質問タイム
(ふっ! ちょろいぜ!)
リルイットは、べモル国の検問を突破した時と同じように、夢で見たあの美女に変身すると、まんまとミスコンに参加した。
「それでは受付いたしますね。お姉さん、名前は?」
「リル……あ……」
「リルアちゃんですね!」
「あ………はい(まあいっか。いそうだし…)」
この完璧な変身だ。俺がリルイットとは誰もわかるまい!
「今年は自由アピールタイムがありますからね、得意なことがあったらどんどんアピールしてください!」
「アピールタイムか……何でもいいの?」
「はい! 自由ですから! 歌を歌ってもセクシー衣装をきてポーズするだけでも観客席の皆さんに質問タイムをしても何でも構いませんよ! 自分を美しく見せるような、審査員たちの印象に残るアピールが望ましいです〜! 持ち時間はマックス5分ですから、それだけ守ってもらえれば!」
「ふ〜ん」
ま、何か考えてみるか。
イケメン外道まっしぐらで今日まで生きてきたリルイット。目立つのは、好きだ。
(すげえことやって、一発優勝してやんよ!)
「リルちゃんの控室はDの部屋です。開始15分前には待機しててくださいね!」
「わかりましたっ!」
リルイットは受付を終えると、ラスコの場所に戻って、優勝賞品を見た。バラのデザインの真っ赤なネックレス。
『赤い色が好きなんです!』
(ラスコ、あれあげたらどんな顔するかな…!)
俺は昔から友達思い。自称だけど。
大切なお友達を喜ばせたいと思うのは当然だ!
(………)
だからミスコンに出ようと思った。本当に、それだけだ。
いざミスコンが始まって、出順が最後だったリルイットは、参加者を横目で見ながらぎょっとした。
(何でラッツとアデラもいんだよ……。いや、ラッツはともかく、アデラは何堂々と出てんだよ!! お前男だろ!!!)
いや、俺もだった。
何なら俺の方が、変身使ってるから、普通にズルい。
ラッツがインタビューを受けるのを、白けた目で見ていた。
(何ぶりっ子しちゃってんだよ! いつもみたいにうんたらだわよ!ってダサく喋れよ!)
それに大人っぽくて気が利くぅ〜? 全然そんなのお前興味ねえだろ。明らかに審査員に受けそ〜な解答しやがって!
まあでも、ラッツは確かに可愛いからな…。こいつは強敵になりそうだぜ…。
ていうかすげえ長えな! どんだけ喋るねん!
『やっぱりいざって時に女の子を守ってくれると、惚れちゃいますぅ!』
だけど、ラッツが最後にそう言うのを俺は聞き逃さなかった。
俺はふっと笑って、彼女がそう言った時の顔も見ていた。
(1つは本当のこと言ったじゃねえか…)
司会者はそのあと3番目、4番目と順に質問をしていく。
…しかし、好きな男の仕草か。てか俺、順番最後じゃん。
やべ、どんどんそれっぽいこと言われてくんだけど!
それに何も思いつかねえし〜!!!
「じゃあ、次はアデラちゃん!」
「ふうむ」
「アデラちゃんは、男の人がどんな仕草をしたら好きになっちゃうう??」
見知らぬ美人の彼が一体何を喋るのか、会場の皆はわくわくしながら聞いている。
「男は好きにはならない」
「え……」
会場が大きな沈黙で襲われた。
(アホだ……あいつアホだ……)
「……うーんと、あれかな! アデラちゃんが好きになるような男はなかなかいないってことかな! そうだよねぇ、だってこんなに美人じゃあねぇ!」
「男は恋愛対象外だ!」
審査員たちも観客たちも、目が点になっていた。
嘘か本当かは知らないが、会場を盛り上げるようなことを皆言っているのに、この美人は思いっきり盛り下げようとしているからだ。
(好きの意味も知らなかったくせに…! 何でそんな言葉は知ってんだよ……たまたまか? なあ! たまたまだろ!)
「いいぞアデラぁ!! それでこそ俺の女だぁあ!!!」
会場から濁った男の声が響いた。皆はその男に注目する。
「ゾ、ゾディアスさん!!」
ラスコもその声の方を向くと、ゾディアスがケラケラと笑いながら観客席の前の結構いい席に座っていた。
「へ〜あれがゾディアスはんの女なん?」
隣にはミカケが座っていて、頭の後ろに手をやりながら、これまた偉そうに彼に話しかけていた。
「おうよ! めちゃくそ美人だろ!! な! アデラ!!」
「お前の女になった覚えはない」
アデラはマイクを奪い取って、数千人の前でゾディアスを振る。しかしそれにもゾディアスは大笑いしているだけだった。
(ゾディアスさん…まだアデラを女だと思ってんのかよ…)
リルイットは白けた様子でそのおっさんを見ていた。
ミスコンにまで出たんだ。もう一生勘違いしたままだぜ、あのおっさん。
「じゃあ、アデラちゃんは女の子が好きなのかな?」
「ふうむ」
会場はどよめいている。
同性愛者に非情な偏見こそないが、未だ少なく対応にたじろぐ時代である。
(こんな場でする発表ではねえしな!!)
