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ひとりぼっちはひとときで。  作者: 桜餅葉 杏
5/6

5話

帰りのホームルームが終わると、私はホウキやちりとりなどの掃除道具がしまわれているロッカーの戸を開けた。そして一番上の段においてある消えるかはわからないがクリームクレンザーとたわしを手に取り戸を閉めた。


自分の席に戻って早速洗剤を押し出して擦り落とす。

洗剤がなかなか伸びず水をつければよかったと後悔したが、後ろからあいつ落書き消してるぜと声が聞こえるとこのまま作業を続けていたかった。


落書きは広範囲に渡って書かれたものではなく、机の隅にいくつかよろしくない言葉が書かれていただけだったためそう時間はかからないうちにまぁいいかと作業を終わらせた。


再びロッカーに戻り、雑巾を取り出してクリームクレンザーを元の位置に戻して水道場に行く。


クリームクレンザーを拭き取るために雑巾を濡らし、たわしについた洗剤を落とした。

教室に戻ると私を指さして笑う人がいる。


紗那ちゃん。学校終わったし紗那ちゃんは部活に入ってないでしょ、だから帰りなよ。

以前の私だったらこうやって言えた。

今は言う気になれない。どうせ手を出される。


「だっさ」


誰かが私に向かって言った。顔は見てないからわからない。きっと今まであまり話したことない人だろう。だからって気に留めている暇はない、今は落書きを落とすんだ。


雑巾で洗剤を拭き取ると、油性ペンの黒色は薄くなったと同時に机の色も薄くなっている気がした。


「落ちただけいっか」

「落ちただけねぇ」


独り言として発した言葉に、私の肩に誰かが手を置いたと同時に返事をされた。

低くも高くもない、爽やかな声には聞き覚えがあった。


「河月くん」


河月くんは私の手から雑巾を奪うように取り上げると、私のワイシャツを引っ張った。


待って。河月くんには玲美ちゃんがいるでしょ。玲美ちゃんに嫉妬されて、なにか酷いことされたらどうするのさ。そしたら私のせいじゃなくて河月くんのせいだよ。

心でそうは思うもあまりの驚きで抵抗することが出来ず、そのまま廊下に出た。


向かった先は、雑巾を濡らした水道場だった。


「玲美と紗那と優紀」


河月くんは持っていた雑巾を流水で洗いながら口を開いた。

手元を見ていた河月くんの目が、少し後ろに立っていた私に向けられた。


「この3人と何かあったの」

「何か」


それは私が聞きたい。

なぜ初日に嫌われ呼び出され、壁に押し付けられるなりされなければならないのか。

私に何か非があったのか。


「わからない」

「ふうん」


河月くんは興味なさげに返事をした。

そしてこちらを振り返り、水が絞られた雑巾を投げ渡される。

危うく取り損ねるところだったが、なんとかキャッチできたことにホッとする。


「君ら四人がいなかった時、稜月ちゃんの机は落書きをされた」

「うん」


私が俯き加減にうなずくと、河月くんは水道場の壁に背をつけて腕を組んだ。


「犯人、気にならないの?」

「犯人」


そう言えば、気にならなかった。

一体誰がそんなことを、なんて考えることはしなかった。

でも言われると気になるもので。

授業に最初から出席していたであろう河月くんなら、犯人を知っているんじゃないか。


「河月くんは、私の机に落書きをした犯人を知ってるの?」


河月くんは頷いて、優しく笑って見せた。

そして言った。


「僕だよ」

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