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警報

シェムハザは1人、魔王の宮殿に囚われ、取り残されていた。


(頭が割れそうだ…この憎悪…。これが今や魔王様の力の根源だという…)


堕天使になったシェムハザは、自分の中に生まれたその愛情を持って、魔王の憎悪に耐え抜いていた。


(これに飲まれたら最後、魔王様の操り人形になって、私は人間を殺すに違いない…絶対飲み込まれるものか……)


魔王様とアルテマは、シピア帝国を襲わせるために、他の魔族のところに行ってしまった。

私の手足は鎖で繋がれたままだ。


(このままじゃフェンが……あの国が……)


カシャン カシャン


どんなに力を入れても、この鎖を外せはしない。

彼女の頬は魔王に何度もぶたれて腫れ上がっていた。


ピクっ


「っ!」


お腹の中で赤ちゃんの胎動を感じた。


(よ…良かった……生きている……うう……)


「ごめんね……ごめんねぇ……」


早く助けに行かないと…。


シェムハザは乱暴にその鎖を引っ張ってはガシャガシャと音を鳴らす。


「くそぉっ!!」


泣きそうになりながら歯を噛みしめるシェムハザの前に、誰かがやって来る。


「え?!」


すると、突然シェムハザの影が浮かび上がって刃物のように伸びてきたかと思うと、スパアンと鎖を斬り裂き、シェムハザは解放され、地面に落ちた。

シェムハザの前に姿を現したのは、見慣れた悪魔だった。


「カルベラ…」

「だから言ったさ。関わるなと」

「ううっ……」


シェムハザは我慢していた涙がブワッと溢れた。


「シェム、魔王様を裏切るのか」

「うう……ぐすっ……」


シェムハザは立ち上がると、ボロボロになった姿でカルベラを見つめる。


「フェンのところに行く…」

「そうか……なら、好きにしな」


シェムハザは灰色の翼をはためかせて空を飛びあがった。


「ありがとう、カルベラ」

「もう二度と助けやしないよ」


シェムハザは急いでその要塞から飛び出した。


(やれやれ……)


シェムハザが見えなくなると、カルベラもまた生界に戻ろうと翼をひらいた。


「カルベラ、待ちな」


アルテマがシェムハザの様子を見ようと、魔王の宮殿にやってきたところだった。

シェムハザを逃したカルベラを見つけると、彼の前にやって来た。


「…お前、誰さ」

「私の名はアルテマ。魔王様に仕える堕天使さ」

「堕天……」


カルベラは見知らぬその堕天使を睨みつけた。


「そこをどけ、アルテマ」

「どこに行くつもりだ?」

「お前に言う必要などないさ」


すると、アルテマはカルベラに向かって炎の球を投げつけた。

カルベラはさっとそれを避ける。


「いきなり何する」

「シェムのところに行くんだろ? 行かせやしないよ。そんなことより遊ぼうよ! 強い奴と戦って試したいんだ、この力をっ!!」


そう言って、アルテマは、カルベラに向かって新たに会得した黒光りの球を投げつけた。




大きくなってきたお腹をさすりながら、シェムハザはその地獄のように淀めいた空を抜けて、シピア帝国に急いだ。


フェンモルドがいるはずの研究所に一直線に向かっていく。


「フェン!」

「ど、どうした? シェム…血相変えて」

「魔王が……魔王がこの国を襲わせようと、魔族を差し向けている!」

「はあ?!」


周りにいたラミュウザやヒルカたち研究者も、その発言に耳を疑う。


「なんで突然そんなこと…」

「私のせいだ…。私が人間との子供を作ったから…」

「何が悪いんだよ。ていうか魔王なんて本当に存在してんのか?」

「魔王は神と対を成す存在だ。我々魔族を産んだのは魔王だ。魔王は愛ってやつがめっぽう嫌いでね、つがいで子供を産み、愛を慈しむ人間のことは特に大嫌いなんだ」

「んだよそれ。そんな事言われても…」

「とにかく! この研究所が1番危ないのさ! 皆もさっさとここから…」


ファンファンファンファン


シピア帝国中に警報が鳴り響いた。


「け、警報?!」

『国外四方から魔族の襲撃あり。騎士団及び術師は城に集合せよ。速やかに迎撃体制をとる。住民は城内に避難せよ。繰り返す。国外四方から魔族襲撃あり……』


警報と放送を聞いた研究者たちはざわつきながら、持てる限りの研究材料を持って、城へと避難を始めた。


街の外も非常に慌ただしい状況になっており、住民は一目散に城へと走っていく。


国王たち王族は城内及びその外に、防御能力を付加した防空壕を呪術で建てていく。

住民たちはそこに次々と入った。


(どうなってんだよいきなり…!!)


フェンモルドも突然のその状況に混乱するまま、シェムハザに手を引かれて避難していく。


そこにはたくさんの住民たちがいて、非常にざわついていた。


魔族の襲撃は確かにこれまでにもあったが、それはかなり昔の話だ。フェンモルドの世代じゃあ、避難など初めてだ。


ヒルカとラミュウザは、自分たちの長寿計画が引き金になった可能性があると、王族に伝えた。

この計画は、王族が可決したものであり、国王たちも長寿を夢見て、研究者たちにたくさんの支援をしてきた。


「何を今更! 魔族の神、魔王じゃと?! 神は1人じゃ! 神の子供、人間に歯向かうとは! 魔王共々、我がシピア軍が蹴散らしてくれるわ!!」


国王は強気だった。

騎士団長レグリーに指揮を取らせると、集まった騎士団と術師たちに速やかに命令をし、国の防衛及び魔族の駆逐を言い渡した。


「この国で好き勝手できると思うな? 野蛮で無知な魔族め…!」


あっという間に騎士団と術師たちは四方に散らばっていく。


(リル……気をつけろよ……)


フェンモルドは祈るように、騎士として戦場に向かっていく弟を防空壕から眺めた。



(どうなってんだよ! ったく!)


リルイットたち騎士団は、シピア帝国を襲撃する魔族の群れに対抗すべく城前に集合した。


(シェムは…どうなったんだ……)


リルイットの目の前で謎の魔族に連れ去られたシェムハザ。

そのことを話すと、フェンモルドは発狂しながら泣いていた。


あの悪魔のような魔族……只者じゃなかった。

異常なまでの殺気……あれがもしかして……


魔王……なのか………?


「リルさん……」

「ウル…」


集まったのは騎士団とその他国に雇われた術師たちだ。

ウルドガーデもまたそこに同じくして、やって来ていた。


「よお、何か街の外がヤバイらしいぜ」


ベンガルもやってきて、リルイットとウルドガーデに声をかけた。


すぐにレグリーに指揮され、リルイットは街の南区、ウルドガーデとベンガルは北区に分担され、魔族の迎撃を命じられた。


「わかんねえけどさっさと片付けようぜ」

「行きましょう!」


ベンガルとウルドガーデは颯爽と北区へ向かっていく。


ウルドガーデはちらっとリルイットの方を振り返った。


(どうしたんでしょう…リルさんいつもと様子が違いますが……)


しかしまもなくリルイットも南区に向かって駆け出したので、2人はそのまま分かれて迎撃体制に移った。



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