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やさぐれ王子と無表情な婚約者  作者: 千山芽佳
第二章

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影武者説

 

 翌日、国王は王太子の謹慎を解き、王城にアズベルトを呼び戻すことを決定した。

 同時に軍も国境警備を元通りにし、騒動は一段落した。

 国王が軍の要望を呑んだ形ではあったが、元々アズベルトの謹慎を解くつもりがあったのと、和睦式典前に国賓が訪問するのもあって、騒動を迅速に解決したかった。

 残る問題は、軍を扇動した軍師ファーブルの処分だった。


 騒動から二日後、ウィルロアは謁見の間で国王、宰相らと共にアズベルトの到着を待っていた。

 扉が開かれると、アズベルトは堂々とした足取りで国王の元へと歩いてきた。

 その隣には従者ではない身なりの良い老齢者がいた。

 軍師ファーブルは、騒動の際には雲隠れして国王の再三の呼び出しに応じなかった。それがアズベルトの一声であっさり登城し、隣で恭しくしている。

 嫌味な奴だわ。

 アズベルトとファーブルは国王の前に進むと、膝を折って最上級の礼をとった。

 アズベルト、少し痩せたかな。 

 相変わらずウィルロアとは正反対の体の作りで、筋肉質で体格の良さはそのままだが、頬はこけ、目の下には隈が出来ていた。

 プライドの塊のような男が王城を追い出され、謹慎させられたとなれば精神的に苦痛だっただろう。アズベルト付きの従者達に同情する。

 久しぶりの兄の姿に複雑な思いを抱くと同時に、この日をようやく迎えたことに安堵した。重圧から肩の荷が下りる想いだった。

 もしあのまま、万が一にも自分に太子の座が舞い下りてきたらと思うと、想像しただけでぞっとする。

 よくもまぁ、あんな媚び売る連中相手に耐えて来たよ。

 ウィルロアが十年デルタで苦労していた時に、アズベルトもまた人知れぬ苦労をしていたのだと知った。

 いい経験させてもらったわ。なんかエーデラルの件ですごい腹立ってたけど、文句の一つも言ってやろうかと思ってたけど、ちょっと許そうかなって気持ちになってるもん俺。

 心の中で軽く『ばーか。ばーか』と悪態をついて、エーデラルの件は寛大な心で許してやることにした。

 アズベルトは終始前を見据えて陛下のお言葉に耳を傾けていた。

 そして宰相レスターから軍の処分が読み上げられる。

 するとアズベルトが前に出て、レスターの言葉を遮った。


「処分を下す前に、どうしてもお話いたしたきことがございます」

「……何だ」


 ぎくりと嫌な予感を抱いたのはウィルロアだけではない、陛下も僅かに返事に躊躇していた。

 おいおいおいおい! また余計なこと言って謹慎に逆戻りとか勘弁してくれよ!? お前は頭悪いんだから口閉じて黙っとけ! 人徳あるウィルロア様でも今度こそ庇いきれねーぞ!?


「両陛下にはご心配とご迷惑をおかけしましたこと、改めてお詫び申し上げます。己の浅慮な行動に国民を不安にさせ、王太子として不甲斐なかったと深く反省いたしました。そしてウィルロアには、酷い仕打ちをしたと心から謝りたいです」


 謁見の間にいた全員の口がかっぽりと開いた。

 そしてアズベルトは深々と一礼すると、今回の責はファーブルでも軍でもなく、自分がすべて請け負うべきだと主張した。

 ハァ?


「軍は王城内で巻き起こる王位争いに終止符を打つため、今回の騒動を起こしました。全ては王太子である私の不徳の致すところ。責任は私にあります」


 ウィルロアは一度目をぎゅっと瞑ってからガッと開いてみたが、目の前にいるのはやはりアズベルトだった。

 え誰? 誰って見ればアズベルトなんだけど……え誰?


「軍は処罰も覚悟で国のために行動を起こしたのです。それは逆賊ではなく、忠臣と呼べるに相応しい。どうか、これ以上の混乱を招かないためにも、軍には寛大な処分をお願い申し上げます」


 頭を下げる王太子アズベルトの姿に、正気を取り戻した者達からは次々と称賛と感嘆の声が漏れた。

 や、やりやがった……!

 ウィルロアだけは全く別の考えに至った。

 こいつ……、ついに影武者用意しやがったな!?  

 ウィルロアは最後までアズベルトの偽者説を疑い続けた。

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