ゲームガイド リサ
直人は高校から家へと戻るが、部屋には誰もいない。
いつものことだ。
父はこの1ヶ月、仕事が忙しいとの理由から職場の近くで寝泊りをしており、家には戻っていない。
母は直人が物心つかないころに病気で他界している。
お金は父から預かったキャッシュカードでいくらでも引き出すことができたので、生活に困ることはなかった。
直人は家に戻るとテレビをつけるのが習慣となっていた。誰かの話し声がすることで、寂しさを紛らわせているのかもしれない。
テレビのニュースは今日も直人に向かって一方的にしゃべりかけた。
軍事演習の実施…。イグノーベル賞、猫が液体であることが証明された…。AIが将棋プロに完勝…。
そんなニュースをボーと眺めながら、コンビニで暖めたパスタを急いでお腹に詰め込むと、直人はすぐに塾へと向かった。
直人の通う塾は東京のセンタービルの40Fのワンフロアに位置する。優秀な学生のみが通うことのできる、少人数制の進学塾。海世高校に合格した時に、忙しい父が入塾の手続きをしてくれたものだった。海世高校の生徒であれば、テストはパスで、少しの面接だけで入塾することができた。
直人は父への感謝とともに、このどこまでも続いていくだろう苦しい道に、嫌気も差しはじめていた。
東京センタービルのエレベーターに乗り込み、40Fのボタンを押す。モーター音がウウッンと小さくうねって、直人を上階へと運ぶ。直人はエレベーターの中で目を閉じる。少しでも頭を休めたい。直人はテストの結果を完全に引き摺っていた。
チンッ。小気味よいエレベーターの到着音。ブーンと音をたててエレベーターの扉が開き、直人は足元に目をやりながら足を踏み出した。
サクッ。んっ?
直人は普段と違う感触に足元を凝視する。足元には土から草が生えている。土?草??
直人は顔を上げる。
一面ひろがる草原。遠くには城と街、そして海が見える。
はっ??
直人は目の前の情報を処理しきれず、身体を硬直させた。
直人は暫くの硬直のあと、この異常すぎる状況から逃れようとエレベーターの方へと振り返るが、そこには何もない。
ただただ、地平線まで緑の草原が続いている。
んっ??
後ろを振り返った直人の目が、微かに黒点を捉えた。直人がそれを確認しようと目を凝らせていると、それは水平線全体へと広がり、地響きが直人の身体に伝ってくる。ヌーの大群が直人目掛けて押し寄せるているようだ。
呑まれると死ぬ!そう悟った直人。
「ウヮー!!!」
と声をあげると、死にもの狂いで前方の城の見える街へと駆け込んだ。
街に入ると何故か、ヌーの大群は全く見当たらなくなっていた。
ハァハァと息を切らして地面に倒れこんでいる直人に向かって、一人の女がスタスタと近づいてきた。
「初めまして新宮直人君。ピパラへようこそ。ゲームガイドのリサです。」
リサと名乗った女は妖艶な顔つきで僕を見下ろした。
女は金髪に赤い瞳。サラサラと糸のような髪が、時折吹く微風に揺れる。
肩は露出しており、ドレスのような黒い服を、肩紐と首から前結びにリボンで止めているた。そして赤いチェックのミニスカートを履いている。
何でおれの名前を?ピパラ?様々な疑問が浮かんだが、まず初めにやるべきことがあった。
地面に寝ころがっていた直人の近くに寄っていたため、リサのスカートからは、白いパンツが少し覘いて見える。
なかなかいい光景だったが、直人の善良な心がなんとか打ち勝った。
「あのさ、、見えてるよ…、、ハァハァ、パンツ…。」
ストレートに爽やかに注意しようと思ったら、ヌーから逃げて息を切らしていたため、変態みたいになってしまった。
「……見たい…?」
リサは艶めかしく笑うと、ミニスカートの裾に手をかけて捲くろうとする。
「いいっいいっ!」
街中で変に思われたくないのと恥ずかしさで、直人は飛び起きた。
頭の血が下に落ちていくことで、直人の理性が更に戻ってくると同時に、後手に回した大量の疑問質問が押し寄せる。
「ここわっ……。」
「ついてきて。」
直人が質問を投げかけようとしたところで、リサは後ろを向き、城の方へと歩きだした。