恋多き男、恋愛嫌いの姫を同棲相手だと思い込む
同居の盟約0、恋愛禁止。
15番目ではなく0番目に持ってくるというのは、きっと何よりも優先したいという意思表示なのだろう。
「さっきもチラッと聞いたけど、恋愛禁止ってどういう意味なんだ?」
「そのままの意味。わたしも出雲も恋愛禁止」
「神宮が禁止するのは勝手だけど、どうして俺まで禁止されなきゃいけないんだ?」
「だって、もしも出雲に彼女が出来たら同居なんか出来ないでしょ?」
えっ?
あ……あぁ、そういう事?
「なるほど、確かにそうだな。付き合いながら誰かと同居してるなんてあり得ないよな」
「でしょ。だから恋愛禁止。破ったら一発退場」
「なんだ……そういう事か」
「決定でいい?」
「あぁ、それならその通りだから構わない。いやぁ、俺はてっきり神宮が恋愛嫌いなのかと」
「――嫌いだよ? 恋愛なんてこの世にいらない」
俺の言葉を遮って放たれた絶対零度の一言。
その冷めた声音に思わずぞくっと全身を震わせてしまった。
「それは……男が嫌いだからか?」
「男も嫌いだけど、恋愛自体が嫌いだから男も同時に嫌いって感じかな」
これは……もしかすると、俺とはことごとく意見が合わないんじゃないか?
ただ、そう思っていても聞かずに済ませるわけにはいかない。
「どうして恋愛が嫌いなんだ?」
「そもそも恋愛って何? 人生において必要?」
「必要だろ。むしろ人は恋するために生まれてきたと言っても過言じゃない」
「過言でしょ。じゃあ恋愛しない人間は生きてる価値がないの?」
そういう極論を言われると何も言えないが……悪しきものではないはずだろ?
「そうは言わねぇけど、恋をすれば人生が豊かにはなるだろ?」
「ならないよ。恋は人を狂わせる――ただの麻薬」
「そこまで言うか? まぁ確かにそういう一面もあるかもしれねぇけど」
「じゃあ聞くけど、日頃のニュースで色恋沙汰が絡む事件がどれだけある?」
なんだよその質問。
そんなの……意識して見たことねぇよ……。
「色恋沙汰で刺されたとか、ストーカー被害に遭ったとか、レイプされたとか、盗撮されたとか、そういうのって全部色恋沙汰でしょ?」
「後半は違うだろ。それは単なる性犯罪者で」
「一緒だよ。ただの性衝動でも、その対象に『恋焦がれる』から罪を犯すんでしょ?」
「……いや、それは」
「芸能人の結婚が報道されたりするよね? でもそれよりも多くて人を楽しませるニュースは、浮気とか不倫とか離婚とか、そういうネタばっかりじゃない?」
それは……確かにそうかもしれない。
実際結婚報道で盛り上がるのは一部の大きなカップルだけで、逆にマイナス方面のニュースは大したカップルじゃなくてもおもしろおかしく報道されている。
「でも、それは視聴者がそういうネタを好むからであって」
「人の不幸を好むとか、それこそ恋に狂わされてると思わない?」
「ぁ……いや、それは……」
「反論しないの?」
そこをピンポイントで突かれると、ぐうの音も出なかった。
大多数の視聴者が望むから、視聴率が取れるからこそ報道する。それはつまり、多くの視聴者が不幸を望んでいるということに他ならない。
そしてその原因は何か。
社会生活で受ける日々のストレス発散という意味合いなんかもあるかもしれないが、大前提として恋という事象が存在するからかもしれない。
「そもそも恋って何? 好意って何?」
「恋は追いかけるもの。人を好きになることだ」
「じゃあ好きって何? 好きになるのは容姿? それとも内面?」
大丈夫だ……。
これについては俺なりの持論がある。
「どっちもだ。内面は当然だけど、外見だって内面の一部だ」
「どういう事?」
「外見は内面から滲み出るもの。それは単に性格的なものもあるけど、可愛く綺麗にかっこよくなりたいと思って努力した結果だ。だから外見は内面を表してると言える」
「回りくどい。要するに?」
「『外見に気を遣う』っていう内面があるから、優れた外見が生まれるんだ。まぁもちろん生まれつき優れてる奴も中にはいるけどな」
俺の返答に対して「ふぅーん」と相づちを打ってから、首を傾げた神宮。
「じゃあ外見から入った場合、老けたら嫌いになるの?」
「……そうとは限らねぇだろ」
「断言は出来ないんだ」
「老けるほど年取ってねぇからな」
「取ってるよ。昔言ってたよね? わたしのこと好きだって」
「っ――!」
まさかこんなタイミングでその過去を提示されるとは思わなかった。
ただ……そっちがそれを引っ張り出すなら、俺にだって言えることはある。
「どうなの? 変わってないの?」
「神宮がいない間は他にも恋をした。でも……あの頃の気持ちが変わったわけじゃない」
「ふぅーん……でもそれって外見だけだよね? 内面は?」
「それは……まだわからない」
「内面だって歳を取れば変わるでしょ? それで好みじゃなくなったら、そこでその恋は終わりなの? 現に今、わからないって言ったよね?」
質問攻めをされすぎてよくわからなくなってきた……。
好きになった時から外見も内面も大きく変わった場合、それでも好きでいられるのはどうしてだ?
