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やさぐれ王子と無表情な婚約者  作者: 千山芽佳
第三章

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キリクの過去2大陸会議


 キリクが十一歳の時、四年に一度ある大陸会議に父と参加した。

 大陸会議には各国の要人とその家族も参加が許されていた。キリクの様に幼い内から人脈と経験を養っておくため子供も多く参加していた。

 大陸会議は独立機関である教皇庁があるアマスで行われ、期間中は厳重な警備の中にもどこかお祭り騒ぎのような雰囲気があり、街は賑わっていた。

 キリクは二度目の参加だったが、街の賑わいとは反対に気分は重かった。

 大国デルタの王子であるキリクの周辺は常に人が集まる。羨望の眼差しを向ける子供達、縁を結び懐柔したい大人達に囲まれ疲弊していた。

 大陸会議は十日間にわたって開催される。議題の他に交流も主な目的のため、パーティーが連日開かれた。

 二大大国の首長であるラステマ王とデルタ王は、パーティーの主役であるが犬猿の仲なので両者が顔を合わせることは無い。

 一日目の集合パーティーにはラステマ国王が、二日目の開催パーティーにはデルタ国王が参加するという計らいである。


「大陸の真の覇者はデルタ王国だと我々は思っております」

「石で腹は膨らまないと申しましょう」

「ラステマ国王が避ける理由が分かりますな」


 周辺諸国の要人は父やキリクを褒めそやし、ラステマと比べてデルタの方が優れていると言う。

 笑顔を張り付けて受け流すが、彼らがラステマの前では態度を反転させるのは知っていた。

 周辺諸国は国土も小さく、特出したものがない。生き残るために大国に向けて特産品を売り、貿易で経済を回していた。

 今でこそ不可侵条約のお陰で国土を奪われる心配はないが、大国に頼り切っている手前、機嫌を損なわないよう大人から子供までご機嫌取りに必死だった。

 ラステマを貶せばご機嫌が取れると思われているのも癪である。大人びて見えてもキリクはまだ十一歳で、大人の汚い部分を過剰に感じ取ってしまう年頃だった。


 ウィルロアに出会ったのは、大陸会議四日目に行われたパーティーでのことだ。

 同じ会話を繰り返すだけの集まりに飽きて、こっそり子供達の輪から離れた。

 給仕から飲み物をもらおうと手を伸ばすと、視界の隅にキラキラと輝く金色の髪の毛が映る。

 目を凝らせば少年が会場を忙しなく走り回っているではないか。

 参加国の子供達は全員が挨拶に来たはずなので、見覚えのない少年に興味を引かれた。よく見れば容姿も整っていて、一度見れば忘れるはずもないほどの美形だ。

 まるで天使のようだ。いや、あれは流れ星か。一つ所に留まっていられない少年は、パーティーに飽きたのかそのまま外に出て行ってしまう。

 キリクは慌てて追いかけ呼び止めた。


「君。一人で外へ出てはいけないよ」

「あ……」

「どこの者か名前を聞いても?」


