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同居人、盟約を決める

 ――恋は追いかけるもの。愛は向かい合うもの。



 これは俺の持論の一つだ。

 そして俺は追いかける恋がしたい。

 ただ……こいつのせいでわからなくなってきた。



 ――恋愛って……付き合うって一体なんなんだ?



同居の盟約(・・・・・)、これでいいよね?」



 向かいに座る同い年の美少女。

 同居人で、転入生で、幼馴染で、義妹の――神宮(かみや)愛姫(あき)

 その端正な顔がこちらを睨んで確認してきた。



「あぁ、基本はそれでいいと思う」



 睨まれたのは努力で作り上げた雰囲気イケメン。

 同居人で、ぼっちで、ナルシストで、義兄の――出雲(いずも)恋男(れお)

 そんな俺はそこそこの顔で受け入れた。



「じゃあ、決まりね?」

「わかった。ならもう一度確認するぞ」



 出雲恋男と神宮愛姫。

 親父の部屋を片付けて使うことになった神宮と、元から使っている自室に俺を振り分けたルームシェア的な同居生活。

 今日から始めるその生活のルール。



 ――【同居の盟約(めいやく)】と名付けられたそれを読み上げる。



「同居の盟約、基本編。ひとまず親父が海外赴任中の高校卒業まで」

「オッケー。じゃあその1」

「1、家事は全て出雲恋男が担当。ただしゴミ出しだけは頼んだ」

「うん。あと下着の洗濯だけはコインランドリーでするから、そっちも分けてね?」


 まぁ年頃の男女だし当然だな。

 首肯を返して次へ。


「2、互いの部屋に用がある場合、ノックをして返事があってから入室する」

「あと当たり前だけど、勝手に入るの禁止ね?」


 当然だと言わんばかりに力強く頷いてから次。


「3、トイレ使用後は、必ず消臭スプレーを使用する」

「わたしが入った後は10分は使わないで」

「了解」


 その辺は男女の差によるエチケットの範囲内。

 俺が甘んじて条件を受け入れよう。


「あと入ってるかどうかちゃんと確認してね? もし入ってるのに開けたら」

「確認はするけど、ちゃんと鍵はかけとけよ?」


 やや睨み合ってから、互いに何かに対して頷き次へ移る。


「4、洗面所の使用後は髪の毛などをちゃんと流す」

「これは主にわたしかな?」

「まぁそうだな。これはあくまでも一応って感じだ」


 頷くのを確認してから次へ。

 これが一つの山場だ。


「5、入浴の順番は神宮愛姫の後に出雲恋男で基本固定。遅れる場合は臨機応変に」

「絶対に覗かないこと。音も聞かないこと。あと排水溝とかその他色々、変なもの探したりしないこと」


 まぁ男女の共同生活として気にするのは当然だと思うが、ちょっと自意識過剰気味じゃないか?


「いい? 毛とか拾ったりしないでよ?」

「あのなぁ……普通にそういうこと言われると引くぞ?」

「勝手に引けば? 好かれたいと思ってないし」


 あぁそうですか。じゃあもういいよ、次。


「6、帰りが遅くなる場合は必ず一報を。食事不要の連絡も同じだ。あと同時に7、帰りが遅く、暗く、一人になる場合は一報の後に待機。これは神宮だけな?」

「6はわかるけど、7はどうして?」

「夜に一人で帰ってくるのは危ないだろ。(あん)に迎えに行くから明るいところで待ってろって言ってんだよ」

「……出雲と一緒に帰る方が危ないんじゃないの?」

「あのなぁ……これからその出雲と同居するってわかってて言ってるか?」


 俺が溜息交じりに呆れ顔で問いかけると、やや苦々しい表情を浮かべた神宮。


「……仕方ないから迎えに来させてあげる」

「はいはい、そりゃどうも」


 少しの間話していてわかったが、どうやら神宮は分が悪くなると上から目線になるらしい。

 もしかすると完全な敗北を認めたくないのかもしれないな。


「次、その8。リビングの使用は自由。テレビのチャンネルはじゃんけん」

「自由だからって下着とかでうろつかないでよね?」

「わかってるよ。あぁ、あとテレビ台に置いてある俺のゲーム機も好きに使っていいぞ」

「え? ホントに?」


 お? 意外とゲームがお好きですか?


