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エルフの里へ

「アデラ様!! 起きてください!!」

「うぅ〜ん……」

「選抜隊の集合時間に間に合いませんよ!! 早く起きてください…!!」

「うぅぅ……」


祭りの2日後の早朝、リネに起こされ、アデラもエルフ討伐部隊の集合する城前の広場にやってきた。広場には既に何人もの騎士たちが集まっている。


「よぉ! アデラ!」

「何だ、お前か」


例のハンマーを片手に、意気揚々とゾディアスがやってくると、アデラに声をかけた。


「いや、俺は南軍のリーダーなんだからな?! 立場わかってんのか〜?!」

「俺は東軍だ。お前の部下じゃない」

「いや、そうだけどよぉ……」

「そういや、ラッツは待機だと聞いたが」

「まあ城を守る奴も必要だからな。術師はエルフにエネルギーを取られたら終わりだ。能無しお荷物になる。だから攻撃の基盤は俺達特攻隊。術師はあくまで援護だ。って、2日前の選抜会議の時も言ってたろ?!」

「知らん。寝てた」

「いや、そこは寝たらいかんだろっっ!!!」


すると、リルイットとラスコも2人のところにやってきた。


「おはようございます、ゾディアスさん」

「おはようございます…」

「おう、ルーキー共。今日の仕事は下手すりゃS級だぜ!! まあこの俺がいりゃあ、エルフなんてひょろひょろ、大撲殺してやるけどな! てめえらも油断すんじゃねえぞ!」

「お前もな」

「っ!!」


ゾディアスがぎょっとして後ろを振り返ると、マキが立っていた。通常運転の鬼の形相だ。


「わっ、わかってますよ!! マキさん!!」

「ふん。ならさっさと南軍選抜を統率しろ」

「はいっ! 今すぐに!!」


どうやらゾディアスもマキには頭があがらないようだ。一目散に南軍選抜隊の統率に向かった。


マキはリルイットたちに向かって言った。


「動きは会議で言った通りだ」

「わかってます!」


ラスコとアデラもうんと頷いた。


エルフ討伐隊は各軍の精鋭が集められた。東西南北の選抜各8名にマキを加えた33名だ。マキ以外は知らないが、イグも姿を隠したままこの討伐隊に参加している。なので実際には34名である。


「西軍は全員揃いましたよ〜」

「ミカケさん!」


リルイットが彼の名を呼ぶと、ミカケもにっこり笑いながら軽く手のひらを振って、リルイットに挨拶をした。


リーダーで参加するのはミカケとゾディアスの2人だ。シルバとラッツは万が一に備えて、城の防衛と待機を仰せつかった。


リーダー以外の騎士たちは、会議で会うまでほとんど名前も知らなかった。西軍騎士たちは、ヒドラ討伐の際に見たことがあるような奴の気もする。東軍の5名とは、会議の時に挨拶を済ませた。術師はいない。全員ラッツ推薦の、凄腕の騎士だ。


攻め入る時間はエルフの半数が狩りに出ていく朝の9時頃。人数が減った隙に、まずは里に待機しているエルフを、子供や年寄り構わずまとめて殺す。


その後、狩りに散っているエルフたちを、東西南北8名のチームに分かれて捜索後、人数多数で優勢になるように囲って殺す。


奴らの武器は弓矢だ。近距離戦に持ち込めば、負けることはない。


盗み返された魔族強化剤を使われる可能性ももちろんある。バーサクしたエルフは、騎士団一の強さを誇るマキが討伐する約束だ。見つけ次第手を出さず、無線でマキに連絡する決まりだ。


里の周りに生やされたバクト・ツリー対策ももちろん済んでいる。参加者全員に、エルフたちが着けていたものと同じ黒いマスクが渡された。今日のために、研究者たちがドワーフと協力し、大量生産したのだ。


「どっちが多く殺せるか、勝負すっか! ミカケ!」

「望むところや! 西の強さ、ちゃーんと見とき」


そういえば、ゾディアスさんとミカケさんは元より仲がいいみたいだ。ミスコンも一緒に見に来てたしな。


「お前ら、真面目にやれよ」


マキに一喝されて、2人は背筋をぴんと伸ばした。


(まあ、こんだけ強い奴が集まれば、エルフ30匹くらい倒せるだろ。奇襲を仕掛けるのもこっちだしな)


ゾディアスさんはS級だなんて言っていたけど、そこまでエルフは強いのだろうか…? 

