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心の行方  作者: 高橋 紫苑
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分岐:悲しさ

 そんなある日のこと。二人は少女からの提案で歌を歌って遊ぶことになりました。少女が歌い始めると、少年はすぐにその歌声の虜になりました。加えて、少女は色々な曲を知っていました。少年は少女の歌をいつまでも聴いていたかったですが、少女が少年のことも誘います。

「あなたも一緒に歌いましょう!」

「僕は音痴だから歌いたくない」

「そんなの気にしないから歌ってみて」

 少年は少女の言葉を信じて、歌ってみました。歌いながら、やはり自分は音痴なことを改めて感じて恥ずかしさが込み上げてきました。

 しかし、少年が歌い終わると少女は意外な感想を述べました。

「あなたの歌声には他の人にはない優しさが包まれていて私は好きよ」

 あまりの下手さに笑われて失望されてしまうのではないかと少年は心配していたので、少女の感想に安堵しました。

「無理を言ってごめんなさい。あなたが頑張ってくれたから、私も頑張るわ。実はね、私失明しているの」

 少年は突然少女から告げられた事実に驚きました。少女は少年がどこにいるのかわかっており、町を歩くときも特に不自由がなさそうで、到底失明しているようには見えませんでした。

「小さい時に突然失明したの。町を普通に歩けるのは、失明するまでの記憶があるから。人がいることが認識できるのは、なんとなく人の気配を感じられるから」

 今までのことを思い返してみると、たしかに目が見えなくてもできる遊びだけで遊んでいました。

「目が見えない人なんて嫌……?」

「嫌なわけない。君は心がない僕と普通に接してくれた。そんな君のことを嫌になるわけないじゃないか」

 少女は少年の言葉を聞き、涙を流しました。

「えっ、僕何か悲しませるようなことを言ってしまった……?」

「違うわ。これは嬉し涙よ」

 少女は涙を流しながら、笑っていました。

「ありがとう」

 少年は少女の言葉を聞いて嬉しくなりました。


 少年と少女は前よりも仲良くなり、会う頻度も増えていきました。

 ある日、少年は少女に告白することを決めました。少年は少女に好意を抱いていることに気づいたからです。その日は少年と少女が初めて出会った日からちょうど1年が経った日でした。

 少年は不安を感じながらも、少女に想いを告げます。

「好きです。大好きです。付き合ってください」

 少年はこのままでは心臓が破裂するのではないかというほどに心臓の鼓動が速くなっていました。

 そして、とうとう少女が返事をします。

「ごめんなさい。付き合うことはできないわ」

 少年はただの自分の片思いだったのかと思い、がっかりしました。しかし、それは違いました。

「あなたのことを好きじゃないから断ったわけじゃないの。むしろ、私もあなたのこと大好き。でも……私、一週間後に死ぬの」

 予想外の言葉に少年は理解が追いつきません。しかし、少女は続けます。

「死神が突然私の前に現れて、私の命が終わる日を告げたの。もうすぐ死ぬことがわかっているのに、あなたと付き合うことはできない」

「君がいなければ僕は生きている意味がない。僕も君が死んでしまう日に一緒に死ぬ」

「ダメ! あなたはちゃんと生きて。生きていけるのだから。私の分まで幸せになって」

 少女は少年に生きるようにと必死に訴えました。少年が大好きな少女の想いに背くことなどできるはずがなく、少女に生きることを誓いました。


 その日から少女が死ぬ予定の日まで、彼らは毎日会いました。お互いにできるだけ長い間一緒に過ごしたいという気持ちは同じだったからです。


 しかし、とうとう少女が死んでしまう日が来ました。いつもの約束の場所で少年に最期を見届けて欲しいという少女の最後のお願いのために、少年と少女は二人で広場のベンチにいました。二人は最後の時を静かに寄り添って過ごし、二人のこれまでのことを思い返していました。二人の間にもはや言葉は必要ありませんでした。

 そして、少女が永遠に眠る時がやって来てしまいました。少女がもう目を覚まさないことをわかっていながらも、少年はずっと少女の傍に居続けました。数時間が経ち、少女の体温が下がっていくのが明確にわかると同時に、少年は涙を流しました。流し続けました。

「こんな悲しみを背負いながら生きていけるわけがない。しかし、彼女に生きてと言われた。彼女の想いを裏切るわけにはいかない」

 少年が苦悩していると、黒い仮面の男が現れました。

「心を取り戻してしまったからつらいのでは?」

「そうか。心を取り戻してしまったからこんなにもつらいのか。こんなことなら心なんて取り戻さなければよかった」

「そうです。心があるからつらい思いをするのです。どうですか、また心を消しませんか?」

「消してくれ。心なんて消してくれ!」

「ふふふっ、わかりました」

 そして、少年はまた心を失いました。


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