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恋男と愛姫、同居を決意する

 手紙に書かれていた内容を要約すると、こういう事だった。



・親父は神宮愛姫を過保護に育てすぎた。

・そのせいで生活能力に乏しい。

・具体的には一切の家事が出来ない。あと金の管理が苦手。

・よって一人暮らしをさせるのは不安。

・しかし全寮制の学校はそれはそれで不安。

・高3になった出雲恋男なら節度のある生活が出来るはず。

・だから兄として面倒を見ろ。



 他には神宮が娘になった詳しい経緯やこれまでの生活ぶりについてと、戸籍上は兄妹でも学校では旧姓である『神宮』を名乗る事などが記されていた。

 それと、転入した神宮の学費は既に支払われているらしい。



 そして最も重要な俺達の生活費だが、親父の銀行口座から俺の口座へと毎月1日に自動で振り込まれる事になっていた。

 これについては今までの俺の生活と変わらない。

 ちなみに一応改めてコンビニまで確認しにいったところ、これまでは8万円だったのが一気に15万円に増えていた。


 なお、家賃は親父の口座から自動引き落としだが、光熱費やスマホ代や定期代など、その他の費用は全て振り込まれた生活費から工面しろとの事だった。

 家賃が必要無い二人暮らしで15万円というのは多めの額らしいが、これは遊びに行く金や服を買う金が必要な時に、バイトをしなくてもいいようにと考えてくれたらしい。


 あぁ……そして最後にもう一つ。

 これは神宮には見せていないし、絶対に見せるわけにはいかないが……。



 ――合意の上なら交際しても構わん。



 との事だった。

 まぁ兄妹とはいえ義理だし、そもそもお互い兄妹としての自覚なんて無い。

 もっといえば生まれたのが数時間違うだけで、実質双子みたいなものだ。

 だから交際するのもやぶさかではないのだが……。



「ありえない……嘘でしょ? よりによって同い年の男と同居とか……」



 神宮の方は両腕で身体を抱いて震えるほど嫌らしい。

 そんなに嫌なのかよ……それは普通にショックだぞ……?


「あの、神宮」

「話しかけないで!」


 ……またか。

 いいのか? 俺はそう言われると本当に何も喋らないぞ?


「ごめん、ちょっと待って。整理するからちょっと待って……」

「…………」

「あ、ダメだ。わたしにはこのルートしか選べない?」


 黙っていると何かを考えてから、何かよくわからない事を言った。


「学費は確かもう払ったって言ってたよね? それにわたし口座とか何も持ってないから実質無一文(むいちもん)……身よりもお父さんしかいないから、却下されたら保証人もいなくて部屋も借りられないし……そもそも借りても生活能力とか皆無だし」


 どうやら他の方法を模索しているらしいが、確かにその状況だと()んでるな。

 あるとすればバイトしながら保証人のいらない部屋でも探すかだけど……まぁ借りたところで生活能力皆無じゃ無理だろうな。


「え……でもだからって、よりによって男と二人で暮らすの?」

「…………」

「ちょ、ちょっと……じろじろ見ないでよ」


 見ないでと言われたので視線を横方向へと外す。


「急展開すぎない? ていうかわたしも騙すって、お父さん酷くない?」

「…………」

「ねぇ、そう思わない?」

「…………」

「な、なにか言ってよ……」

「話していいのか?」

「ちょっとは融通利かないわけっ!?」


 まぁ確かにそうなんだけど、反応が面白くてつい。

 にしても確かに神宮の言うとおり急展開すぎる。

 もう少し前もって言っておくとか何か無かったのか?