「なんなら後で一緒にやるか?」

「あ、そういうのは結構でーす」


 どうやら俺の事はお好きじゃなかったらしい……。


「はいじゃあ9~……就寝時間はー自由でぇーす。ただしー、片方が眠っている場合は音などに注意してくださぁーい」

「露骨にへこんでも遊んであげないからね?」

「子供扱いすんじゃねぇよ。とにかく何時まで起きてても構わないし徹夜でゲームしてもいいけど、音には気をつけろよ?」

「っ――……そっちこそ子供扱いしないでよ」


 そんなこと言いつつ、今一瞬びくっとなったのを見逃さなかったぞ?

 さてはお前、初日から夜通しやるつもりだったな?


「あ、次はわたしから言う。その10! 自室でナニしようとご・勝・手・に。ただし音とか匂いを漏らしたら出て行ってもらうから」

「一応これってお互いのルールだよな?」

「は? 出雲だけに決まってるじゃん。わたしはナニもしないし」


 そうかよ……まぁそうだよな……。

 というかこういうのを女子に面と向かって言われるとどう反応していいかわからない。

 とりあえず……流すか。


「11、他人を招かない。不可避の場合は片方が外に出る。ただしその外出費用は招待した方が持つこと」

「これいる? わたし友達とかいないけど」

「これから出来るかもしれないだろ?」

「そうかもしれないけど、出雲も友達いないでしょ?」


 こ、これから出来るかもしれないだろっ! あと1年で卒業だけどっ!

 そしてそんなこと言うと馬鹿にされそうだから次ぃ!!


