バレンタイン(前編)
バレンタイン特集~♪
後編は明日更新予定~
気づかぬうちに年が明け、早2ヶ月…
常時クエストをこなす速度も上がり、稼ぎもそれなりに上がり、余裕が出てきた。
前世での2月と言えば、男子がソワソワとし始めるあのイベント…こっちの世界ではどうなのだろうか?
酒場にたむろする冒険者たちに聞いてみた。
「この時期の行事ぃ?無い無い。少なくとも聞いたこと無いね」
「狩り初めは来月だし…なんかあるのかい?」
などと知っている様子は無かった。
トキは思う。『無いならば広めてしまおう』
まず初めに行ったのは材料集め…チョコの材料たるカカオをあつめることにした。
――数時間後…
トキは名前が違うであろうと言うことを踏まえ、自分よりこの世界に詳しいはずの冒険者達にカカオの特徴を細かく伝え、尋ねていった。
しかし得られた情報は非情だった。目的のカカオ(らしきもの)は南方の果てにある常夏の島でしか自生、栽培されていないらしい。それならばユネに連れていって貰えればいいと考えたが、そうは問屋がおろさなかった。
なぜなら今年はあまりの涼しさで凶作だったため、輸出すらされてないらしい。
「チョコ作りが…バレンタインが…」
「ちょこ?ばぁれんたい〜ん?なんですかそれは?」
トキが頭を抱えていると長い黒髪をたなびかせ、不思議そうな表情でトキの顔をうかがう猫族の従者セラが声をかけた。
「つまり!その意中の人にほろ苦いちょこれーとなるものを渡すわけですね!」
トキは懇切丁寧にセラに説明すると何処からともなく湧いて出た銀毛の猫族の従者ユネがくるくる回りながら声をあげる。
「意中の人…殿方ですね?いったい誰に渡すんですか?私たちの知らないうちにそんな仲になっている輩がいたとは…ちょっとボコりに…いえ、お話を伺いに…」
セラは左手に剣を携え、柄に手をかけ辺りを見渡す。それを見た辺りの冒険者達は顔を青ざめさせて首を振る。
「わーわーわー!待って待って!居ないから居ないから!そんな意中の人なんて居ないからそんな殺気を滲ませないでよぉ!」
トキは慌ててセラをなだめる。
「ではなぜちょこれーとなるものを作ろうと言うのですか?」
「…それは…」
セラに詰め寄られ、トキは思わず言い淀む。
トキは必死で考えた。サブスキル《瞬考》までつかって必死になって頭を回転させる。
そして閃いた。なおこの間、1秒。トキの体感時間でいうと1分半。
「よ、世の中、ご褒美チョコっていう自分にあげるチョコレートが…」
「そもそもちょこれーとなるものが存在しません」
「そーうーでーしーたー!」
トキの閃きはセラによってバッサリ切り捨てられた。
「うーっす!主さん!毎度お馴染みオーガス商店でーす♪」
宿の勝手口が開き、金髪だが笑顔が爽やかな青年オーガスが木箱を持って入ってきた。
「あ、ちょうど良いタイミング!オーガスさん!かくかくしかじかな理由でカカオ(らしき物)が入手できなくて…」
トキが困った風に言うとオーガスはにっこり笑っていった。
「確かに今年は凶作だったらしいですが向こうも質が悪くても出荷しなきゃ生きていけないから輸出はしてるんすよ。それで良ければ仕入れときましょうか?」
「どれくらい質が悪いの?」
トキは少し不安そうに尋ねるとオーガスはニコニコしながら答えた。
「大きさはまちまち、クォクォの実の形は歪ってんで美容用には向かないらしいっす。ですが主さんの用途を聞くと形は関係無いらしいんで…」
「じゃあ13日までに下ろしてもらえる?」
トキの問いにオーガスの笑顔が凍りついた。
「期限付きっすか…特急料金別途でもらいますよ?」
オーガスはトキのキラキラとした表情を見て、諦めた風にため息を吐いて言った。
「分かった」
「あぁトーナの姐さん、荷物はこれで良いんすか?」
「あぁ、いつも助かるよ。請求書は…」
「いつも通り受付に…わぁってますよ。それじゃ!」
オーガスは勝手口を閉め、荷台の奥のうず高く積まれた木箱を手前に下ろし、重心を安定させて御者席に腰掛ける。
そして馬を走らせようと鞭を打たなかった。
「…なぁんでお2人が両隣にすわってるんすかね?」
オーガスは冷や汗を流しながら両隣に座る顧客の地上最強の従者達に問う。
「オーガスが…主様の…」
「根は良い奴だけど…無いわね…」
ユネとセラが値踏みするような目でオーガスの頭から足先までを眺め、首を振りながら言った。
「な、なんすか?2人とも…けなされてるのか、褒められてるのかわからねぇんすけど…」
オーガスは狼狽えながら言うとセラが真顔で答えた。
「主様の意中の男である可能性…」
「…正気で言ってるんすか?」
セラの答えに真顔で問うオーガス。
「…冗談の顔に見えるならまずお前の目をくりぬくとこから始める。」
セラの声のトーンが1段階下がり、オーガスは流す冷や汗の量を増やした。
「なんで意中の男の候補で俺が上がったんすか?」
「他の冒険者より接点が多いし、ご主人様が“私達”の次にたよりにしてる人物…」
「それがオーガスって訳…」
ユネとセラが淡々と言うもオーガスは腑に落ちないと言う表情で尋ねた。
「…それでなぜ急に“意中の男”が出てくるんすか?」
オーガスの問いにユネがトキから聞いたバレンタインを簡潔に伝えた。
「なるほど…好きな人に手作りの品を渡す…確かに女の子手作りは男の心をつかむのにうってつけっすね…でなんで今月の14日なんすか?」
オーガスの疑問に2人の従者は肩をすくめて言った。
「「さぁ?」」
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