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ロッソ、墜落

「なっ……!!」


マキもまた、ロッソに振り落とされたが、羽を生やすとロッソの顔を垣間見た。ロッソの目は赤く充血していた。完全に我を失っている。


(バーサク?!)


「おい! 皆落ちてくぞ?!?!」

「この高さから落ちたら全滅だ!!」

「助けないと…!!」

「おい! リルイット!!」

「リル!!」

「わかってるよ!!」


大きな叫び声をあげながら、物凄いスピードで騎士たちは下に落ちていく。リルイットは全速力でロッソの場所まで飛んでくると、その炎を巨大なクッションのように着陸地点に広がせた。


北と西の騎士たちはそのクッションにキャッチされ、何とか死を防いだ。


「どうなってんだ?!」

「ちょっと!! ロッソが!!!」

「っ!!!」


ロッソは明らかにこちらに敵意を受けている。


「おいあれ……」

「似ています! ブルートロールが私達を襲った時と!!」


ロッソの状態を見て、アデラとラスコもそれを察した。


(強化剤αを飲まされたのか?!)


さっきまで俺と呑気に会話してたんだぞ……?!

ここに着いた瞬間に……?!

一体……誰が……?!


(誰かがロッソに薬を打った…!)


そんなことができるのは……ロッソに乗っていた奴だけだ…。

俺は落ちていった北と西の騎士たちを見下ろした。皆俺のクッションで一命はとりとめたが、俺がいなかったらあいつら……全滅していた?! そんなことしたら…薬を打ったやつだって危険なはず……。


そんな自殺行為で薬を…? いや、自分は生き残れる自信があったのか…?


『服従しているんだわ。もし人間を襲ったら、この鳥は死ぬんだわ』


そんな風にラッツが言っていたのを思い出す。


「…!!!」


ロッソと騎士たち、まとめて殺す気だったのか?!


(ロッソ! 駄目だ!!! 人間を襲ったら……!!!)


俺はロッソにテレパシーを送るが、まるで聞こえちゃいないようだ。


「グワアアアア!!!!」


ロッソは目を真っ赤にして、異様に殺気立っている。

マキはロッソの顔の高さに飛び上がったまま、その羽をゆっくりと羽ばたかせ、ロッソを垣間見る。ロッソはもう一度咆哮を上げた。


ロッソはマキに炎を吐こうと試みた。その瞬間、ロッソは大きく目を見開いたあと、クラっと意識を失って、そのまま墜落した。


「ロッソ!!!」


(嘘だろ……?! ロッソ……)


ロッソとの思い出は、夢のような記憶だった。


君は俺を友達だと言っていたけど、俺はそんなの、覚えてないよ。


『私の力を……使ってください………スルト!!!』


だけど俺は確かに、君の炎を譲渡された。

それはまるで呪われたような闇の力だったんだ。でも俺の身体は、君の火をすんなり受け入れた。


『スルト』


ロッソがスルトに笑いかけたあの微笑む顔を、その呟いた時の穏やかで透き通るような声を、俺は、覚えている…。


(ロッソ…っ!!!)


ロッソは自然界のその大きな湖のほとりに墜落した。微動だにしない。


ロッソが……死んだ………。


バシュウウウンン!!!


俺が呆然としていると、突然マキに向かって矢が放たれた。しかしマキは瞬時にそれを察し、その刀で矢を弾いた。マキは目を見開き、こちらを睨んでいる。射ったのは、俺のお友達だ…。


「おいアデラ!! てめぇ何やってんだよ!!」


ゾディアスは顔を引きつらせて彼を睨んだ。


バシュウウンン!!

カキン!!!


アデラは再びマキに矢を放った。


「だから、何やってんだよ!! マキさんを射つなんて何考えてんだ!!」

「あいつが裏切り者だ」

「はあ?!」


そうだ……ロッソに薬を射った奴がいる。

そいつは確実に裏切り者だ。しかもわざわざこの場所で。

エルフと共闘している可能性が非常に高い。


アデラはびしっとマキを指さした。


「墜落死を自分の能力で免れたのはお前だけだ。お前がロッソに強化剤を飲ませたんだろ?」

「はあああ?!?!」


ゾディアスは声を荒げた。他の皆も不審そうに、アデラとマキを交互に見据える。


「裏切り者がいる可能性は私も勘付いていた」


マキは言った。


「でも私じゃない」

「だったらそいつも、自分が自殺する気で薬を打ったってのか?」

「いや、この高さから落ちても死なないやつは他にもいる」

「はぁ?」


すると、下から「うわああああ!!!」という叫び声が聞こえた。先ほど落ちた騎士たちのものに違いない。


バシュウウウンン!!