 少年は怒られると思ったのか、立ち止まると怯えた顔で答えた。


「ラステマ国の、ウィルロアです」


 少年の名前を聞いて納得した。

 ウィルロアといえばラステマ国の第二王子。それならキリクに挨拶をしていないのも頷ける。

 ラステマとデルタは会議中も共通言語を使っているというのに、わざわざ通訳を介していた。だから大国の王子同士でもウィルロアと会うのは初めてだった。


「今夜のパーティーにはラステマ国は欠席だと聞いたが?」

「ぼ、僕、散歩をしていたら楽しそうな音楽を聴いて……、ごめんなさい」


 どうやら一人で潜り込んだらしい。ウィルロアは素直に謝った。

 しかしラステマの王子がデルタの王子に頭を下げるなどあってはならないこと。何故かキリクの方が心配して周囲を確認した。


「僕、戻り方が分からなくなって、困っています」

「……そうか」


 キリクの素っ気ない返事に項垂れていたウィルロアは上目使いでもう一度「困っています」と訴えた。

 困ったのはキリクの方だ。 

 ラステマと関わってはいけない。ラステマ人は冷酷で残虐だ――。いざ目の前にすると無意識に植え付けられた知識に捕らわれて動けなくなってしまう。

 しかし目の前にいる少年はどう見ても無害でキリクに助けを求めていた。


「僕はデルタ国の第一王子キリクだ」


 名乗ることでウィルロアが退いてくれるのを期待した。

 ところが、退くどころか「キリク様!」と元気よく名前を呼ばれてしまう。

 ラステマは学問が盛んだと聞いていたが、この子は歴史を学んでいないのだろうか。


「キリク様、僕困っています!」

「知っている」


 同じことを三度も聞いた。


「今人を呼んできて――」

「あのー僕、実は父上に友達がたくさんできると聞いてきました」

「……そう。でも君のお父上は私と友達になることを望まないだろうな。今人を呼んでくるので待っていて」


 先回りして拒絶の意思を示すと「がーん!」という効果音が聞こえる程ウィルロアは落胆した。

 ようやく諦めたか? いや、違うな……。

 もじもじしながら照れ臭そうに髪の毛をいじっている。上目遣いにキリクを見上げて、人懐っこい顔を向けた。


「う……」


 ああ嫌な予感しかしない。これは見てはいけないものだと目を細める。後退りしたが逃げるより先に手を取られた。


「でも僕はキリク様とお友達になりたいです。僕とお友達になってくれませんか?」

「――っ」


 友達なんて絶対無理に決まっている。


「いいよ……あ?」

「わあ!」


 断ろうと思っていたのに、真逆の言葉が口から飛び出していた。


「いや違う、待ってくれ」

「やったー!」

「待て!」


 こいつは何か魅惑の魔法でもかけているのではないか。それほどにウィルロアは愛らしく、一瞬でも悲しませたくないと思わせる何か、庇護欲のようなものがあった。

 理性を取り戻し、呼吸を整えて断ろうとしたのだが、小さな両手で包むように手を握られ、満面の笑みを向けられたらどんな悪人でも毒気を抜かれて善人になるだろうと思われた。