アデラがやられたのもバクト・ツリーのせいだしな。種がわかりゃあ引っ掛かったりしない。

ミカケさんたちが盗ってきた情報のおかげで、里の形状や周りの自然との位置関係も頭に入っている。実際に行くのとは違う部分もあるだろうが、こっちは入念に対策を生じている。奴らのテリトリーだからって、負けはしない。奴らの矢にさえ気をつけていれば、元々倒せないような相手じゃないはずだ。


バサっ バサっ


空から飛んできたのはロッソだ。


「皆〜! 気をつけてね〜!!」


城の塔からシルバが顔を出すと、騎士たちに向かってにこやかに手を振った。


北軍の精鋭たちは、友達のようなノリで、彼に手を振り返していた。本当に威厳のないリーダーだ。


ロッソは広場に着陸した。俺もロッソと同じ大きさの鳥に姿を変えた。エルフの里までは、俺達が彼らを運ぶ。

さすがのロッソも30人運ぶのは辛いだろうからな。不可能ではないと思うけど。それにケガ人の治療が緊急を要する時や、俺かロッソ、どちらかに何かあった場合でも、帰還が可能になる。


メリアンは連れて行かない。万が一矢をうたれて、力が封じられる方が厄介だからだ。メリアン自体、戦闘力はないからな。


バサッ バサッ


ロッソは北と西の騎士に加えマキを、俺は東と南の騎士たちを乗せ、空に飛び上がった。そのまま南を目指して進んでいく。


「出発したんだわ?」

「うん! 今飛んでいったよ!」


シルバの元に、後からラッツがやって来た。あっという間に小さくなっていくロッソたちの姿を、ラッツもその目で追った。


「ピィ!」

「うわっ!! びっくりした!!」


シルバの頭から、ぴょっこりとひな鳥が現れたのだ。


「え?! どういうこと?! でもさっきロッソは……」

「ああ、この子ね、ロッソの子供なんだ!」

「ええ?!?!」

「ピィイ〜!!」


その姿はまさにひな鳥に戻ったロッソだった。ラッツにはまるで違いがわからない。


「促進剤うったでしょ? その時一緒に子供も出来ちゃったみたいなんだよね!」

「そ、そんなに早く産まれるもんなんだわ?」

「さぁ〜。ロッソも産んだのは初めてって言ってたし、本人も詳しいことはわからないって」

「ピィイ〜ピィイ〜」

「…その子は何て言ってんだわ?」

「さあ〜」

「ピィイ〜〜!」


ロッソの子供とはテレパシーは使えないようだ。だが、シルバに物凄く懐いているということはわかる。


「あの薬自体が成長と共に繁殖の作用もあるのかもしれないんだわね」

「なるほど! 魔族が急に増えたカラクリもそれかな。他の魔族でも実験したけど、確かにごく僅かだったけど、大人になると共に妊娠したやつもいたよ。少なかったから薬の効果だとは思わなかった!」

「ほんとアホだわね! 早く研究所に報告するんだわよ」

「わかってるよ〜!」

「そういや、その子供、ちゃんと服従したんだわ?」

「いや、まだだけど。昨日産まれたばっかりだから」

「そうなんだわ?! まあいいわ。今はひな鳥だからいいけど、人間襲う前にちゃんとやることはやっとくんだわよ」

「は〜い」


そのままラッツたちは、ロッソの出産報告をすべく、研究所に足を運んだ。




【お久しぶりですね、リルイット】

(ああ、久しぶり…。ていうか、すげえなその薬)


