妹が出来る話
訪れればいいのか、ここに。
二歳の少女にはまだわかっていたり、そして物語にゴマ。
レンゲですくった茶色のスープを隣の人間にかけるという奇行によって俺は首筋に痛みを知った。
「ハロー兄さん、おはようね」
午後十三時のおはようにしては早いあいさつをしてくる犯人は俺に向かってそういう。
幼いながらに可愛さあふれる顔立ちをした愛され系のロングストレートヘアー少女だ。
赤に近いが何とも言えない色のワンピースを着ている。
赤の他人から兄さんと呼ばれる筋合は全くないので俺は無視してメンマをかじる。
スープは滴り俺の服を微妙に汚した。
別にお気に入りのシャツではないが、普段着でありトレードマークにされているモノなので、これで変な模様がついてしまったら俺のマークが一つ消えることになる。
それはヤだな。
立ち上がり、残りのメンマをジップロックに入れてポケットに突っ込み立ち上がる。
「ごっそーさん、これで行くぜ」
カウンターの向こうのキッチンに立つ店主は無言でフライパンをおたまで殴りながらこちらに薬指を立てた、全く器用な奴だ。
お勘定してないのに店を出るのは心苦しいので床を掘り、掘ってできたつるはしを店主に投げつける。
回転しながら飛んで行ったつるはしは店主を笑顔にする事だろう。
「心の栄養が足りてないわ」
俺を兄さんと呼ぶ少女が何か言っているが気にする事は無い。
静かで寂れた店のドアを開け、うるさい店内に出て、エレベーターに乗る。
「抱っこひもを持ってない兄さんは飛行機よ」
いつの間にかついてきていたワンピース少女が俺の肩甲骨の辺りを踏みつけて地面と平行に立つ。
軽いな、こいつはしっかりご飯を食べているのだろうか、まったく知らない奴だが心配になってしまうな。
しょうがない、今の肩車のままこの少女を連れて帰って風呂に入れてやろう、空の風呂に。
なんて考えていたら背中が何かに引っ張られる、見ると少女の首が閉まる自動ドアに挟まってしまって俺が動けなくなってしまっている。
「おい、少女、どうするんだ、まったく弁当」
「ここに偶然斧があるわ、あとはわかるわね」
言われなくても分かったので斧でカルタ取り大会にエントリーして優勝を目指すことになった。
少女の首は大会の参加賞として参加者に配られ、みんなの憧れになった。
だが考えてみてくれ、普通の人間が少女の首を勲章にする奴なんていないだろう? 恥ずかしい奴らしかいないこんな世の中だよ、そんなソーセージ。
道端の石鹸はよく汚れるので俺のアイデンティティーに擦り付ける事によって俺は俺の存在を確保した。
しかしエレベーターからまだ動けない。
紅色だ、全部紅色なんだよ。
理性的に考えてみろ、妹がいる事って幸せだろう、そんな事はある、そんな事もない。
「おい、お前は俺の妹ではないんだろ?」
「ええ、弟ではないわ、兄さんには難しい話ね、簡単感」
「虹色に輝けばいいんだろ?」
「わかってるない、兄さんは賢い」
「馬鹿にしてんじゃん」
家に着いた。
ボタンを押すと
「上に動きます、X軸-十五」
とアナウンス。
家の中はいつも通り雑多な綺麗が散らばって気持ちよくはなさそうだが、いつも通りといえば西ワラビー通りなワケで、なら素通りしてもよくない、みんな工場では作れない天然モノだ、人類みんな避けて通るので俺としてはとても困る。
背から降りた少女が妹となり、俺の部屋に罵倒を吐きそうな膝小僧を蹴る。
「痛い」
そりゃあ自分の膝をそんな勢いで蹴ったら痛いだろう、馬鹿な奴だ、簡単感。
でも、一応こんな奴が俺の弟ではないので姉さんでもない、ましてや赤の他人だ。
しかし、ここはここで、妹みたいに黒い風景が広がって、下からメンマの匂い。
「大丈夫じゃないな、泣いていいんだぞ膝小僧、な、妹」
「ええ、泣いてもいいと思うわ、膝小僧、兄さんと一緒に笑顔になってあげる」
妹の顔が湿ったのでゆっくりと眼球をなすると頬が青に遠そうな緑が嫌う何か。
おいおいそんな表情をするんじゃない、妹だろう、変だろ、世界が。
というかここはどこか、俺の家だった。
・
笑顔があふれて俺は兄さんと一緒になった。
妹は兄さんと一緒だし何も問題はない。
世界からの祝福が少女とビーフジャーキーに友達になれと文通を送るならば俺が妹のようになろう、自由奔放だ、そんな人生を送って楽しいか? そんなに……
妹は裸だった、ワンピースを着た裸だった。
パンツは履いていた、下着もつけていた、とても風紀に怒られる、乱れまくり。
ついでにワンピースの上から重力場も放ち、放射能を押しのけて進めなかった、何故ならば押しのけられた奴らはみんな敵同士で、マヨネーズをかければおいしくなるブロッコリーのようだからだ、そう思うとゲロを吐いた、ブロッコリーは俺の仲間だ。
「ねえ兄さん、キスをするってビ~コマンド~に怒られない?」
「大声でナッツ食いたくなるぞ、それで?」
「パンナコッタにナッツはとてもいいわ」
「いやいや、けんちん汁から出たし、子供が出来るからといって寝て待つはんぺんだんごはいないだろう? すまし汁がいいじゃないか」
「でも倦怠感がぬぐえないから兄さんとは毎日の料理になった坂本龍馬となるの」
「の、おの」
やたらと泳いでいく天に向かってコードを投げたターザン、なんでこうなるんだ、やばさがあふれて止まらい程で、ドアにノック。
開いてみると見慣れた風景に違和感があった。
異物の正体は老婆の皮をかぶった処女、俺は一瞬ユニコーンになれるのでわかる。
「兄さん、ゴーストよ~ぐるとに入れるならね」
トイレに立ち、妹はキッチンにバナナがお気に入りだ。
処女は老婆の皮でしきりに手の甲と膝裏をかばいながら俺をにらみつけていて、その手には男物のブラジャーのみそ漬け和え(比喩ではない)を持っていた。
「お兄様、おはようございます、おひたし、ぶりです」
また赤の他人で知らない処女だ。
目つきが悪いがこれはこれで可愛い、端正な顔立ちをしていらっしゃる。
しかしまたまったく同じ股から生まれた覚えのない赤の他人の処女だ。
いや、妹は処女ではないのでまたではないのか? そんなわけがない。
老婆の皮を餃子に使い、処女は俺に頭を下げながら滅亡への一歩を三歩にした。
おひたしもぶりも友達じゃない。
ブロッコリーのおひたしに関しては吐いた。
「大丈夫なお兄様、お世話にします」
処女はツインツインテールを回して地面に潜った、すごい特技だ。
誰だこんな奴産んだの、うちの親か?
俺は家の中に入る、妹がいきなり三人も出来たので困ったものだ。
精神、精神、統一しよ?