バシュウウウンン!!


「なっ…!!」

「エルフだ!!」


上から自然界を見下ろした東と南の騎士たちは、下の騎士たちを襲っているのがエルフたちだと気づいた。


「ちっ!」


マキは舌打ちをすると、その羽を駆使して高速で降りていく。


「リル! 私達も!!」

「わかってる!!」


ラスコに声をかけられ、リルイットも騎士たちを助けるために降下した。


バシュウウンン!!

バシュウウンン!!


矢を打っている数人のエルフが崖の上にいるのを見つけた。もう数人の騎士たちがエルフに射たれてやられてしまっている。


バシュウウウンン!! バシュウウウンン!!


アデラもエルフに向かって矢を射った。グサっっと一体のエルフを仕留めたが、他の矢は避けられ、こちらに気づいたエルフたちも羽を広げて空を飛ぶと、木々の生い茂る自然界の中へと姿をくらました。


「うわあああ!!!」


そうこうしているうちに、先に落ちた騎士たちが次々にやられていく声が聞こえる。


「くっそ! 完全に迎撃されてやがる!!」

「俺らが来ることを知っていた。裏切り者はエルフと共闘している」


アデラは言った。


(確かに…その推理は合ってるはずだ…!)


だけど…本当にマキさんなのか?

飛術で空を飛べるのは彼女だけ。一見すればこの状況になれば彼女が怪しまれる。でもそれが単純すぎて合点がいかない。彼女を陥れようとしているように見えるのは、俺だけか?!


「リルイット! 降ろせ!!」

「ゾディアスさん! ここでバラバラになるのは危険です!!」

「空からじゃエルフを殺れねえだろうがよ!! もう数人やられてんだぞ! 行くぞお前ら! 俺たち南軍で全員ぶっ殺すぞぉ!!」

「うおおお!!!」

「ちょっとっ!!!」


ラスコが止めるのも聞かず、ゾディアスを筆頭に南軍騎士たちはリルイットから飛び降りると、エルフの討伐に向かってしまった。


「まずいですよリルさん!! 計画が無茶苦茶です!!」

「んなこと言ったって!」


バシュウウウンン!!


「うわっ!!」


リルイットに向かってエルフの矢が飛んできた。


「この姿は目立ちすぎる! あの矢がかすれば、お前も術を使えないんだぞ! 一旦変身を解け!!」


東軍の騎士にも命令され、やむなくリルイットたちも、自然界の森の中に降り立つと、その姿を解いた。


「ったく……どうなってやがんだ……」

「こんなの予定にないっちゃ!」

「全くです……マキさんもどこかに行ってしまいましたね…」

「い、一旦退却した方がよくないですか?」

「馬鹿野郎! 他の騎士たちを見捨てることになるぞ?」

「パールは自分のことしか考えてないっちゃ?」

「だ、だってぇ〜」


その森に降り立ったのは、リルイット、ラスコ、アデラを含めて、東軍騎士が8名。俺たち以外の男5名もラッツの推薦した騎士たちで、俺たちよりも先輩だ。


バシュウウウンン


「っ?!」

「危ないっ!!!」


突然飛んできた矢は、リルイットを狙っていた。しかしそれをペルゴという騎士がかばって、その腹に矢を受けた。


「ペルゴさん……!!」


リルイットは愕然とした。


敵の姿はまるで見えない。ペルゴはそのまま倒れて意識を失った。


「う、う、嘘……」

「ペルゴ……!!」

「ここに固まっているのは危険です!! ここから離れて…!!」

「ペルゴはどうすんだ!!」


バシュウウンン!

バシュウウウンン!!