そもそも……好きってなんだ?
「もう一つ。性欲と恋ってどう違うの?」
「それは全然違うだろ」
「へぇ。じゃあ恋した相手に性欲は抱かないの?」
「え……」
「そもそも恋愛って、性行為のためにある事前準備じゃないの?」
「いや……それは……」
駄目だ……。
――本気でわからなくなってきた……。
「例えば、今日からわたしと出雲は一緒に暮らすよね? これと結婚生活ってどう違うの? 性行為があるかどうか? なら付き合うとか結婚っていうのは、性行為の有無だけしか違いがないの?」
「ち、違うだろ。それ以外にも色々」
「それはスキンシップとか? それとも戸籍? 税金とかそういう事?」
あれ……?
恋って……恋愛って……。
――付き合うってなんだ?
「…………」
「お父さんも同じこと聞いたら難しい顔してた。やっぱり親子だね」
「っ……」
何故だろう……何一つ答えられない俺が悪いのだが、それでも無性に腹が立つ。
まるで俺の、同時に親父の人生を否定されたような気分になる。
「まぁ、今のはざっと言っただけだけど、この時点でどれくらい恋愛が曖昧で不必要なものかわかったでしょ?」
……駄目だ。
このまま引き下がってはいけない。
俺はここで負けを認めるわけにはいかない。
たとえ理由が見当たらなくても、反論できなくても……。
「要するに恋愛なんて必要ない。まぁでもそれだと人口がゼロになっちゃうから、やりたい人だけ繁殖行動すればいいんじゃない?」
「違う……お前は間違ってる」
「どう間違ってるの?」
それを言葉にする術を俺は持たない。
けど、今決めた。
「お前は間違ってる」
「ただ間違ってるって言われても困るんだけど」
見てろよこの野郎……。
今はまだ何も持たないが……いつか絶対……。
「俺はお前が――」
「あ、さっきはわたしから振ったから見逃したけど、もしも告白とかしたら一発退場だからね?」
「――っ……」
――あっぶねぇぇぇぇぇ!!
そうだった、忘れてた……盟約0――恋愛禁止。
俺はこれを一度受け入れてしまった。
なら……男に二言は無い……。
「わ……わかってる。何も言うつもりは無い」
「よし。じゃあ今日はこんなところでいいかな?」
「あぁ……そうだな」
「生活しながら何か足りないルールがあれば追加ってことでいいよね?」
「……それでいい」
いつの間にか完全に主導権を握られていた。
運命的とも思えた再会からここまでの流れ。
だけどもしも、今の神宮愛姫に本気で恋をした場合…………。
――俺は一体、どうすればいいのだろうか……。
「ということで、ゲームしてもいいっ?」
テレビ台に収納されているゲーム機を指差す神宮。その瞳は少し輝いて見えた。
いや急に子供かよ……さっきまでの真面目な雰囲気どこいった。
と思いつつも無邪気な様子を見ると思わず微笑んでしまい、緊迫していた雰囲気は一気に崩れてしまった。
「好きに使っていいぞ……俺はちょっと食材の買い出ししてくる」
「えっ? あ、待って! それならわたしも一緒に行く」
「なんで?」
「なんでって……家事は出来ないけど、そういうのなら手伝えるし」
あっ、そういう優しさはあるんだな。
なんだよ……普通に良いやつじゃねぇか。
「そっか……ありがとう。何か食べたいものあるか?」
「え? なんでもいいの?」
「まぁ、俺に作れるものだったらな?」
「じゃあオムライスっ!」
少し弾んでいるようにも聞こえる声での即答。
なんだよそのチョイス……なんかちょっと可愛いじゃねぇか……。
「任せろ。得意料理だ」
「うん、知ってる」
「……なんで知ってんだよ」
「お父さんから聞いてたから」
親父め……ただ、今はグッジョブと言っておこう。
「確か、荷物届くの遅れるんだよな?」
「土曜日になるらしいよ? だから今、最低限しかないんだよねー」
「なら、ついでに直近で必要な物も買ってくるか」
「うん、ありがとっ」
親父。知らぬ間に再婚してくれてありがとう。
そしてこれはあれか?
親父が無理だったから、代わりに俺が恋愛のいろはを教えろっていうことか?
まぁ、そうじゃなかったとしても教えるつもりだけど。
「とりあえずまぁ……あれだ」
「なに?」
まだ1日目で何もわからない。
それに少し厄介な思想も持ち合わせているみたいだけど……そもそも付き合うってのが何なのか、わからなくなったからちょうどいい。
ここは前向きに捉えて、同居でもルームシェアでもなく……。
「今日から……改めてよろしくな?」
「改めてかぁ……まぁ、うん。よろしくね?」
――いっそ同棲だと思いながら生活してみよう!
※ここからひとまず同居(同棲?)スタートとなります!
基本的には1日1話投稿で進めていきます。
(何かあれば舞い上がって複数話になるかもしれませんが)
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絵が描けない系作者なのでアプリで作成したイメージ画ですが、
ツンドラ&二つ結びの時の、ヒロイン愛姫の画像がありますので、
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