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対戦・レノン

シルバの身体に電流が走った。背後に一瞬で現れ、放たれたレノンの攻撃にも反応し、前方に飛んでそれを避ける。そのままバク転して体をひねると、レノンに向き合う体勢をとる。そんな動きがシルバにできるわけがないと、シルバもわかっている。身体が勝手に動くんだ。身体が勝手に、レノンと戦うことを望んでいる。


シルバは腰の剣を右手で抜いたあと、左手に持ち直した。そのままレノンに真正面から向かっていく。


「へえ、左利きかぁ! 僕と同じだね!!」


レノンも左手に持った黒い剣をかざしてにこやかに笑う。


(何だこれっ……身体が勝手に…)


自分でも目で追えないくらい、自分が速い。気付いたらレノンが目の前にいて、左手が剣を振った。カキンと高い音が響き渡る。レノンが剣を受けた。腕が次々に攻撃を繰り出し、何度も刃がかち合う音がする。この速さの剣を受けるなんて、レノンは只者じゃない。何が起こっているのかはほとんど見えなくてわからないけど、それだけはわかる。


しばらく剣をかち合わせた後、レノンの姿が消えた。まただ…と僕は思った。レノンは瞬間移動できる。速すぎて見えないわけではない。完全にワープしている。そんな術は聞いたことがないけれど。


レノンは僕の後ろをとってまた剣を振ったけれど、僕はバチバチと電気を発しながら横に飛び退いた。そのあとすぐに、レノンに向かって雷を落とした。レノンはそれを横っ飛びに避けていく。僕は5連発くらい雷を撃ったけれど、レノンはそれを異様な跳躍で、片手の側転を踏まえながら飛んで避けていく。


(強え……何でシルバにあんな動き……)


イグも視界に入る範囲で、2人の戦闘を目で追っていた。


そういえばマキが初めてシルバと戦った時も、あんな動きをしていたな…。俺が作った呪人だから天才なのかと思っていたが、それ以来のこいつは本気でポンコツだった。だけど今も、この動き…。とにかく速すぎる。静止からの加速が異常だ。神経の反応速度を電流で向上しているのか…? いくら雷の力を手にしてるからって、そんな芸当があいつに出来るのか…?


「あっははは! 凄い凄い! 楽しいねぇ!!!」

「どうしてレノン君が?! 君は本当にレノン君なの?!」

「そう言ってるじゃん! 顔見たらわかるでしょ!」


レノンは雷を避けながら、シルバに距離を詰めた。シルバの近くにいれば雷攻撃はされない。自分も巻き添えになるからね!

レノンの動きは柔軟だった。シルバの雷速を避ける動作は非常にしなやかだ。

シルバの横振りを頭を真後ろに落として足だけで踏ん張って避けると、そのまま右手で逆立ちしたまま、身体を捻って蹴りを食らわせた。シルバが身体を反らして怯んだところに、すかさず隠し持っていた短剣を投げつけた。シルバは身体から放電して短剣の軌道をそらした。

互いに未だノーダメージだ。先に傷を負えば圧倒的について不利になる。攻防は緊迫している。


「やるねぇ! 楽しいねぇ!」

「何で僕たちを殺しに来るの? 何で魔族の味方をするの?」


シルバは自身の身体に完全に動きを委ねた。彼がその意思でできることは、レノンと会話をすることだけだ。


「質問ばかりだなぁ! 頭使わせないでよぉ!」

「なら攻撃を止めて! 話合いをしようよ!」

「嫌だよそんなの! 殺し合いの途中に話し合いなんてするわけない!」


レノンは再び姿を消した。


(またっ……)


消した後はすぐに死角をついてきた。また同じように死角から狙ってくるかもしれない。だけど僕の身体はその攻撃に反応できる。焦るな…反射に任せればいい。


シルバは心臓をかち鳴らしながら次の攻撃を待つ。しかしなかなかレノンは現れない。


(時間差で来るのか……?! 逃げるわけない……まだだ…まだ……)


シルバはレノンの攻撃を警戒する。全神経を集中させ、もう数分くらいは経過したはずだ。なのにまだ現れない。1分が驚くほど長い。


シルバはゴクリと息を呑んだ。


すると、背後から白い矢が飛んできた。何度もシルバたちを襲ったものと全く同じだ。


(来たっ…!!)


集中は切れていない。すぐに反応して、振り向き様に矢を避ける。しかし攻撃を避けたあと、一瞬隙が生まれた。


「シルバ!!」


イグは叫んだ。


レノンは彼の隙を逃さない。再びシルバの零距離に姿を現すと、剣を突き刺した。


(間に追わなかった…?!?!)


