍術も併用できる。それに対して透過結界は、使っている間はノーダメージ。だけどその間、術の併用はできない。というところだ。


エーデル大国周辺の呪術師の村、あるいは結界師の村、そのどちらかが、俺の故郷だと踏んでいた。


案の定、結界師の村が俺の故郷だとわかった。気のせいかもしれないが、その村についた時、ここに来たのは初めてじゃない気がしたんだ。2歳の記憶なのか、それともただの気のせいなのか。わからないけど。


そして俺は、自分の母親を見つけた。ティーニア・イグレックだ。ひと目見てわかった。直感だ。あの顔、あの銀髪、間違いなくあいつが俺の母親だと。


「母さん……」


でも父親を見てもピンと来なかった。まるで俺に似ていない。


他にもティーニアには2人の子供がいた。そいつらは父親にも母親にもよく似ていた。間違いなく家族だと、俺も察した。


「………」


俺は不審に思いながら、母親と父親が寝入ったところに侵入し、親子鑑定ってやつを勝手に行ったんだ。透過結界で消えている俺が何をしようと、あいつらは俺に触れられていることすら気づかない。


その結果を見た時俺は、愕然とした。


やっぱり母親はこの女で間違いない。だけど……


父親は、こいつじゃない!!


(……)


この父親は、呪術師じゃない。この村には、結界師しかいないんだ…。


そして俺は調査を進めるうちに、ティーニアには昔もう1人息子がいたが、2歳の頃に魔族に殺されて死んだという情報を掴んだ。そして俺は察した。ティーニアは何らかの理由で俺が不倫相手との子供だと気づいたんだ。そして、俺を死んだと見せかけて、施設の前に捨てたんだ。


最低な理由だとも思ったが、俺は納得した。幸せそうに過ごす母親とその家族を見て、嫌悪感はもちろんある。だけど俺は、彼女たちと接触はしなかった。


そしてついに、本当の父親が誰かということも突き止めた。そいつは呪術師の村から出ていて別の国にいたから、探すのは苦労した。


その街の大通りで、俺はそいつを見ていた。透過はしていない。人も多いし、必要ないと思ったんだ。


そいつにも家族がいた。妻と、息子が1人。3人で楽しそうに歩いている。それを見ていたら、ふとその父親の男と、目が合ったんだ。父親は俺に向かって笑いかけた。


「え……」


完全にこっちを見ていた。俺も完全に反応してしまった。


「……」


また別の日、俺はその父親の家を覗いていた。窓の奥では、同い年くらいの息子と美人の母親と父親の3人で、家族団らんとしている。また透過しなかったのはわざとだった。もしかしたらまた俺に、気づいてくれるんじゃないかって、期待したんだ…。


すると、案の定父親の男と目があった。


「あ……」


父親は立ち上がって、家の外に出てきた。俺の方に、向かってきている。


俺の心臓は高鳴った。


「あ……」


父親は俺の前までやってきた。見上げるように背の高い男だ。似ている……俺に……。


「あ……の………」

「もしかして、俺の子かい……?」

「あ………」


(気づいて……くれていた……)


そして父親は、俺のことを抱きしめた。


「会いたかったよ……」

「あ……」


俺は嬉しさのあまり、涙が溢れた。


「うぅ……」

「会いに来てくれたんだね。ありがとう……」

「ぅぅ………っく………」


俺の、父さん。

俺の、家族……。


初めて、その温もりに、触れた。

父さんは大きくて、温かくて、すごくおおらかな顔立ちで、真っ赤な髪をしていて、細い目は俺に、似ていた…。


「ぅぅ……」


俺はしばらく父さんに抱きしめられたままだった。離したくなかった。


だけど、そういうわけにはいかない。

父さんの家族に俺の存在がバレたら、父さんもあの家族も無茶苦茶になってしまう。そんなことは俺も望まない。そんな物分りのいい子供になり下がった。だって、また捨てられたら…そう思ったら、怖くなって、いい子になるしか出来なかったんだ……。


父さんはそれから、家族に内緒で俺に会ってくれた。バレないようにわざわざ隣国まで行って、レストランに入って話をしたんだ。


「やっぱり、ティーニアと俺の子か…」

「うん」


俺が鑑定書を差し出すと、父さんはふっと笑っていた。


「こんなの、どうやって調べた?」

「えっと、透過結界って術があってね……」

「結界術が使えるんだな」

「呪術も使えるよ」

「それはすごいな…」


父さんに褒められるのが嬉しくて、俺はベラベラと使える術の自慢なんかをした。父さんは楽しそうにその話を聞いてくれた。


「いや、驚いた。ティーニアは、子供は死んだと言っていたからさ…」

「施設にいたんだ…ずっと…」


俺は嬉しくて、似合わずいい子ちゃんになってた。

話したいことがたくさんあって、何時間あっても足りないと思った。


父さんが、ご飯を左手に持った箸で食べているのを見てハっとした。


「父さん…左利き……」

「ああ、うん」


俺も、左利きだった。それを見て俺は、ものすごく嬉しくなったんだ。


「お前もか!」

「うん……!」


父さんも俺が左手に箸を持つのを見て、ふふっと笑った。


幸せな時間だった。

俺は自分がどんな術が使えるかや、施設で会ったマキのことなんかも、全部父親に話した。俺の全部を、聞いてほしかったんだ。


父さんはずっとニコニコと笑っていて、俺も同じように目を輝かせながら笑顔を浮かべていた。


「そういや、名前はなんだ?」

「シルバ……」

「ティーニアがつけたのか?」

「ううん。施設の先生」

「そうか」


父さんは俺の頭をくしゃっと撫でた。


(あ……)