「じゃ、じゃあ、好きな女の子の仕草を聞いちゃおっかな〜! ね? それなら何かあるよね?」
(司会者もアホが相手だと大変だな…)
「ニンジンをかじるところ」
「……」
司会者ももはや即座にコメントができなかった。
(それはリネだろう?! それは好きな馬の仕草だろう!!)
リルイットはお友達の発する、この会場を覆う恐ろしい空気を感じて、鳥肌が立ちそうだった。
「ふ、不思議な女の子なんだね〜アデラちゃんは」
仕方がないので司会者は、アデラを不思議ちゃんとして扱うことに決めたようだ。
(じゃなかった! 俺も考えねえと!!)
「じゃあティーサちゃんはどうですか?」
7番目、去年の優勝者だそうだ。それにしても随分派手な衣装だな。
「寝起き…かな」
「うん? というと?」
「それがどんなにかっこいい人や威厳のある人でも、本当に目覚めた直後はぼけ〜っとしてて、無防備でしょ…。それが逆に……ぐっとくるかな……」
「おおお!! いつもはキメキメの男性のふと見せる無防備さ!! つまりギャップですね!! さあ男性の皆さん! ティーサちゃんの前で居眠りしてみましょっ! 起きた瞬間に好きになってもらえるかも!」
アデラの時の空気とはうってかわって、会場はまた湧き上がった。
(絶妙なとこつくな……さすが去年の優勝者だ…)
ラッツと…ティーサだっけ? あの2人が強敵だな……!
そしてついに、リルイットの番がまわってきた。
(やっべー……何も考えてなかった!! てかこいつら何言ってたっけ? かぶんのはまずいし…。えっと…イケメン前提じゃ駄目なんだよ…。どんな不細工でもチャンスがあると思ってもらえるような、そんな内容じゃねえと……)
「リルアちゃんは、男性のどんな仕草が好きですか??」
『なあ、何でシェムは兄貴のことが好きなの?』
その昔、俺がシェムハザに、そんなことを聞いたのを思い出した。
シェムが兄貴を好きだとわかって、2人の間に子供ができて、2人はすごく幸せそうだったなぁ…。
だって兄貴、あの顔じゃん。彼女なんていたことねえのに。
確かに頭はいいけど、身なりも悪いし、根暗で口ベタだし、正直どこに惚れたんだ?
とふと疑問に思って、シェムに聞いたんだ。
『何でと言われても。好きなものは好きだが』
『いや、そうかも知んねえけどさ。具体的にどこに惚れたんだって聞いてんの』
『ふうむ』
シェムハザは懐から本を出すと、ペラペラとめくり始めた。これはシェムの辞書だ。文字を読めるようになったシェムは、わからない言葉があると、これを出して意味を探る。
(『惚れた』とは?)
シェムは辞書から『惚れる』を見つけた。
(『惚れる・・・それにだけ夢中になり、他のことを忘れ去る。感心し、うっとりする』 ふむ! とにかく感心するようなすごいところということか!)
「ふうむ! 惚れたところならたくさんある! 何と言ってもフェンはすごいやつだからな!!」
「じゃあ1番最初に惚れたところは?」
「フェンの作る料理が美味い!!!」
シェムハザはニッコリと笑ってそう言った。
リルイットはマイクを受け取ると、答えた。
「料理を……」
「料理を?!?!」
「作ってくれるところ……です……」
「おおお!!!」
それは仕草なんか?と思ったけど、まあいいか。
『リルの料理は不味い』
『うるせえな!』
『でもリルにも惚れた! あの頃の私にはベタベタのナポリタンを作ることさえ出来なかった! リルもすごい!』
『はあ?』
あの辞書本当に合ってんの?
『あとは、鉱石の名前を知っていたり!』
『兄貴は好きだからな〜石ころが』
『ハンカチを買ってくれたり!』
『お前は何でもかんでもよく汚すからな〜』
俺はシェムと笑ってそんな話を続けた。
マイクを片手に、俺は続けた。
「美味くても下手でも、いいんですけど…、自分のために作ってくれたその行為が……すごく嬉しいというか。ほら、料理って結構面倒くさいじゃないですか。どんなに簡単なものでも絶対手間がかかるでしょう。だから私……は、あんまり得意じゃないんですけどね」
リルイットははにかみながら、そのように話をした。
「うんうん! やっぱり時代は男も料理をしないとですよねぇ! 男性諸君! 下手でもいいんです! リルアちゃんのために、今晩料理に挑戦してみましょう!」
会場も、穏やかな空気に包まれていた。
(……)
ラスコもユッグの姿をしたリルアと名乗る女性が、そのように話すのを黙って見ていた。
「さあて! 他に質問はありますかあ?」
このあと数回、質問タイムが行われた。
ラッツはぶりっ子して審査員に誰よりも愛想を振りまいている。アデラは毎回珍回答を繰り出していたが、最後には皆は彼が何を言うかを楽しみにしているという感じになった。
そして、今年初の試みらしい、自由アピールタイムってやつが始まった。




