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星織りの少女  作者: ハル
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2、星降る夜

   夕日が地平線の向こうへ消えていく。




 いつのまにか夜になっていた。リリはあらかた部屋の掃除をおわらせ仕事の準備にはいった。


「うん、今日もいい天気ね。」


 リリは自分の寝室となっている屋根裏部屋の窓を開け空を見た。ひんやりとした空気が流れ込む。満点の星空であった。星の光が降り注ぎリリの家と湖をキラキラと輝かせている。その美しさはどこかこの世ではないのではないかとも感じられる、そんな神秘的な風景であった。

 そしてリリは厚手の作業着にしている服に着替えると2階へ降りた。そのまま2階の物置兼作業場へ向かい、壁際の棚から小さなガラスのビンを1つポケットにいれ、さらに奥の部屋からリリの身長より随分と長い大きな白い布を引きずりだした。リリはその布を器用にたたむと両手で抱きかかえた。

 玄関の扉から外へ出る。


 リリは、銀の髪、銀の瞳をもつ少女である。

 星の光を一身に浴びたリリはこの場に存在するなによりも輝いていた。星の光をやさしく反射したその姿は精霊と見間違う人がいてもおかしくはないだろう。昼間、太陽の光の下のリリも十分美少女であったが、夜、星の光の下のリリは幻想的とも形容されるほどであった。しかしこの場でその姿を目にする人は誰もいない。


 大きな布を抱えリリは1人、湖へとむかった。湖は小さいといってもリリの家の一階がすっかりおさまるほどの大きさである。風のない夜であった。そのおかげか湖は静かで、水はどこまでも澄んでおり、今は夜空を映し出していた。ただ、湖には縦の幅がリリよりも少し大きいほどの網が端から端までかかっていた。リリは湖のそばに大きな布をおろし、息をついた。静かな夜だ。風の音も生き物の声もない夜だった。リリは大きく深呼吸をした。まずはこれをいれて…と。リリはポケットから小瓶を取り出すとふたをあけた。その透明なガラスの小瓶は細かい装飾が施されており、一目見ても高価そうだと感じる。中にも透明な液体がはいっていた。そしてリリはそうっと中の液体を湖に垂らした。小瓶の中の液体は底をつきそうになっていた。


「そろそろ追加しないとね。」


そうつぶやき小瓶をポケットにもどす。そして裸足になり、置いていた布を持ち上げると湖にはいっていった。水は冷たく痛いほどだ。しかしリリは気にしていなようであった。そしてゆっくりとその布を網の上に広げだした。そうして布が広がりきるとリリは湖からあがった。


「いい天気だなーほんと。」


そういって、すぐ横の芝生に寝転がった。空を見上げ星を眺める。リリは昔お母さんと一緒にここに寝転がったことを思い出していた。あの頃もこんな夜空であった。今日こんなことがあった、ルスと一緒にあそんだ、そんなたわいもない話をしていた。一緒に歌を歌った。幸せな記憶。今はリリひとりである。何年たってもこの寂しさに慣れることはない。リリはそっと目を閉じた。


 いつのまにか少し寝ていたようだった。夢を見たかは覚えていない。体をおこし、湖に広げた布を見る。真っ白だった布はいつの間にか黒く染まっていた。湖に映る夜空と同化し、ほのかに布が輝いている気がした。


「もうすこしね。」


リリは立ち上がり布を端から端まで見るとそう言った。


「今のうちに花を摘みに行こう。」


星あかりの下とはいえ、夜だったため少し暗かったためランプをとりに家に戻った。ランプと一緒に小さいかごをとって、また外に出た。ランプの光をたよりにリリは森のほうへ歩いた。しかし森の中にはいることはなく、その手前で止まりランプを足元に置いた。そこには小さな白い花が一面に広がっていた。リリは腰をかがめると優し手つきでその花を摘み、かごにいれていった。しばらくして花がかごいっぱいになるとランプを手に取り家へと戻り、かごを作業場に置いて、湖へと向かった。夜もどっぷり更けていた。

 湖に浮く布を見る。すっかり夜空と同化していた。


「これでいいかな。」


そう満足げにつぶやき、リリは布を湖から取り出す作業にはいった。靴を脱ぎ、湖にはいるとゆっくりと水の中で布をたたんだ。そして水を含み重くなった布をまたそうっと抱きかかえると、今度は家の裏へと向かった。布はいつのまにか星の光を映し出していた。家の裏につくとそこには大きな物干しざおがあり、リリは慎重にそれに布をかけていく。そうして布を広げきるとそこには夜空があった。漆黒の空に光る無数の光。星織りのドレスにそっくりなそれがリリの目の前に存在していた。

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