「どうする? 一応俺としては、神宮が出て行けって言うなら鍵置いて出て行く覚悟は出来てる」

「……えっ? なにそれ、どういうつもり?」

「女子を一人でほっぽり出すわけにはいかないしな。出て行くなら俺だろ?」

「……それはダメ。わたしのワガママでそんな事はさせられない」


 へぇ……意外だった。

 明らかに男を毛嫌いしていそうなニュー神宮愛姫なら、それくらいの事は軽くやってのけるかと思っていたんだけどな。


「ならどうするんだ? ちなみに一応言っておくと、同意無しで手は出さない」

「同意無しってどういう意味?」

「付き合ってないのに手を出す事は無いって意味だ」

「付き合う事なんかありえないから一生手は出さないで」


 ぁ……告白したわけじゃないのにフラれた。

 フラれることには慣れているが、相手がこいつだとちょっとくるものがある。

 何せ俺の初恋の相手で、かつ一時期は子供とはいえ両想いで結婚の約束までした相手。

 そんな相手とせっかく再会出来たのに即フラれるというのはちょっと……。


「わかった……とりあえず手は出さないとだけ言っておく」

「……ホントに? 信用できないんだけど」

「もしも一緒に暮らすなら、信用してもらうしかない」

「出したら問答無用で警察に突き出すからね?」

「……っていうことは、一緒に暮らすつもりなのか?」


 睨んできていた神宮の視線が一度そらされた。

 そして唇を尖らせながらぽしょぽしょと呟いた。


「あくまでも消去法だから……完全に信用したわけじゃないから」

「まぁそこは今後の行動で示していく。んじゃあとりあえず、色々どうするか話し合うか?」

「……うん。仕方ないから話し合ってあげる」


 なぜに上から?

 まぁいいや。俺としては役得だ。

 完全に性別から嫌われているが、非の打ち所のない美少女と一つ屋根の下。

 これで喜ばない男はいないだろう。


 もっとも、これが他の女子だったら俺も多少は尻込みした。

 しかし相手は数年疎遠だったとはいえかつての幼馴染み。

 加えて戸籍上は兄妹という事もあってか、少しは落ち着いている。



 そう……少しは。

 少しだけ……は……。



「あ、ごめん、やっぱ無理」

「え……? どういうこと?」

「あー、無理無理……全然無理」

「なにそれ……まさかそっちから断られるの?」


 いや、違う……そうじゃない……と言いたいけど声が出せない。

 動悸、息切れ、心臓ばっくばく。

 心肺停止5秒前。



 ――助けてくださぁぁぁい!!



 こんな可愛い子と二人で暮らす?

 アホかっ! 平常心が保てるわけねぇだろうが!!

 いくつだと思ってんだ! 高3だぞ! しかも童貞だぞ!

 彼女いない歴イコール年齢の俺が、このシチュエーションでしれっと出来るわけねぇだろぉがぁ!!


「ね、ねぇ……ダメなの? もしかして追い出される……?」


 どうやらニュー神宮は平常時こそ気が強いようだが、追い込まれると弱いらしい。

 今も眉をハの字にして弱々しい表情で俺の顔を覗き込もうとしてくる。

 やめろ……四つん這いで近付いてくるな……!


「待て、止まれ……それ以上その可愛い顔を近づけるな……」

「は? なにそれキモ……引くわぁー」


 あ……一気に脈が正常になった。

 まさかそんな風に返されると思わなかった……。


「いや、今のって普通は『えっ? か、かわいい?』ってときめくとこじゃないのか?」

「全然。ていうかそんなこと期待しながら言ってたの? なおさら引くんだけど」

「……そんなわけねぇだろ。ただ素直な感想を言っただけだ」

「それも狙って言ってる? だとしたらそういうの、わたしには刺さらないからね?」


 くっ……むやみやたらに告白特効をし続けた末に身につけたテクニックが通用しない!

 まぁそもそも身につけてから初めて使ったんだけど。


「まぁいいや。とりあえず家事は俺がやるしかないんだよな?」

「さらっと本題に入ったね……まぁいいけどさ。それでお願い」

「ちなみにどれくらい家事出来ないんだ? 例えば料理は?」

「インスタントとレトルト以外は作れない」


 はい、把握しました。


「ちなみに洗濯は?」

「洗剤入れすぎて洗面所を泡だらけにしてからしたことない」


 はい、把握しましたぁー……。


「掃除は?」

「ゴミ屋敷ってお父さんに怒られた」


 はぁい……把握しましたぁ~……。


「家事は全部俺がやる。流石にゴミ出しくらいは出来るよな?」

「分別してあれば」

「……わかった。分別までは俺がやる」


 あれ……おかしいなぁ。

 俺の妄想だと、成長した神谷愛姫はもっと大和撫子な感じになってるはずだったんだけどなぁ。

 家事は全部完璧に出来て、理想の女性像みたいな……。


 ――いや、これは男の押しつけだな。


 勝手に男の理想像を押しつけてはいけない。

 たとえ勝ち気で可愛げが無く、家事が全く出来なくても、立派な女だ。

 というか、すごく……女の子です。

 二人暮らしか……やばい、ちょっと高まってきた。



「よしっ! じゃあ他も順番に決めていくかぁ!」

「えっ……なんで急にテンション上がったの? まぁいいけど」



 そうして俺達は互いに意見を出し合い、さっそくルールを決めた。

 しかしまさかそこに……。



 ――あんなルールが追加されることになろうとは……。

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― 新着の感想 ―
[一言] やる気が少しでもあれば、ここまで無能にはならない。 こんなお荷物、要らん!
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