飛行中、ロッソが俺の脳内に話しかけてきた。


ひな鳥だったはずのロッソが元の大きさに戻ったと聞いた。魔族成長促進剤という薬らしい。

会議でも聞いたが、いっぱい薬があってややこしいんだよな…。魔族成長促進剤は元々敵が所持していた薬だった。それを飲んだ魔族を解剖して、同じような薬をこっちも開発したんだって聞いたよ。研究者ってのはほんとすげえよな。頭の中はどうなってんだろうっていつも思うよ。


【おかげさまで、皆さんを運ぶことができました】

(ああ。助かったよ。俺1人だったら、向こうに着いたら炎が切れるかもしれねーわ)

【ふふ……】


エルフの里までは2時間もかからないだろう。皆早起きしたからな。9時前には着けるはずだ。


いい機会だ。ロッソに話を聞くとするか。


(そういやさ、スルトって誰なんだ?)

【スルトは私の友達ですよ】

(友達……いや、そうじゃなくて! 何で俺のことをスルトって呼ぶんだよ)

【だって、あなたはスルトじゃないですか】

(だから、俺はリルイットだって言ってんだろ…)


話になんねーやつだな…。魔族ってなんでこうなんだ…。


【あなたは間違いなくスルトです。だってあなたの炎は、スルトのものですからね!】

(俺の……炎………?)

【スルトだった頃の記憶は、ありませんか?】

(え……)


あの夢が記憶だというなら、思い当たるものはたくさんある。

生まれてから18年間、これまでそんな夢を見たことなんてなかったのに。本当に、最近の話なんだ…。


(スルトだったって……どういうことだ……? 何なんだ? 俺の前世か何かなのか?)

【そうとも言えるのかも知れませんねえ〜…】

(何だよ…はっきりしねえやつだな……)

【ふふ。ほら、覚えていますか? 灼熱の国(ムスペル)を】


そのあと俺は、ロッソから昔話を聞かされた。


それは俺が見た夢とはまた別の話だったから、俺の記憶にはなかった。

だけど確かにその国は灼熱の国(ムスペル)という国で、スルトとロッソはそこに住んでいたのだという。


それは何千年以上も前の話だという。ロッソは不死鳥だから、寿命はあるようでないようなもの。永年生きていてもおかしくはないのだ。


そこは炎の魔族の住む国だった。皆魔王から、生まれたのだという。


(魔王……)


シェムハザを連れ去ったあの闇の化身……。魔王が魔族を生んだのは伝説じゃない…。俺はあの日、魔王に会った。本当に魔王は存在して、魔族という生き物を作ったんだって、俺はそう、信じざるを得ない。


その昔、魔王が生んだ魔族は皆、炎に強かったという。そうでないと、灼熱の国(ムスペル)で生きてはいけないからだ。魔王は魔族が人間と関わるのを嫌がった。だから人間なんかじゃ到底足を踏み入れられないような熱すぎる国を、魔族の住処に選んだんだという。


そんな話をうだうだと聞いていたら、あっという間にナイゴラの滝が見えてきた。敵に気づかれないように、滝の手前で着陸する計画になっていた。その場所を詳しく知るロッソは、俺よりも先を飛行し、道案内をする。


【ふふ…でも良かったじゃないですか。またあの子にも会えたみたいですね】

(あの子って?)

【ほら、私が傷を治してあげた、あの子ですよ】

(もしかして、ユッグのこと…?)

【そうそう! 懐かしいですね〜】

(会えたって…どういう……)

【……っっ!!!】


突然のことだった。ロッソが苦しみだしたのだ。


(ロッソ?! おい、ロッソ!!)

【……っっ………!!!!】


グワッグワアっっ!!と大きな叫び声を上げながら、ロッソは突然暴れだした。


「ロッソ?!」

「何だ?!」


俺の背中に乗った騎士たちも、その異変に気づくと騒ぎ始めた。


「グワッ! グワァッ!! グウウッ!!!」

「おいロッソ! 何やってる!!」


マキは声を荒げたが、ロッソの耳には届かない。


(まずい……っ!!)


ロッソは激しく暴れ、背中に乗せていた北と西の騎士たち全員をその自然界へと振り落とした。標高数十キロメートルの高さから、騎士たちは墜落していった。







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