恐ろしい人
「なんだ、お前か」
人気のない場所を選び訪ねたというのに、この国の宰相であるカンタール侯爵は、それでもマイルズの姿を見ると怪訝な表情を浮かべた。
城内で軽々しく接触すべきではないというのはマイルズも重々承知している。
しかし大事な報告は書面に残すべきではないというのがレスター=カンタールの教えでもあった。
「命令通り、アズベルト殿下の侍従を解任されてきました」
「殿下には何も悟られてはいまいな?」
「はい」
「そうか」
せっかく気を利かせて報告に来たというのに、素っ気ない物言いは労う気も事情を説明する気もないのだ。
しかしマイルズは聞かずにはいられなかった。
「私の任を急に解かれるとは、何かあったのですか?」
「少々予定を変更することにしただけだ」
その変更とやらを詳しく説明する気はないようで、代わりに新たな任務を言い渡された。
「お前にはウィルロア殿下の侍従に就いてもらう」
「第二王子の? 私は何をすればいいのですか?」
「なにもしなくていい。殿下のお側で、お前なりに人となりを見ておけ」
意外な人物の名に正直驚いた。
物腰柔らかい美しい(男に使うべき言葉ではないと分かってはいるが)王子が、自分には無害としか思えなかったからだ。
「それは……」
何故、という言葉は意味をなさないのかもしれない。ただ人となりを見ておけとしか言われていないのだから、それ以上でも以下でもないのだろう。
それがマイルズに課せられた新たな任務となった。
これまでマイルズは、表向きではアズベルトの侍従として仕え、その裏ではレスターの命令で動いていた。
命令と言っても自らの意思で考え動いてきたつもりだ。
カンタール家で育ったマイルズは、レスターの国を第一に想う姿勢に共感していた。今更レスターの命に背くつもりはないが、急な方向転換に追いつけていないのが正直な所だ。
「アズベルト殿下はどうなさるのです?」
「そのまま踊らせておけ」
突き放すような冷たい声。背を向けて淡々と答えるレスターが、今どんな顔をしているのか窺い知ることは出来ない。
一体彼はその瞳に何を映しているのだろう。
怖い人だな、とマイルズは思った。この男を敵に回したら、厄介なことになるだろう。
あの優しそうな第二王子がレスターに目を付けられたことに少なからず同情しながらも、マイルズは頷いてその場を後にした。