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幼馴染、部屋の前で睨み合う

 あれから始業式を経て、帰りのホームルームが終えるまで、神宮は一言も喋らなかった。

 そしてチャイムが鳴ると、話しかけようとするクラスメイトを尻目に颯爽と姿を消した。

 結局俺が幼馴染だとちゃんと打ち明けられないままに終わってしまったが、まぁどうせ明日からも顔を合わせるのだからと切り替えて俺も帰路についた。

 …………のだが。



「っ……」



 昼前に帰れるおかげで、高校の最寄り駅から乗る電車は非常にすいていた。

 だから長椅子の端に座ったのだが……正面にはまさかの神宮愛姫。


「…………」


 ちらちらと視線だけで顔を盗み見ると、向こうもこちらをちらちら見ているように感じる。

 しかしだからといって声はかけられない。なにせ神宮は話したくないみたいだからな。


 と思いながら二駅乗ったところで、別の電車に乗り換える。

 乗り換えた電車もまた、昼時だからすいていた…………のだが。



「…………」

「…………」



 まさかまさかの再びご対面。

 なにこれ? お見合い? ご趣味は、とか言った方がいい?

 ていうかこいつ、なんでよりによって前に座るんだよ。あ、いや、座ったのは俺の方か。


「ちっ……」


 お向かいから聞こえてきた短く鋭い音――――はぁっ!?

 おい聞いたか今のぉ!! 舌打ちされたぞぉっ!?


 なんだこいつ……そんなに男が嫌いか?

 いいよいいよ。どうせこの分だと、俺の事なんか覚えてねぇんだろ?

 と投げやりな思考になりながら一駅乗って電車から降りる。



 ――神宮の背中を眺めながら……。



「ぇー……」


 降りる時に後ろに立つと、微かに嫌そうな声が聞こえた。

 これ……男うんぬんとかじゃなくて、やばい奴だと思われてそうだな……。


 更に更に、改札を出るとそこから向かう方向もまさかの同じ。

 おかげで俺は完全に、神宮の後をついていくストーカー状態だ。


「…………はぁ」


 前を歩く神宮から、はっきりと聞こえた深い溜息。

 そしてその身体がこちらへと振り返った。同時に俺も立ち止まる。

 すると明らかに苛立っている表情で、眉間にしわを寄せながら睨んできた。



「ねぇ……いつまで着いてくるつもり?」

「…………」

「何が目的なの? ストーカーごっこ?」

「…………」

「ちょ、ちょっと……なんで何も言わないのよ?」

「…………」

「……あれ? もしかして…………違う?」


 睨むような表情だった神宮が、見る見るうちに青ざめて唇を震わせる。

 ん? なんだその反応……違うって何がだ?


「ひゃ……ひゃ……」


 ブレザーのポケットからスマホを取り出した神宮。

 なんだ……? ひゃ?


「ひゃくとおばんっ!!」

「えっ!? まっ、待てぇぇい!!」

「いちいちぜろ! いちいちぜろ!!」

「違う違う違ーうっ!! 神宮が話しかけるなって言ったから黙ってただけだ!!」


 スマホを取り出して身構えた神宮の前で、両手を挙げて降参のポーズを取りながら叫ぶ。

 するとピタッと動きを止めてから、訝し気な視線で睨みつけてくる。

 とりあえずスマホを操作する指の動きは止まったらしい……あっぶねぇ。

 危うく幼馴染に通報されるところだった……。


「えぇぇー……確かに言ったけど、そこまで律儀に守る?」

「俺は女が嫌がる事はしない主義なんだ」

「あっそ。じゃあ話しかけないで?」


 あ、ふりだしに戻った……せめて自己紹介だけでも挟めば良かった。

 と思うものの、不動のポリシーによってお口チャック。

 教室では話そうと頑張ったが、これだけ何度も言われればそれが本気なのだとわかる。そして本気で嫌がっている事はしないのが俺のポリシー。

 ということで話せなくなってしまったので、仕方なく会釈をしながら隣を通り過ぎよう。


「ん…………」

「…………え?」


 まぁそもそもの話、わざわざ後ろを歩く必要性は無かったんだ。

 普通に前を歩けばストーカー扱いされずに――。


「待って」

「うぎゅぅっ!?」


 突然ワイシャツの襟元を掴まれグイッと引かれた。

 こ、この野郎……喉がしまったせいで変な声出たじゃねぇか……。


「まだ目的を聞いてない。何のためにストーカーしてたの?」

「…………」

「ちょっと……答えてよ……」

「…………」

「あーもうっ! わかった! 今だけ話していいから口開いてっ!」


 よし、お許しが出たな。

 まぁ流石に今のはポリシーとは無関係にちょっとからかった部分があったけど。


「まず、俺、出雲恋男」

「イズモレオ? 新しいポケモソ?」


 でんき、ほのおタイプ辺りかな?

