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心の行方  作者: 高橋 紫苑
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分岐点前

 むかし、むかし、とある大きな町に一人の泣き虫な少年がいました。少年は他の子供たちから泣き虫であることをよくバカにされ、いじめられていました。

「心なんてあるから泣いてしまうのだ。心なんてなくなってしまえ!」

 少年は心の底から願いました。すると、黒い仮面を被った男が少年に近づいてくるではありませんか。男は仮面を被った顔を少年の耳元に近づけ、ささやきます。

「よろしければ、私が心を消してあげましょう」

 少年はきっとこの男は悪魔なのだろうと理解しました。しかし、理解してなお、少年は願いを叶えるために男の誘いに乗ることにしました。

「僕は心なんていらない! 早く心なんて消して!」

「ふふふっ、わかりました、それではお望み通りに」

 男が手を少年の頭に置いた瞬間、少年は意識を失ってしまいました。少年の意識が戻った時、少年の心は本当に消えていました。しかし、少年は喜びも何も感じません。なぜなら、心を消すということは悲しみを感じなくなると同時に喜びや怒りといった感情も一緒に消えることを意味するからです。

 

 数年後、事故で少年の両親は亡くなりました。しかし、少年は一滴も涙をこぼしませんでした。それどころか悲しみも感じませんでした。心が消えたままだからです。そんな少年は泣き虫と呼ばれなくなる代わりに、人形と呼ばれるようになりました。


 更に数年後、少年は町の工場で働いていました。同じことを繰り返し続ける工場での作業は感情がない少年にはうってつけの仕事でした。そして、少年は生活をするために最低限必要なことを工場の作業のように毎日繰り返す日々を送っていました。


 そんなある日、少年が仕事を終えていつものように家に向かっていると、目の前から少年と同い年ぐらいの少女が歩いてきました。

 すると、突然少女が少年に声をかけました。

「あなた、なんで心がないの?」

 少年は驚きました。確かに町の人たちは少年が無感情であることを知っていますが、少年に心自体がないことを見抜いたのはその少女が初めてだったからです。悪魔に心を消してもらったことも誰にも言っていないため、知っているはずがないのです。

 少年が少女になぜわかったのか聞く前に、また少女が口を開きました。

「あっ、明かりが灯った。」

 少年と少女は町の中央にある広場におり、そこでちょうどイルミネーションが始まったようです。

「あなた面白いわね。来週の同じ時間にまたここに来て。それで一緒に遊びましょ!」

 少女は一方的にそれだけ言い残し、去ってしまいました。少年は綺麗なイルミネーションには何も感じませんでしたが、少女のことは気になりました。


 少女との約束の日。少年が広場に行くと、少女は既に広場にいました。

「来たわね。それじゃ、早速遊びましょ!」

 少年は少女にこの前のことを聞きたかったのですが、少女はそんな暇を与えてくれそうにありません。

「そうね……しりとりでもしましょう!」

 少年は心を失って以来全く遊んだことがありません。心がないため遊んでも楽しくないためです。しかし、しりとりは心を失う以前にやったことがあり知っていたので問題なく遊ぶことができました。

 少年が負けたところで、少女は別れの時間が来たことを告げました。

「それじゃあ、また来週ね!」

 少女はまた一方的に約束をし、去っていきました。しかし、少年は少女の後姿を見ながら、来週また来ることを声を出さずに誓いました。


その後、少年と少女は週に一度必ず会うようになりました。いつしか少年は少女と会える日が毎週待ち遠しくなっていました。


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