「12、食事は必ず一緒に取る。あと13、喧嘩中でも挨拶と食事だけは欠かさない。これは単純に、生活の雰囲気が悪くなるのが嫌だからな」

「まぁそれくらいならいいけど、必要最低限以外は話しかけないでね?」


 どうしてそんなに男から話しかけられるのを嫌うのか非常に気になるところだが……まぁ初日から踏み込んだことを聞くのはやめておこう。


「わかったよ。んじゃあ14、あらゆる面で遠慮しない」

「これ、いる?」

「神宮が金の問題で散々遠慮したからだろ。親父の子供っていう対等な立場なんだから遠慮すんじゃねぇよ」

「いや、だってわたしは本当の子供じゃないし…」

「それは遠慮か?」

「ち、違う! 今のはただの愚痴! とにかく次、罰則!」


 罰則。

 それは二人で決めたルールを破ったときのペナルティだ。


「ルールを破った場合、1回目が100円の罰金。2回目が500円で、3回目が1000円。で、4回目以降は――」




「「相手の要求に何でも1つ従う」」




「本当にいいんだな?」


 金額を上げていけばいずれ払えなくなる。かといって上げなければなぁなぁになって破る可能性がある。

 この辺りから二人で決めたのだが、一応再確認を取る。

 すると真剣な面持ちで頷いた神宮。


「いいよ。判断基準は相手次第なんだよね?」

「あぁ、そうだ。だからお互い理不尽な罰則は無しにしよう」

「わかってる。ただ……れ……出雲が変なこと要求しないって信じた上でのペナルティだからね?」

「当然だ。俺は神宮が本当に嫌がる事はしない」


 何でもといえば本当に何でもになってしまう。

 しかしそこは一応幼馴染、かつ愛姫を育てた親父の息子だからと信じてくれたらしい。

 だからその信用を裏切るような要求は絶対にしない。


「……信じてるからね?」

「わかってるよ。じゃあ次に金のことだ」



 この共同生活は、全て親父からの仕送りによって賄われる。

 もちろんお互いバイトをするのは自由だが、15万円もあればよほどの事がない限りは足りるだろう。

 しかし馬鹿みたいに使える額ではないので、ある程度は決めておかなければならない。


「じゃあ同居の盟約、金銭編。まず月の小遣いはお互い1万円だ」

「定期、スマホ代は家計から出してくれるんだよね?」

「あぁ。あと俺も神宮も必要だから、互いのスキンケア用品、その他ある程度の美容用品は家計から出す」

「それは助かるかな」


 神宮の荷物が届くのは、引っ越しラッシュのあおりを受けて土曜日になってしまったらしい。

 なのでまだどんな物を使っているのかは見ていないが、話を聞いた分にはそれなりに手入れには気を遣っているという。


 ならそこはお互いに必要な物として家計から出してもいいだろう。化粧はしていないらしくその辺りがいらない分、大した額にはならないはずだ。

 まぁそれでも俺に掛かる費用の方が安くてやや不公平かもしれないが、神宮が綺麗でいてくれればその分生活に華が出る。

 結果的に俺は得をするわけだから特に問題は無い。


「次。互いの洋服代は月に1コーデまでで、ほぼ同額になるよう家計から出す。ただ、節度ある額で頼むぞ?」

「大丈夫。多分たいして外出しないだろうから、あんまり買わないと思う」


 俺はともかく神宮は新しい服も欲しくなるだろうからと設けた盟約だったのだが……それは一体どういう意味だ? 引きこもり体質なのか?

 うーん……まぁいいか。次だ。


「神宮愛姫の女子として必要不可欠な用品は家計から出す。あとその他、高額な外出費用に関しては応相談で家計から出す」

「一応お礼言っとく。気を遣ってくれてありがと」

「二つ続けて言うことで流そうとしたんだから拾うんじゃねぇよ……とにかくこれでいいな?」


 金銭編について最終確認を取ると、渋い顔をしながらうなる神宮。


「ねぇ……やっぱり最後の、わたしの分は無しでいいよ? このお金って出雲のお父さんのでしょ?」

「それがどうした? 神宮の親父でもあるだろ?」

「そうだけど、血は繋がってないし……結局のところあたしって赤の他人だよ?」


 親父の手紙によると神宮は生活能力が皆無で、金銭感覚も少し鈍いらしい。

 しかしだからといって、金遣いに全く気遣いが出来ないというわけじゃなかった。

 それが高いか安いかくらいはちゃんとわかる。単純に金の管理をさせると使い過ぎる可能性が高いというだけらしい。

 ただ――だからといって気を遣われてばかりでは困る。


「もしかして、今のは遠慮か?」

「ぅ…………何も言ってない」


 盟約14【あらゆる面で遠慮しない】。

 神宮のこういう遠慮がちな部分を封じる為に追加した盟約がさっそく効果を表した。


「さて、じゃあこんなもんで」

「待って……遠慮するなって言うなら、あたしからもう一つ追加したい事がある」



 ――来たか。



「いい?」


 このルールを決める時に、神宮が唐突に言い出した。

 その時は他のルールが先だと言って流したが……どうやら本気だったらしい。


「あぁ……察しはついてるけど、言ってみろ」



 初めて出会ったのは15年前。

 共に過ごした時間は6年間。

 8年ぶりに相まみえたのが今日。



 初めて出会った時から、俺は神宮愛姫が好きだ。

 6年の間はずっと神宮愛姫のことが好きだった。

 そして今日、改めて一目惚れした。

 まだ新たな神宮愛姫についてよく知らないが、俺はまた恋をする気がする。



 しかし神宮愛姫は俺をなんとも思っていない。

 いや……それどころかこの女は……。




「同居の盟約0(ゼロ)――――恋愛禁止」




 ――恋愛そのものが嫌いらしい。

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