剣はシルバの腹部に突き刺さった。心臓を狙われていたがかろうじてそこまで避けた。レノンはそのまま剣を力強く横に斬り入れて、腹部をえぐりながら剣を抜いた。シルバの血が勢いよく舞った。それは呪人特有の、紫色の血液だ。


確かに僕自身もちょっと油断していた。だからってもっとうまく避けられたんじゃないのか。身体任せでこんなこというのもあれだけど。


ああ……やばい……痛すぎる。

痛覚なんていらないよ…イグ……


シルバはお腹を抑えて膝をついた。痛みに顔をしかめながら、顔を上げてレノンの顔を見る。


「うん! うまくいった! ごめんね長い間待たせちゃって!」


よく見ると、レノンがシルバに刺した剣は、先程の黒い剣ではなかった。元々夜の暗がりで見えづらいが、明らかに刃が長いし、月の光でギラつくその刃は銀色だ。


「これね! 知ってるでしょ、流星刀! 君らの武器庫からちょっと借りてきちゃった。いい切れ味だね! 血で汚れちゃったし、もらっていい?」


鉄6割と鋼4割で打たれた剣だ。そしてその金属で出来た流星刀は、強く電気を引きつける。


(僕の電流を引き寄せたのか…。それで反応が遅れたに違いない…)


レノンのワープ能力。飛距離も異常だ。あの数分の間にエーデルの武器庫まで行って取ってきたというのか。


腹の痛みは異常だが、驚くほど頭が回る。普段からこのくらい頭がよくあってほしいよ。


そしてシルバはハッとした。


「マキを誘拐したのは君だね…?」

「ああ、うん! そうだよ!」


レノンは毅然とした態度で微笑む。シルバは愕然とした。


「さっきの質問にも答えよう! 君たちを殺すのは、君たちが気に入らないからだ。僕の居場所を奪った君たちが!」

「え…?」

「魔族に味方するのは、魔族が僕が助けてくれたからさ! 魔族は僕に居場所をくれた。ついでにワープ(こんな)力もくれちゃって、頭が下がるよぉ!」

「居場所を奪ったって、どういうこと……?」

「あれ? シルバに聞いてないの? あ、シルバってこっちね」


レノンは木の上のイグを指さした。


「何の話……?」

「あれ。知らなかったの? 何で僕が死んじゃったのか」

「……?」


イグの顔が青ざめた。シルバもそれに気づいた。


「あれ! もしかして何にも知らないのか! そっかそっか! あ、もしかして、彼には何も言っちゃいけないって命令でもされてた?」


レノンは上を見上げながら、イグに問いかけた。イグは茫然自失とした態度だ。


「でももう、話しても大丈夫でしょ! 僕らのご主人様、この前死んじゃったからねぇ! 後継人も選んでなかったらしいよ。死ぬなんて思わなかったんだろうね! あは! あはは! あはははは!!」


レノンは1人大笑いを始めた。壊れたような狂気的な笑みだ。

シルバは何の話か、全く持ってわかっていなかった。


「せっかくだから死ぬ前に教えといてあげようか? 僕ねえ、そういう無駄なこと好きなんだ。まあある意味無駄でもないと思うの。だって、どうして僕に殺されるのかも、何もわからないままなんて、何だか可哀想だしね」

「やめろ……」


声を発したのはイグだった。


「うん? 話したくないの? でも嫌だよ。僕はもう話すって決めたんだ。面白おかしくね! ふふ!」

「俺が話す……。俺の記憶を……シルバに渡す……」

「ああ、そうしてくれるの? それは名案だ。その方が彼もよくわかるよ」

「イグ、何のこと…?」


シルバは不安そうにイグを見つめた。


そうだ。イグは最初から、レノン君のことを知っていた…。

僕が騎士団に入ってからは、イグはずっと僕のそばにいた。僕はレノン君に会ったことなんてない。


僕と会う前、イグはレノン君に会ったんだ…。

レノン君が、死ぬ前に……。


イグは観念した様子で、シルバに記憶を与えた。

自分が隠していた全ての記憶だ。


僕は驚いた。イグは僕を作る前に、マキとあの施設にいたんだ。

僕が作られたのは、マキが出ていった後だったんだ。


イグはマキとの記憶を隠していたんだ。

生まれたばかりの僕の記憶は、何かが欠けているような気がしていたんだ。


そしてその先の話で僕が聞いたことなんて、彼の記憶のこれっぽっちも埋まっていなかったんだ。


そうか。僕は何も知らなかったんだ。

イグは僕に、何も教えてくれていなかったんだ。


そのことをまず、実感した。






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