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やさぐれ王子と無表情な婚約者  作者: 千山芽佳
第二章

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30/79

どうやったら自信てつくの?

 

 ウィルロアの前で泣いてしまったカトリは、部屋に逃げ込んで閉じこもった。

 直ぐに追いかけてきたウィルロアが扉越しに何度もカトリの名を呼び謝った。

 ウィルロアが謝ることは一つもない。

 だから部屋から出て笑顔で「もう平気だ」と伝えなければいけないと、分かっているのに出来なかった。

 意思に反して流れる涙は止まらず、嗚咽まで出ていては何の説得力もない。

 扉越しに何度か「大丈夫だから」と、「自分が悪い」と伝えたが、ウィルロアが成す術なく戸惑っているのが扉越しに伝わる。

 暫くウィルロアは部屋の前で待っていたが、カトリの侍女に促されて去って行った。

 それからひとしきり泣いて、落ち着いた頃には外は夕方になっていた。


 その晩、ようやく部屋から姿を現したカトリに、ウィルロアは笑顔で出迎えてくれた。

 先程の話を蒸し返すことなく、晩餐では何気ない会話に終始してくれた。

 それが申し訳なくも有難かった。

 周囲の優しさに甘えていつも受け身になってしまうのは私の悪い所だ。


「明日は朝一番にここを出ます。誘っておいて最後までご一緒できずすみません」

「い……いえ」


 ずっと、顔を上げることが出来ない。


「屋敷の者達にはよく言っておりますので、ゆっくり滞在なさってください」

「……あの」

「はい」

「……」


 昼間の事を謝るべきなのに、ウィルロアはもう気にしていないのか普段通りにしているし、カトリも蒸し返しておいて上手く話せるかと言えば自信は無かった。


「お見送りを、してもよろしいですか?」


 だからせめて見送りだけはしたいと申し出たのだが、「お気持ちだけ受け取っておきます」と断られてしまう。


「本当に慌ただしく出ますので」

「……わかり、ました」


 もうそれ以上は何も言えなくなり、自己嫌悪という深い沼にはまっていくカトリであった。



      ***



 一方のウィルロア。カトリとの晩餐を終えると私室へ戻り、着替えもせずにベッドへ倒れ込んだ。


「ハァァー!」


 盛大なため息を溢したはいいが、周囲を気にして慌てて口を抑える。いつものようにそのまま愚痴モードへ突入するところだった。

 ここは別荘の部屋で防音設備もなく鍵がかかっていない。

 くっそ! こんな日こそ思いっきり声に出して罵りたいのにぃ!

 とは言っても、罵りたい相手は自分に対してだ。


「最悪だ……」


 ベッドの上で顔を覆い項垂れた。

 カトリを泣かせた。カトリを泣かせた。カトリを泣かせた。

 あの涙を見てから、天使と悪魔両方の小ウィルから責められ続けている。

 食事も、料理長には本当に申し訳ないと思うし楽しみにしていた分残念だが、ショック過ぎて全く味がしなかった。

 会話の記憶も曖昧だ。

 再起不能なウィルロアに代わって完璧王子があの場を取り繕ってくれたが、内心ではひどく落ち込んでいた。

 なぜあんな酷いことを言ってしまったのだろう。カトリだってきっと本心じゃなかったはずで、ウィルロアを気遣っての言葉だと分かりきっていたのに……。

 アズベルトのせいだ。あいつがカトリに贈り物を送らなければ! そんでもってあんなセンスの良い物を送らなければ! ちくしょう! あんなの嫌がらせだろ! わざわざ俺の屋敷に送ってきやがって! あーむかつく! あいつの狙い通りカトリと気まずくなったのが悔しい!


「……てか、お忍びなのにばらした奴誰だよ」


 そもそも何故アズベルトはカトリがここにいることを知っていた? 

 エーデラル行きは一週間前に急遽決まった。ラステマでは警備の観点からウィルロアが出かけることは一部にしか知らされていない。アズベルトは謹慎中で王城にいないし、外部との接触も控えているはずだ。カトリも違うと言っていたし、それならどこから情報が漏れたのだろうか。


「……」


 やめよ。疑ったらキリないわ。結局なるようにしかならないし。

 間諜の疑いまでかけられたのだから大人しくしておいた方がいいだろう。

 そうそう楽して生きる。それが本来の俺の姿ですよ。カトリとのことだって――。

 もう、『なるようにしかならない』なんて口が裂けても言えないほど、彼女が好きだと自覚していた。


「あー違う。認めるよ!」


 アズベルトのせいじゃない。むかつくけど。俺に余裕が無かったからだ。

 カトリの様子がおかしいのは気づいていた。ここへ来た時、どこか不安気で上の空な感じがした。その理由が何かウィルロアに分かるわけもなく、聞く勇気もなかった。

 エーデラルが気に入らなかったのかな……。

 ここで一緒に暮らして行こうと告げた時、カトリは俯いて黙ってしまった。

 こんな田舎じゃなく、華やかな王城で暮らしたかったのかもしれない。言い出せず、困らせたのかも。それとも俺との結婚が嫌になった?


「ハァー」


 いい加減、こんなうじうじと悩むのから解放されたい。それもこれも原因はウィルロアに自信がないからだろう。

 世の中の男はどうやって自信をつけてるわけ? 相手も好意を持っていると知ってもこの様だよ? 


「あーもう早く結婚してえー!」


 最後の言葉は無意識に漏れてしまうのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 言葉!言葉が足りないよカトリちゃーん って、それがカトリなのですが。
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