エピローグ
ラステマ王国の新国王となったウィルロアは、忙しい政務の中で大叔父であるアイメン=シュレーゼンと会食を共にしていた。
「だからお前はもっと人を使うことを学ばねばならんと言っただろう。全て自分でやらなねば気が済まないタイプなのだから特に気をつけねば。このままでは体力、気力ともにもたんしお前が沈んだら国も沈むぞ。君主としての働きは悪くないが頼るべきところ、任せるべきところの選択がよろしくない」
「……はい」
食事を取りながらアイメンの意見に耳を傾ける。
前々国王の弟であり、筆頭公爵家の前当主でもあったシュレーゼン卿から、ウィルロアは君主としての指南を受けていた。
「ハァ……爵位も譲って悠々自適な暮らしをしていた老人を無理矢理呼び寄せてめんどくさいこと押し付けおって。私は現役でも君主だったわけでもないぞ。適役はどうしたぁ適役はぁ!」
ぶつくさと文句を垂れるアイメンにウィルロアも少し同情する。
「適役の父は母とデルタ前王夫妻と共に療養を兼ねた旅行に行っています。半年は戻られないかと」
「くぁー! 知っとるわぁ! 嘆いておるだけじゃぁ!」
「なんか、すみませんね」
文句を言いながらもアイメンは面倒見がよく、彼の教えは的確でウィルロアに対して忌憚なき意見をズバズバ言える存在は重宝された。
「ところで、あいつはデルタの前王夫妻といつの間に仲良くなったのだ?」
「父親同士は知りませんが、私達が人質交換されてから母親同士で密かに文通をしていたのです。その頃からの付き合いかと」
今回の騒動でも、母親達は手紙のやり取りで両国の平和のために水面下で色々と動いていたらしい。ありがたいことだ。
「父の療養と言われてますが、兄上を失って憔悴している母を案じたデルタ前王妃の計らいのようです。母達の旅行になぜか父達まで付いてきたと言っていましたから。手紙には楽しそうに四人で過ごしていると書いてありましたよ」
「ふーん、アズベルトを失って憔悴とはな……」
含みを持たせた言い方に、ウィルロアのナイフの動きが止まる。
もしやアイメンはアズベルトが生きていることに気づいているのか? この人はウィルロアの性格もアズベルトを匿っていたエーデラルのこともよく知っている。気付かれてもおかしくはなかった。
「血を分けても大罪人だ。後で後悔しても知らんぞ」
「……」
「お前は優しすぎる」
「……優しいのではなく臆病なのです。大罪人と分かっていても血を分けた兄を手にかけることが出来ない、臆病なだけの男です」
「そうだな。だがそんな自分を理解しているからこそ、レスターやファーブルを側に置くと決めたのだろう?」
ウィルロアはデルタとの紛争の時に対立した宰相レスターと軍師ファーブルを解任しなかった。経験の浅いウィルロアにとって二人から学ぶ事は多く、混乱する貴族や臣下をうまくまとめてくれたのが理由だ。
ウィルロアの即位に肯定的なところからも、このまま側近として受け入れた方が国益となると判断した。
そう、非情な決断を迫られた時に彼らは重宝できるだろう。
「私は臆病で、卑怯者なのですよ」
自嘲気味に笑うとアイメンが嘆息して呆れた。
「お前は清廉潔白すぎる。割り切らなければこの先苦労が絶えんぞ」
「肝に銘じます。……それでシュレーゼン卿、この事は――」
「口外せんよ。アダムスでさえ気づいてはおらん。老い先短い人生、口封じせずとも放っておいても勝手に口は閉じてくれる。安心せい」
「そういう冗談はやめてください。長生きしてもらわないと困ります。まだまだ教えていただきたいこともありますから」
「くあー! だから私は悠々自適な生活を送るために早々に爵位を譲ったのになぁんでお前の――」
会食はその後も朗らかに続いた。
ウィルロアはその後も忙しく政務をこなし、夕方に部屋に戻っていつも通り鍵をかけると独り言ちた。
「はぁーやることがいっぱいだー! 全然市政の方にまで手が回らない。ファーブルも暴走して進軍してるしあいつマジでふざけんなよ全然反省してねぇなぁ! レスターは見るからに嬉々としてウザいしサイラスは俺の剣術の稽古を再開するとかぬかしてるし絶対ロイとサックスが告げ口しただろくそっ! 俺の味方はマイルズだけなのに風邪引いて休んでるし俺より軟弱だろあいつはぁもぉー。アダムスはまた膨大な改定予算案を持って来るしでわあー! 全然だめだもうやめたい。自信ない。泣きそう。あーあ、俺と違ってキリクは立派に王様やってんだろうなー」
「そんなことはないと思います」
「ふぁっ!?」
驚いて振り返ると、また自室にカトリが侵入していた。
「ウィル様もご立派です」
「ありがとう。じゃなくて、心臓に悪っ! てかほんっと無能な護衛だなぁオイ! 勝手に部屋に通すな先に俺に知らせろってあれほど言――、……何笑ってるの」
ウィルロアが不貞腐れていると、カトリは口に手を添えてクスクスと笑っていた。
「怒っても罵っても辞めさせることはしないのですね」
「む……だから何だよ」
「私の旦那様になる方はとても優しいやさぐれ王様だなと思っただけです」
「ふーん……随分と余裕だな」
「?」
「俺の正体を知ったからには、ただでは済まないぞ?」
ウィルロアが広角を上げていつぞやの場面を模した冗談を言うと、カトリも気づいて返した。
「もしかして私、殺されます?」
カトリが一歩前に出てつま先立ちをする。得意気な顔でウィルロアを見上げて挑発するそのいたずらっ子のような姿が可愛くて、演技が続かず相好が崩れてしまった。
「ふはっ。いや、それは俺のリスクが高過ぎるから――」
カトリの腕を取り自身に引き寄せた。
「口を封じる」
「……喜んで」
どちらからともなく触れ合う唇。
初めての口づけは笑いながら、幸せに満ちたあまいものとなった。
***
よくある話の中で、長きに渡る争いに終止符を打ったのはひとつの真実の愛だったという。
ここに百年争い続けたラステマとデルタという国がある。
二国は紆余曲折ありながらも和睦を結び、両国には長らく平和が訪れた。
争いに終止符を打ったのは、自国を愛し、聡明で美しいが性格に難ありのやさぐれ王子であった。
だが彼もまた、生涯をかけて愛する女性を手に入れるために王になったのだから、結局は愛が世界を救ったことに、なるのかもしれないーー。
完
これにてやさぐれ王子と無表情な婚約者は完結となります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
途中で連載が滞ってしまいすみませんでした(_ _lll)
なんとか完走出来てよかったです( ´∀`υ)
新しい物語でまた皆さんに読んでもらえる日を楽しみにしています ( *´꒳`* )
ちやま




