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八、真相?

「道を急がせた上、休む暇も与えなくてすまないが、解錠にはアイルーミヤも立ち会ってくれ」

「はい。しかし、なぜでしょう。ローセウス将軍」

「二人だけの時は気を使うな。前と同じでいい」


 ローセウス将軍は執務室ではなく、私室にアイルーミヤを招き、上等の茶と菓子を用意していた。

 北の城はさほど破損しておらず、修理もほぼ完了しており、居心地良く整えられている。人手もあり、兵たちにも余裕が感じられた。


 将軍は改まった時を除いて武張った格好はせず、衣装や装身具に凝る方だった。長い金髪を宝石を散りばめた髪飾りでまとめ、金のネックレスが浅黒い肌に映えている。緑のワンピースは今の季節にはちょっと薄いかなと思われたが、むしろアイルーミヤの方が実用一点張りすぎるのかも知れない。


 アイルーミヤは頷いて座り直し、くつろいだ姿勢を取った。熱い茶は香り高く、菓子は砂糖と乳と玉子を惜しげもなく使った上等の品だった。


「ま、なぜかと言われれば、勘だな。魔法技術者を信用していないのではないが、アイルーミヤの目もほしい」

 ローセウス将軍は額の目に引っ掛けて言い、微笑した。

「ありがとう。実を言うと何が出てくるか早く見たくて、途中で何度も開けたくなるのをこらえていた」

「なぜしなかった? 昔のお前なら……」

「五百年の封印は辛かったが無駄じゃなかった。頭の中でたっぷりとやり直せたから」

「私もだ。一旦身を引いて状況を眺める癖がついた。フラウムほどじゃないがな」

 二人だけの時のお決まりの冗談で笑う。五百年の封印を経て、性格から戦い方、統治方法まで極端に変わったフラウム将軍は、時に滑稽にさえ見えることがあったからだった。


 将軍の副官が準備完了を知らせに来た。茶の時間は終わりだ。

「私は着替える。先に技術者の工房に行っててくれ」

 ローセウス将軍は副官にアイルーミヤ調査官を案内するよう命じた。くつろいだ時間は終わり、緊張した空気が入れ替わった。


 魔法技術者の実験室兼工房は城から離れた場所に作られた半地下式の塔だった。様々な実験が行われた事を証するような臭いがたちこめている。

 副官が魔法技術部隊の隊長にアイルーミヤ調査官を紹介すると、彼女は丁寧に礼をしたが、名は名乗らなかった。魔法を専門職とする者はそういうものだと知ってはいたが、あまりいい気持ちではない。


「よろしくお願いします」

 隊長はアイルーミヤ調査官を案内し、塔の最下部の実験室に連れて行った。

 そこはがらんとした部屋で、中央に手のこんだ彫刻を施した机があり、例の本があのページを開いて置かれていた。技術者が数人記録を取っている。


「事前検査では罠は見つかっていません。錠のみと思われます」

「そうですか。では手間はかからないでしょうね。将軍を待ってすぐに解錠しましょう」


「待たせたな。すぐに始めよう」

 略装のローセウス将軍が部屋に入ると、全員が礼をした。将軍は、かまわぬ、という風に手を振り、解錠が始まった。


 呪文の詠唱はさすが専門職と言えた。アイルーミヤも額の目を使った魔法については少しばかり自信があったが、洗練度合いは一歩譲る。この方面の勉強が必要だな、と思った。


 本のページが輝き、詠唱者の隣の技術者が火箸のような道具で折り畳まれた小さな紙をつまみ上げた。

 ページの輝きがおさまる。技術者たちは引き続き取り出した紙の検査を始めたが、これはすぐに終わった。


 隊長が盆にそれを乗せ、ローセウス将軍に差し出した。

「解錠完了。内容物はこの文書のみで、これには魔法はかかっておりません」

「分かった。ご苦労。本は他の資料と同じく保管しておくように」


 隊長が頷いて礼をする。それを背に、紙を受け取った将軍と調査官は塔を出て城の執務室に戻った。


「少し待っていてくれるか。後で読んでほしい」

 ローセウス将軍は茶を入れ直すよう命じ、着替えずに座ると読み始めた。どうやら薄い紙一枚を折り畳んだだけらしく、長文ではない。アイルーミヤが茶を飲み終わるか終わらない頃には読み終わっていた。

 しかし、将軍は顔をしかめ、何度か読み直している。


「どうかしたのですか」

「いや、まあ読んでみろ」


 渡された紙を読み始めると、将軍が顔をしかめた理由が分かった。


「これは、一杯食わされたか、それとも隠喩か暗号なのかな」

「そのどれでもあり得るし、書いてある通りかもしれんな」

「まさか」


 文書は、闇の王封印の十年ほど後の日付になっていた。ある高位の僧の問いかけに、光の女王が答えた記録という形になっている。

 その僧は、アイルーミヤと同じ疑問を抱き、なぜ滅ぼさず封印したのか尋ねていた。この世にあれほどの残虐をもたらした存在を封印するだけで済ませるのはなぜかと。


 答えは簡単だった。


 闇の王は、光の女王と婚約していた。


 そして、光の女王は、闇の王と下僕たちが象徴する『変化』と、その残虐行為には眉をひそめていたが、一方で結婚する日を夢見ていた。だから、改心し、性質を改めることを期待して封印に留め、期限を五百年としたと言う。

 それから、期限が明け、下僕たちが復活させるであろう闇の王が、婚約を履行する気がまだあるかどうかを女王に宣言する。

 女王は、婚約が有効であるなら、王の性質が容認できる程度に改善されたか確かめるつもりでいるらしい。


 記録した僧はこの答えにかなり混乱し、理解できないのは自分の修行や信仰心が足りない為であると悩んで還俗した。その前に、これを記録として残し、後世の解釈を待つと結んでいた。

 しかし、本と違って誰も註釈や補遺は付けていなかった。誰も見なかったのか、見たけれど解釈を拒んだのかまでは分からない。


「一番簡単なのは当事者に聞くことだと思いますが」

 本気ではなかった。冗談を言っている場合ではないが、あまりに驚いたので口が滑った。

「アイルーミヤ、それは一番簡単どころか一番困難だろう。とりあえず他の将軍たちにも諮ろう。緊急会議だ。お前も出席してくれ」

 将軍は真面目に答えた。

「しかし」

「身分などどうでもいい。陛下の下僕として一緒に封印されたのだから、むしろ出席してくれないと困る」

「分かりました」

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