「うう……」


 目を細めても視界に入ってくるこの眩しさに、抵抗を諦めてキリクは降参した。



 翌日、キリクは約束通りウィルロアとの待ち合わせ場所に向かった。

 昼間は自由に過ごしてよかったので、子供達は母親達とティータイムをしたり、談話室で集まって遊んだりしていた。

 キリクとウィルロアは人目の少ない談話室で会うことにした。

 ウィルロアが来なければそれでよかった。しかし彼は期待に反して元気よく姿を現した。

 キリクの従者や護衛はラステマ人がいることに驚いていた。

 キリクは敢えて面会の相手がウィルロアだと伝えなかった。事前に伝えていたら止められていたからだ。

 昨夜の経緯を説明し、謝意を受け入れたと言って渋々納得してもらう。ウィルロアはキリクに駆け寄り、お礼の小袋を渡した。


「? ありがとう」


 よく分からないが中には植物の種が入っていた。

 護衛達はウィルロアの幼く無垢な容姿も相まって、害はないと判断された。父の耳にも入らないよう口止めも忘れない。

 用意周到なキリクに対して、ウィルロアはと言えば何も考えてはいないようだ。

 ラステマの侍従と騎士は視線を合わせるだけで特に咎めもしない。それだけでウィルロアが周囲を巻き込み、困らせるのが一度や二度ではないのだと分かった。

 その日は簡単なやりとりだけで終わったが、ウィルロアとの交流は存外楽しく二人の付き合いは翌日以降も続くことになる。

 初めのうちはラステマ人相手に隙を見せないよう気を張っていたが、ウィルロアがあまりにも無害なので杞憂に終わった。

 臣下同士は何度か衝突もあったが、それでも大きな問題にはならなかった。話せばわかる、真っ当な人達だった。


「ラステマ人が冷酷で残虐なのは過去の話だ。この大陸会議で確信した」

「?」

「ウィルにはまだ難しいか。あ、そこ段差があるぞ。前を向いて歩かないとまた転ぶ」

「キリクは兄上みたいだな!」

「そうか?」

「かっこよくて頼りになって、僕のこと少しだけ叱るんだ」

「短い付き合いなのにアズベルト殿の気苦労が分かるから不思議だ……」

「キリクも兄弟いる?」

「弟と妹がいる。弟は思慮深くしっかり者だ。妹はまだ小さくおしゃべりが苦手だが感受性が強く心優しい子だ。何より可愛い」

「僕も会ってみたいな。キリクにも兄上を紹介したい!」

「そうだな。いつか――」


 いつか、互いの兄弟を紹介し合える未来が来ればいいのに。心からそう思った。



 ウィルロアと出会い、退屈な大陸会議が楽しいものになった矢先、二人の交流が周囲に知られると横やりが入るようになった。

 周辺諸国の子供達が二人を引き離そうと試行錯誤して近づいた。

 はじめは遠巻きに静観していた子供達が、急に態度を変えたのだから大人達の介入があったのだろう。大国の王子の関心を取り戻そうと必死だ。

 周辺諸国の思惑は特に気にしなかったが、父の耳にまで入ったら困るとその日はウィルロアと離れるのが懸命と判断した。

 しかしその晩も翌日も、父から咎められることはなかった。

 だからキリクはまたウィルロアと過ごすようになった。子供達は相変わらず二人の関心を引こうと躍起になっていて、邪魔が入ることに苛立ちが募った。

 王族たる者、簡単に感情を表に出してはならない。分かってはいても、キリクは不機嫌を隠せず談話室の中は険悪な空気が漂っていた。


「今日はみんなで遊ぼうよ」


 無邪気な声が不穏な空気を払う。

 ウィルロアが笑顔で全員に声をかけた。

 大国の王子の誘いを断れない子供達は右往左往している。慌てる姿に胸がすく。苛立ちは嘘のようにどこかへ飛んで行った。


「ウィルの言う通りみんなで遊ぼう」

「かくれんぼにする? かけっこにする?」

「かけっこをするにはここは狭すぎる。周りに迷惑をかけてはいけないから場所を限定しよう」


 そこからキリクとウィルロアが先導して全員を巻き込んだかくれんぼが始まった。

 最初は戸惑っていた周辺諸国の子供達も、そこは子供同士遊びの中で徐々にしがらみは解けていった。

 子供達からチームを組んで競ってはどうかという声も上がり、遊びは一層楽しいものになった。

 ウィルロアは純粋に楽しんでいただけだが他の子供達はキリクも含め、不思議な一体感ができてくすぐったさを感じていた。

 別れ際、みんなといつもと同じ別れの挨拶を交わした。それでも昨日より今日の方が心は満たされていた。


「キリクってかっこいいから話すと緊張しちゃうんだ」

「?」

「でも遊んでみると面白いって、みんなにも知ってほしかった。キリクもみんなと遊びたがっていただろう?」

「……」


 ウィルロアは何も考えていないわけではなかった。

 キリクをよく観察し、気にかけてくれていたと知り嬉しかった。


 ところが翌日、今度は大人達が二人の元にやって来た。


「おや? 意外な組み合わせですね」

「敵国同士のお二人が一緒にいるとは驚きました」


『敵国』って、今は争いもなく平和を維持しているのに。何故みんなキリク達の邪魔をするのだろう。ラステマとデルタが仲違いしていた方がご機嫌取りをしやすいからだろうか。

