4、星の精霊
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それからいうものの、リリは自分を見る目がしばしば奇怪なものを見る目をしていることに気づきだした。今まで自分の容姿に疑問をもつことなどなかったが、村のどこを探しても自分のような見た目の人はいないのだった。
リリが十二歳の誕生日を迎えた日。両親が真剣な顔をしてリリに話しかけた。
「ねえリリ、」
「なあに?お母さん。」
「ちょっと、そうね、大事な話があるのよ。」
リリは両親の空気が変わったのを感じ大人しく椅子に座った。
「大事な話?」
「そう。あなたのその髪と瞳についてよ。」
「…っ、髪と、瞳、」
「ああ、大丈夫よリリ、そんな顔しないで。ごめんね怖がらせちゃったわね。でも大丈夫、全然悪い話じゃないわ。」
そういってリリの母がリリの頭をなでる。リリはもう泣きそうであった。
「リリはお母さんが”夜空の布”をつくっているのを知っているでしょう?」
「うん、」
「あれはお母さんにしかつくれないのも知っているわよね?」
「うん、…それに作り方は絶対誰にも言うなって言われた。」
「そうよ、よく守ってくれたわね。リリはいい子ね。」
「それでね、今日は何でお母さんにしかつくれないのか、なんで人に言ってはいけないのか、についてお話をしようと思うの。」
「お母さんはね、星の精霊の力を借りることができるのよ。」
「星の…精霊?」
リリの母は次のような話をリリに聞かせた。
昔、それはまだデトワールがヨルの森の一部だったころ。一組の夫婦が森の中で暮らしていた。森を愛し、自然とともに生きていた二人は、ある日一人の女の子を授かった。その女の子がが生まれたのは満点の星が輝く夜であった。夫婦は2人とも茶色い髪に飴色の瞳を持っていたが、生まれた女の子は色素が薄いのか、髪の色も金髪に近く、瞳もずっと明るく、両親とはあまり似ていなかった。しかし、その子を星の精霊が気に入ってしまった。そのせいで、女の子は成長するにつれ髪も瞳も銀色に近づいていったのだという。
精霊はこの国では伝説上の存在であり、実在すると思われていなかった。そのため夫婦ははじめなぜ女の子の見た目が変わっていくのかわからず不安であったが、精霊に気に入られたのだとわかってからは、より一層の愛情をそそぎ育てたのだった。両親は自分たちが、いつ、どのように星の精霊の存在を知ったのかはわからなかったためなにがおこったかわからないと不思議に思ったが、なぜだか気味悪く感じることはなかった。
その一家はあまり森から出ることがなかったため、三人ともその見た目をあまり気にすることなく幸せに暮らしていた。その女の子には特殊な力があった。気づくと女の子はその力の使い方を知っていた。決してその力は大きなものではなかったが、十分に特殊であった。それがこの星織りの布をつくる力である。女の子が生まれてから家の近くに咲き始めた白い花、それと女の子の髪の毛を一本、それらを煮詰める。すると液体が出来上がった。それを家のすぐそばに湧いていた湖に垂らし、布を浸けおくと布が夜空にそっくりに染まる、といったものであった。この女の子がリリの母の曾祖母にあたる。
「お母さんの…ひいおばあちゃん?」
「そうよ、それでひいおばあちゃんは森で迷子になった狩人をたまたま見つけ仲良くなって、結婚してわたしのばあちゃんが生まれたの。」
「おばあちゃんも銀色の髪だったの?」
「いいえ、おばあちゃんは私達と同じような見た目をしていたわ。」
「え…?じゃあリリは?」
「うん、そうね、気になるわよね。それじゃあ、続きを話すわね。」
最初、星の精霊に気に入られた女の子以降、銀色の髪、瞳で生まれてくる子どもはいなかった。そのうちヨルの森の一部は開拓され、デトワールという村になった。森で暮らしていた彼らも村に出て暮らすようになり、そのとき小さな仕立屋をはじめたのだった。その時にはもう皆が周りと同じような色合いの見た目をしていた。そして、さらには少しずつ布が夜空そのもののように染まらなくなっていた。このままいくといつか、この布は作ることができなくなると感じていた。
そんな時生まれたがリリである。生まれながらに銀色の髪、瞳をもっており、リリの母も、事情を聞かされていた父もとても驚いた。それでもこの子は星の精霊に愛された子だと二人は喜んだのだった。
「だからリリはお父さんにも、お母さんにも、星の精霊にも愛された子供なのよ。」
「…!」
リリは衝撃で言葉を発することができなかった。
「急に精霊の話を持ち出したりして、やっぱり難しかったかしら、ごめんね、リリ。」
「でもね、これだけは覚えておいて、リリ。リリがどんな子であろうと、大切な家族なんですからね。」
「…うん、うん!お母さん、大好き。」
「お母さんもリリが大好きよ。」
「それにきっとリリはお母さんよりもずっときれいな布をつくることができるわ。」