青い目の少女
馬車に揺られながら、ウィルロアは移ろう景色をぼんやりと眺めながら考えていた。
カトリの事、ロイとサックスの事、キリクの事、ゼンとドナの事、ラステマの事。
大事な人を失ったかもしれない不安と、頼れる者のない状況にどんどん弱気になっていた。
護衛二人と友を犠牲にしてまで、何を成し遂げようというのか。自国を危機に晒してまで何をやり遂げようというのか。そもそも和睦は正しいことなのか。両国民が望まないのなら、独りよがりの無理強いではないのか。
国を導く者は例え石を投げられ批判に晒されようとも、それが正しいことだと思ったなら信念をもってやり遂げるべきだとずっと思ってきた。その信念が今、ウィルロアの中で大きく揺らいでいた。
「……私とカトリの十年は、いったい何だったんだろうな」
兄を失い、父の無事も分からず何もかもが空虚に感じ、目的を見いだせない瞬間がウィルロアを何度も襲う。
自分に何の価値があるのか。兄を追い詰めた自分に今更出来ることなんてあるのか。彼らに聞きたい。会いたい。寂しい。カトリに会いたい。諦めたくない。
今のウィルロアを突き動かしているのは、それでも諦めたくはない、大事な人達を守りたい、カトリに会いたいという想いだった。
荷馬車の中で蹲っていると、馬車が大きく揺れた。
「荷物を調べるぞ」
「待ってください! これはバク隊長に頼まれている荷物なんですよ!」
商人の焦った声が聞こえる。どうやら検問では徹底して荷物まで調べ上げられるらしい。
「……」
ここで見つかれば、ウィルロアに残された道はもうない。
外はやけに騒がしかったが、その隙にベルトの中に隠し持っていた長針をそっと出した。
兵士に見つかったならこれで命を絶つつもりだ。王代理を任せているアダムスには、自分が死んでも報復はするなと命じている。
かけられた布が剥がれ、薄暗かった荷台の中に光が差し込む。同時に、首に長針を押し込むと、自分と同じ、青い目の少女と目が合った。
「本当にいらっしゃった!」
「?」
荷馬車を覗く少女が何者か、訳が分からず呆然としていると、針を持つ手を掴まれて引きずり降ろされた。
「――なっ」
「お静かに。下を向いてて下さい」
肩から足まで隠れるレースの派手なケープを羽織らされ、頭を低く抑え込まれる。
視界にはヒールの高い複数の靴が見え、香水の香りにむせ返る。視線だけを上げて置かれた状況を窺った。
ウィルロアは何故か華やかな女性達に守られるように囲まれていた。
訳が分からなかったが、検問所の前で姿を晒すわけにはいかない。言われた通り下を向いて促されるまま、通り抜けようとした。
「待て」
「きゃっ」
ウィルロアの背後で、先程ウィルロアを荷台から引きずり出した少女が兵士に腕を取られた。乱暴にフードを剥ぎ取られたのを見て堪らず助けようと動いた。
しかし女性達が怒涛の勢いで兵士に口撃を喰らわせ、ウィルロアよりも早く平和的に少女を助けることが出来た。
見事な撃退に呆けるウィルロアを、また誰かが頭を低くさせて「行くよ」と付いてくるよう促した。
一体どこに行くのか、訳の分からないまま、華やかな女性達に紛れてウィルロアは無事王都入りを果たしたのであった。