 辟易しながらも顔には出さず、毅然とした態度で応じた。


「国や身分関係なく大陸会議に参加された皆さんと交流をしたいと考えています」

「ラステマ国の方々も含まれるのでしょうか」

「はい。皆さんに平等に接するよう心がけています」

「それは素晴らしいお考えですね」

「デルタ王のご意向なのでしょう」


 父の名前を出されて言葉に詰まった。


「おや? まさかデルタ王はご存知ない?」

「……」

「デルタ王は過去の歴史を重んじ、国民感情を大事になさるお方ですから言い辛かったのでしょう」

「自身のお考えを持つのはいいことですが、首長のご意向に背く行為は控えるべきかと」

「皆さんやめましょう。豊穣の国を継ぐキリク様なら我々の助言を聞かずともご存知のはず」


 弱点を鋭く突かれて返す言葉が見つからない。彼らの指摘はあながち間違いではなかった。父に隠れてウィルロアに会っていた時点で、後ろめたいことをしている自覚はあった。

 まるで呪いだ。

 国内外から大人から子供まで。ラステマは敵だ悪魔だ、仲良く出来るわけがないと呪文のように言われ続ける。

 キリクは悔しさで拳を強く握った。


「あのー、ほうじょうてなんですか?」


 重苦しい空気を破って隣にいたウィルロアが唐突に訊ねた。場にそぐわない質問だったが、周辺諸国の要人達は顔を見合わせてから答えた。


「温暖な気候と肥沃な土地に恵まれ、農作物や穀物が豊富に実ることを言います」

「へえ!」


 ウィルロアは澄んだ青い目を大きく開いて輝かせた。何がしたいのかさっぱり分からないのはキリクだけではないはず。


「キリク? そこで何をしている」

「!」


 低く、威厳のある聞きなれた声。

 一番恐れていたことが起こってしまった。

 皆が平伏する中を父が歩いて来る。

 キリクは答えることも顔を上げることも出来なかった。ウィルロアと一緒にいる前では言い訳の仕様がない。


「その子は……」

「デルタの王様にご挨拶申し上げます。僕はラステマ王国の第二王子ウィルロアです」

「……」


 デルタ王は敢えて返事をしなかった。この世界ではそれが当たり前の反応だった。


「あのー、ひとつ聞いてもいいですか?」


 緊迫した空気を打ち破るまさかの質問。声をかけられたデルタ王が自分に問いかけたのか確信が持てず、左右を確認する程あり得ない状況だった。

 無視をされても臆さず話しかけるウィルロアの、精神力というか鈍感力に驚く。

 虚を突かれたのか子供相手に大人気ないと思ったのか、ウィルロアの天使のような姿にほだされたのか。とにかく、デルタ王が「なんだ」と反応したのは奇跡に近かった。

 しかし次の瞬間、ウィルロアは更に全員を凍り付かせた。


「あのー、野菜の育て方を教えてもらえませんか?」


 ――っ馬鹿な! 馬鹿か! 馬鹿なんだね!?