俺は言葉にできない高揚感に身を包まれた。


「また会おうな。シルバ」

「うん……」


父さんとまた会う約束をして、俺は顔には出さなかったが、ものすごく浮かれた気持ちでその場を去った。


家はない。金もない。けど俺には、術がある。

透過結界で空いている宿の部屋を勝手に使うもよし、呪術でテントを張って野宿するのもよし。まあ前者は犯罪と一緒か…。


俺は呪術の方が苦手だった。ただでさえ呪人を1体出しっぱなしにしている。だからその頃の俺にはテントを生み出すのがやっとだった。家はうまく建てられないのだ。


まあでも今日は星もきれいだから、外で野宿しようと思って、黄色いテントを出すと、その天井を透明に変えた。テントの中から、満点の星が見えた。


(綺麗だなあ……)


父さんと話をしたことが嬉しすぎて、俺はこれ以上ないくらい幸せな気持ちになっていた。

母親とは話す気にはなれなかったんだけど、父さんとはもっと話したいなんて思っていた。


家族って……いいなあ……。


同じ家で暮らしたいなんて贅沢なことは言わない。この世に家族がいる、ただそのことがこんなに幸せなんて…。


(マキに会いてえなあ……)


本当は俺を捨てたクソみたいな両親を見つけたあと、笑い話にして聞かせてやるつもりだった。だけどやっと見つけた父さんはなんていうか、すごくかっこよくて、俺はマキに、自慢話をしたいと思っていた。


マキに会いに行こうとした日もある。だけど彼女は留守で家を開けていて、その顔を見ることもできなかった。


まあ焦ることはないかと、俺は父に会える日を楽しみに、何日か過ごした。そしてやっと約束の日になると、父さんの呪鳥が手紙を持って俺のところにやってきた。そこには父が示した集合場所が書かれていた。


その日は雨が降っていた。だからといって気分が沈むはずもない。俺は意気揚々とその場所に向かった。


ビジネスホテルの一室だった。なるほど、俺と会ってるのをバレないようにするにはちょうどいい。何号室だったかはもう忘れたけど、俺はその部屋に向かった。


コンコン 


「どうぞ」


父さんの声がして、俺は扉を開けて部屋に入った。奥のソファに座っている父さんの姿を見つけて、俺は目を輝かせた。


「父さん……!」

「シルバ、よく来たね。そこに座りなさい」

「うん!」


俺は意気揚々と、父さんの指したソファに腰掛けた。


「そういやシルバ、俺の仕事知ってるか?」

「え? えっと…領地の転売とか、管理とかでしょ…」

「そうそう、よく知ってるね。俺は貴族だからね。金は勝手に入ってくるの。基本暇してるわけ。そこで俺はさ、個人的に今研究してることがあるわけだ」

「うん……?」


(何の話だ……)


と、俺が思った時には遅かった。


(え……?!)


俺のソファの足元が急に光りだした。


(魔法陣……?!)


「と、父さん……?!」

「うん?」


俺が父さんの顔を見た時、父さんは笑っていた。その笑顔は、狂気じみていた。


「シルバ、君のことはもう俺が服従したよ。わかるね」

「な…何で……?」


服従の紋をはめられた。完全に油断していた。これをはめられたら最後、主人の命令は、どんなものでも、絶対だ。


「多術師の身体にさ、興味があるんだよね。過去の見聞じゃ、多術師は突然変異した術を使えるようになるらしいよ」

「は……?」

「いや、わかんない? お前は俺の実験のために作った子だよ」

「……」


俺の顔はどんどん青ざめていった。父さんの顔は恐怖を覚えるほど酷く笑っていた。


「その中にはね、死者を蘇生させる術なんてのもあったらしいよ」


そう言って父さんは、俺の前に研究のレポートノートを広げてぽんっと置いた。


そこには何人もの子供の名前が書かれていた。横にはその子の突然変異術が何なのかが書かれていた。

これは彼の、実験結果なのだろうか。


何人かの子供は、2重線で消されている。


そして、最後の欄にはシルバの名前があった。突然変異術の欄は、空欄だ。


「シルバはどんな術が使えるのかな〜?」


父さんはニッコリと笑って俺を見ていた。


俺の父親は呪術師。エーデル大国に住む貴族の男だ。

そして今この瞬間から、彼が俺のご主人様だ。


彼の名前は、ゴルド・ダドシアンだ。


















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