 きっと別バージョンにいるカミヤアキと対になるポケモソで……ってそうじゃねぇよ。


「本当に覚えてないのか? 小3まで一緒に遊んでたろ?」


 確認するように問いかけると、大げさに肩を落としながら溜息をついた神宮。

 続けて腕を組んでから片脚重心になり、もう一度浅い溜息をついた。



「そんなわけないでしょ? 教室に入った時点で気付いてた。今のは……ちょっとボケてみただけ」



 おっ? なぁんだよ~、覚えてたのかよぉ~!


「ちょっと……なにニヤニヤしてんの?」

「いやぁ、ちょっと嬉しくて」

「……キモイ」


 キモイと言われても今は構わない!

 それよりも、さも当たり前のことかのように言われたことで露骨にテンションが上がる。

 だよなぁ! 覚えてるよなぁっ!


 ――ん? いや待てよ?


 ということは神宮は覚えていた上で、それでも俺を他の男と同列に扱って拒絶したってことか?

 おぉぅ……それはちょっとショックだが…………ま、まぁ今はいいか。


「それで? なんでストーカーしてたの?」

「いや、してねぇよ。わかるだろ? 昔この辺りに住んでたんだし」

「え? でも、れ……出雲の家って反対方向でしょ?」


 おぉ……それもちゃんと覚えていてくれたのはちょっと嬉しい。

 ただ昔は『れおくん』と可愛らしく呼んでくれていたのに、ナチュラルに苗字で呼び捨てにされている。

 いや……これに関しては俺も『あきちゃん』じゃなく神宮って他人行儀に呼んだか。

 なら呼び方に関しては年月のせいにするとしても……やっぱり昔と比べれば随分性格は変わったらしい。

 そして……。



 ――改めてみると中身だけじゃなく外見も変わったな……。



 昔から他の女子より可愛かったが、成長してますます磨きがかかっている気がする。

 身長も伸びて手足もそこそこ長くてスタイル良さそうだし、胸もそれなりにありそうで……。


「ちょっと、聞いてんの?」

「あぁうん。それだけど、俺んち引っ越したんだ」

「あっ、そうなんだ」

「つーか神宮の家も反対方向だろ? 同じマンションだったんだから」

「わたしは……今日から一人暮らしだから……」


 その発言と共に軽く伏せられた顔。

 そこには少しだけ陰りが滲んでいるように見えた。


 転入してきたのに一人暮らしということは、理由は親の転勤などではないということなのだろう。

 ならもしかすると、何か言いづらい事情があるのかもしれないな。

 触れた方がいいのだろうか……。

 いや……明らかに拒絶されているみたいだし、触れない方がいいか。


「そっか。ちなみに俺も一人暮らしなんだけど、まぁお互い頑張ろうぜ」

「どうでもいいし。勝手に頑張れば? あともう話しかけないでね?」


 おぉぅ……またしても発言を封じられてしまった。

 そんなに男が嫌いなのだろうか、と思いつつも再び会釈をして歩き出す。

 するとその後ろをてちてち着いてくる足音。


「…………」

「…………」


 一体どこまで一緒なのだろう。

 駅から続く道をまっすぐ5分ほど進んでも相変わらず後ろから聞こえる足音。

 一度右に曲がると、その後もてちてち着いてくる。

 そして俺が住む5階建てのマンションに辿り着くと、背後でその音が止まった。



「「……え?」」



 振り返ると、目を見開いている神宮と視線が絡み合う。

 マジかよ……同じマンションとかどれだけ偶然が重なれば気が済むんだよ。


「「…………」」


 なし崩し的に一緒にエレベーターに乗り込むと、俺が押した5階のボタン以外は押されない。

 同じマンションで同じ階か……これは下手すれば、昔と同じくお隣さんかな?


 ただ、このマンションの間取りは全室2LDKだ。


 俺は親父が単身赴任中だから一人で住んでいるが、神宮は随分と過保護にされてるんだな……と思いつつエレベーターを降りて廊下を歩く。

 鞄から鍵を取り出しながら進み、辿り着いたのは角部屋の505号室。



 ――振り返ればすぐ後ろで、俺の手元へと視線を注ぐ神宮愛姫。



「…………」

「……あ、喋っていい。許可する」

「じゃあ失礼して……またボケてみたとか?」

「ボケてない……ていうかその反応だと、わたしがおかしいのかな……」


 不安そうな声を漏らしながら、神宮が鞄から取り出したのは一つの鍵。

 そこにはご丁寧に、このマンションの名前と号室を記したシールが貼られていた。



 ――レオンズマンション、505号室。


 

「ここ、俺の部屋なんだけど」

「わたし、今日からここに住むんだけど」



 突如発生した疑問のせいで、思わず睨むような視線を向けてしまう。

 すると神宮も負けじと俺を睨み付けてきた。

 無人の廊下で音もなく睨み合う…………。




「「はぁっ!?」」

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