 まさか一国の王に野菜の育て方を聞くとは。大国の王を農夫扱いしたウィルロア。その場で首を刎ねられてもおかしくない状況に、空気が氷の様に冷えて息苦しさを感じた。

 キリクは緊張で喉を上下した。下手したら戦争だ。心臓はバクバクと音を立て、内蔵が捩じれて吐きそうだ。


「デルタを愚弄するか!」


 デルタ王の激昂が電気のように耳を突く。

 父が激怒するのには理由があった。

 デルタは発展の分野ではラステマに大きく遅れをとっていた。豊穣の国と敬われる一方で、陰では知能の低い農夫の国と揶揄されているのを、父もキリクも知っていた。

 だから国家の最高権力者である父が、農夫扱いをされて激怒するのも当たり前だ。

 父の剣幕にその場にひれ伏す全員が成す術なく見守るしかなかった。


「私を誰だと思っている!」

「豊穣の国デルタの王様です」

「!?」


 期待に満ちた笑顔と輝く瞳には、侮蔑も畏怖の念も感じない、羨望が溢れていた。

 想像の斜め上の返しに、父含めその場にいた全員がウィルロアの真意を測りかねていた。


「僕、庭師に手伝ってもらいながら苗の発芽に成功したんです。それで最近大きな農園を作ってもらいました。だけど苗は直ぐに枯れてしまって、全然芽を出さないんです」

「……」

「別の種を植えても水をたくさんあげても芽が出ないので輸入した益虫を放しても全部逃げちゃうし。全然うまくいかないんです……」

「……葉が育たないのに益虫を放す奴があるか。順序が滅茶苦茶だぞ。それに水をやり過ぎると根腐れを起こす。堆肥は何を使って――」


 まさか、あの剣幕から普通の会話に流れが戻るとは誰が予想できただろう。


「さすが豊穣の国の王様ですね。参考にします!」

「あ、いや。今の話は本にも載っている。決して我が国の技術を漏らしたわけではないぞ」


 父が口を滑らせたのは聞かなかったことにした。

 デルタとラステマの王族が言葉を交わしただけでも驚きなのに、父は失態をはぐらかすため自らウィルロアへ話しかけた。


「何故そんなに必死なのだ? 枯れた土地だとしても王族なら食うに困ることはないだろう」

「はい。僕、野菜を残したら乳母に叱られました」

「?」

「国民は新鮮な野菜を食べたことがないとはじめて知りました」

「文章の組み立ても滅茶苦茶なのだな」

「それは僕が絵本ばかり読んでいるからだと思います。兄上に難しい本も読むよう言われました。だから少しずつ――」

「野菜の話は?」

「あ。僕の国では野菜だけじゃなく、家畜も育ち難いです。だから食べる物は工夫して干したり乾燥したりしています。僕も食べてみたのですが、あまり美味しくなかったです。だから、みんなにも本物の新鮮な野菜を食べさせてあげたいと思いました!」

「それで私に訊ねたのか」

「はい。デルタは豊穣の国と聞きました。豊かで実りある素晴らしい国だと。あなたはその国の王様ですから!」


 自ら農業を学んでいるウィルロアの言葉には説得力があり、嫌味ではなくなく心からデルタ王を尊敬しているのが伝わった。


「ふ、ふはははは!」


 突如笑いだしたデルタ王に、ウィルロアは驚いた顔をした。そして父はウィルロアに手を伸ばすと驚くことに頭を撫でた。


「大事なのは土だ。腐った野菜は決して無駄ではない。そのまま土に還せばいい堆肥になるだろう。いいかこれは文献にも載っているからな」

「? はい」

「土に手を加えてもやせた土地では育ち難い。長い目で見るなら品種改良を重ねていくのが賢明だな」

「! そうですね。焦らず頑張ります!」


 夢でも見ているのではないかと思う驚愕の光景に、未だこれが現実だと受け入れられないでいた。

 結局、デルタ王はウィルロアもキリクも咎めることなく相談だけ乗って去って行った。


「父上!」


 キリクはこれを好機ととらえ、父を追いかけた。


「ラステマ人は冷酷で残虐な者ばかりではありません! 過去に縛られず一度ラステマ王と話してみてはいかがでしょう」

「……」

「ラステマと国交を結べば必ずデルタは今以上に発展し、民の暮らしは豊になります!」


 キリクは思いの丈をぶつけた。

 その場では明言を避けたデルタ王。

 ところが翌日、二人の王子との会話がきっかけで、ラステマ王と実に百年ぶりの対話を果たしたのであった。


 その後、大陸会議中に意気投合した両国の王は、一気に和睦の道へと話を進めた。

 大陸会議は歴史的瞬間に湧き立ち、他の議題が霞んでしまうほど両国の話題で持ちきりだった。

 大人達の間でどんな話が交わされたのか、気になりながら会議は閉幕した。

 キリクはウィルロアと別れの挨拶を交わした。再び会う約束をし、充足感で帰路に着いた。



 和睦の一報を知らされていた国民からは、心配していたほどの反発はなかった。

 中にはラステマ人による過去の非道な行いを掘り起こし、憎しみを扇動する輩もいたが民の反応は薄かった。皆国の転換期を冷静に受け止めているようだ。

 誰もが過去を忘れたわけではない。それでも、両国の関係に改善を望み、暮らしがより豊かになるのを期待する気持ちが勝っているように感じる。

 国民の支持も後押しして、両国には新しい風が吹こうとしていた。



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