「またきた!!」

「は、は、早く逃げないとっっ!!」


ラスコは植術を使うと、ペルゴを木で囲うようにして覆い隠した。


「あとで必ず助けに戻ります!!」


バシュウウンン

バシュウウンン


エルフの連撃は止まらない。


「くそっ……!!」


俺たち7人は、森の奥へと駆け出した。


「ったく……どこから射ってやがるんだ、あのエルフ共…!」


金髪をたたせたガタイのいい、見た目30代のこの男は、サリドマ。東軍騎士の選抜者の中では1番ベテランだ。腕っぷしに自信があるようで、毎日筋トレは欠かさず行っている。背中に背負った大剣は、重さが15キロもあるようだ。


「や、や、やっぱり撤退したほうがぁ〜!!」


やたらと逃げ腰な性格のこの男はパール。明るい茶髪のショートヘアで、大きな丸眼鏡をかけている。常におろおろしていて、大変小心者のようだ。何で選ばれたのか不明だ。そういやこいつ、武器持ってないけど、どうやって戦うんだ…?


「新人の前で情けないですね…。それでも僕より先輩ですか?」


落ち着いた見た目と口調の、灰色のロン毛のこの男はティムール。新人以外の騎士たちには、割と当たりが厳しい。腰には長剣がささっている。俺と同じ剣士のようだ。


そういや俺、この前剣を折っちまって、エーデルナイツの常備している長剣をもらったんだ。だからこのティムールのとお揃いな。


「パールは情けないっちゃ! でも大丈夫っちゃ。僕がエルフなんて滅多打ちにしてやるっちゃ〜!!」


最後に、この変な口調の、猫目の男、名前はミント。薄い黄緑色の髪は肩を超える長さで、矯正をかけたみたいにサラサラしている。その腕に何個も身につけている大きなブレスレットみたいな輪っかの武器は、月輪と呼ばれる珍しいものだそうで、騎士団の中でも使っているのは彼だけだ。


とまあ、俺も2日前に覚えたばかりで、どいつが誰だっけと名前を忘れそうになるが、頼れる先輩たち…のはずだ!!


「皆さん! 止まってください!」

「うん?」


ラスコに声をかけられ、皆は足を止めた。


「どうしたラスコ」

「索敵をしました。こっちにはもうエルフはいません」

「わかるのか?!」

「はい」


そして俺の最高に頼れる仲間…!! ラスコ・ペリオット!!


「お前、術師なんだっけ?」

「はい。とりあえず半径5キロを調べました。また索敵範囲を広げて、見つけ次第報告します」

「おお!! 敵の場所がわかんのか! 絶対勝てるじゃん!!」

「本当に信用できるっちゃ?」


ラスコは北東の方角を指差すと、「1番近いエルフは2匹、5キロ先です」と言った。


「よし! この戦争、俺達の勝ちだ!!」

「サリドマ、油断は禁物ですよ」

「わーってるって! 久々の大仕事だ! 腕がなるぜぇ!!」

「こ、こ、攻撃してきたら…すぐ教えてね! ラスコさんっ」

「はい! 次からは把握できます! すぐにお伝えしますよ」

「こ、こ、心強い〜。と、東軍で良かったぁ〜」

「本当に情けないっちゃねぇ!」

「こちらにはまだ気づいていません。近づけるところまで近づいて、不意打ちを仕掛けましょう!」

「おおー!!」


東軍の俺たちは、意気揚々とエルフ討伐に進みだした。先行く先輩たちの後ろに、俺とラスコとアデラはついていく。


「ラスコ、マキさんの場所はわかるのか?」

「それが、一度は場所を掴んだのですが……あまりに移動が速すぎて…植術では追いきれなくて…」

「そっか」

「とりあえず敵が多いですから…仲間の動向までは把握できません」

「わかった。そのまま敵の場所を把握してくれ」

「はい!」


もちろんエルフたちも常に移動しているから、距離を詰めるのは慎重にだ。


「ストップ!」


ラスコの声で、皆は足を止めた。


「あそこです……」


森の木々の合間をぬって、2匹のエルフがいるのを全員が把握した。


「すげえ! 本当にいやがった」

「ラスコ! あんたすごいっちゃ!」

「こちらには気づいていませんね」

「ほ、ほ、本当に僕たちだけで大丈夫かなあ……」

「俺が行く! お前はそこで突っ立ってろ」

「ボクも行くっちゃ!」

「新人たち! 援護はお願いします!」

「き、気をつけてください!!」


サリドマ、ミント、ティムールの3人は、その2匹のエルフたちに向かって駆け出した。

















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