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不老伝説  作者: リョウ
1/1

2000年の愛

プロローグⅠ 

 どこまでも続く砂の海。小高い峡谷のような岩石質の山の間に砂山が点在している。

 夜空には満点の星達が無数の光を砂に落とし、その光は冷たく砂を照らしていた。

 風がサラサラと砂を動かし、風紋を幾重にも形作っている。

 動くものは砂以外に存在しない静寂の空間ーーーこの砂漠はキジルクム砂漠。テュルク諸語では「赤い砂」の砂漠と呼ばれていた。

 しかし、デザイヤーにとって、ここが何と呼ばれようとそんな事はどうでも良いことであった。

「この地は俺が守る!」父も祖父もこの地を守る為に存在した。ここは、自分達の守るべき土地であり、守る事は遠い昔から受け継がれて来た事であった。自分はその為に存在している。

「性懲りもなく来たか!」デザイヤーは口を覆った黒い布を通して一声発した。

 その鷲のように鋭く青い瞳が強く光を強めた。

 黒いマントから太い腕を突き出すと、その腕を勢いよく振り下ろした。

 それが合図であったかのように、一瞬で静寂を突き破るように火線と火器の音と光が響き渡った。

「タンタンタン」と軽い発射音が聞こえ、「パシッ、バシッ」と乾いた音を立てて砂が飛び散る。

 その発射音はアサルトライフルAK-74。

 ロシア陸軍正式銃の音に他ならない。

 銃声の後にロシア語の悲鳴と怒号が響き渡る。

「パン、パン」と単発の銃声も響く。これは英雄マカロフから語源を冠したマカロフPM。

 ただし、これは現在ではベレッタ銃の2倍の重さがある事ぐらいしか取り柄がない爺さん銃だ。

「カーン。カーン」とジープに着弾音が響き渡り、エンジン音がひときわ大きな唸り声をあげ、砂をまき散らしながらスピードを上げたのが見えた。

「一台も逃すな!」デザイヤーは取り囲んだジープに目を向けながら、黒く大きな筒を肩に担いだ。

 先頭をゆくジープに狙いを定める。

 スコープにハンドルを握る40代らしき男の顔が映った。

 デザイヤーと目が会ったその男は慌ててハンドルを切った。

「遅い!」デザイヤーの人差し指が引き金を引いた。

「ドーン!」という音と共に、AK-74の小口径高速弾薬5・45mmとは比較にならない、115mm口径の黒い物体がジープに吸い込まれていった。

 ジープが火柱をあげながら空中に高く舞い上がる。

 吹き飛ばされる幾人もの人影。

 ロシア製の対戦車火器。肩撃ち式のRPG-32の追撃砲の砲弾は花火のように夜空を染めた

 何度追い払っても奴らはこの砂漠に足を踏み入れて来る。

「いいさ。何度でも追い払ってやる」自分達に追撃砲まである事を知った迷彩服の一団が、引きあげを開始したのを確認しながら、デザイヤーはつぶやいた。

 デザイヤーは逃げ去るジープの一団に銃火器を浴びせ続ける部下達に、右手を上げて戦闘の終わりを告げて、砂山から下に足を踏み出した。

 肩に担いだ追撃砲も身長190cm。体重100kgを超すデザイヤーには、まるで子供の玩具のようにしか見えなかった。

 デザイヤーは編み上げのブーツの底に砂の感触を感じながら、ガラクタとなり燃え続けているジープに近づいた。

 かすかなうめき声を上げる迷彩服の男の頭に、腰のホルダーから抜いたマカロフを撃ち込み、とどめをさす。

「パン!パン!」と乾いた音が星明りの中、数か所でこだまする。

 部下達がとどめをさしながら、放り出されたAK-47やマカロフを抜き取っていた。それに慣れた手つきで、服やブーツ、ヘルメットにサイフ、死体から身ぐるみ剥がしてゆく。

「まるで山賊のようだな・・・・」いつもながらデザイヤーは思うのだが、部下達も食べていかなくてはいけない。

「AK-47が8丁にマカロフ爺さんが12丁・・・・650万スム位にはなるか?」

 デザイヤーの横で副頭目のコマルがつぶやいた。

 650万といえばいかにも大金に聞こえるが、USドルに換算すればわずか5000ドルにしかならない。

 盗賊のように奪った武器は金に変わる。

 AK-47が500~600ドル。マカロフが200ドル・・・・ISやIRA,イームラ解放の虎などの武装闘争組織に流れてゆく。買い手はいくらでもいる。

 しかし、この国は余りにも貧しいとデザイヤーは思う。

 1991年にソビエト連邦崩壊後、この国は独立した。

 しかし、四半世紀経った今もこの国は1人の独裁者による政権が続いており、一族は贅沢三昧な生活を続けているが、国としての改革は一向に進んでいない。

 旧ソビエト連邦時代、この国は元来降水量の少ない地域であり、綿花の栽培には適さない土地であったにもかかわらず、連邦政府の経済政策によって綿花栽培の役割を割り当てられた。

 連邦政府という物がいかに無能だったか・・・・「くそったれ!」デザイヤーは今でも叫びたくなる。

 そして、その結果は今も多くの土地を綿花栽培に割り当てていた。他の雑穀、果実、野菜を作る土地を持たないのである。

 国を守る国境警備隊も我々同様に貧しい。将官クラスで月500ドル、兵隊に至っては月100ドルにも満たない。

 部下の中にもそんな軍隊を止めてデザイヤーの下で働いている者も多数いた。

 そんな軍隊に不法侵入してくるロシア軍と戦えという方が間違っている。逆に彼らは袖の下ほしさに不法侵入してくるロシア軍を待っている。そして、ロシア軍は何度でもやって来る。

 又今日も、ジープ10台一個小隊のロシア軍を追い払った。

「しかし、デザイヤー。連中が懲りもせずに侵入して来るという事は、本当にあるのではないか?」コマルがデザイヤーに尋ねた。

「無い!」デザイヤーは答えるのも面倒くさそうに、あらかた戦利品を回収した部下達を見渡して「撤収!」と一声叫んだ。

 無機物にどこまでも続く砂の海。

 荒涼としたブルールナの月明り。

 寂しすぎる風景。

 怖いと思う心。

 でも、デザイヤーはこの光景が好きなんだと思う。

 悠久の時の中で人はいつかこの砂漠に還る。はるか昔から、人々はこの砂漠を通り西の国々へと向かった。

 東のキャラバンと行き交う事もあったであろう?

 駱駝の頭上からまだ見ぬ国を・・・・遠くを見つめる自分の姿を思う。いや、自分の祖先達が見たであろう景色に思いをはせる。

 かつて、父は第三帝国のヒットラーの軍隊を追い返した。そして、先祖達が大昔から守りぬいてきた大地。

 何故、自分達一族がこの地を守る事になったのか?

 定められた宿命・・・・この国が出来る前から決まっていた運命・・・・父は告げた。「必ず守り抜け。あのお方が帰られるまで」と・・・・

 

プロローグⅡ

 航西こうさいは夢を見ていた。

 何故ならそこには、幼い自分が母に手を取られて逃げ惑う人々に押されながら、母の手を離さないように必死で掴でいる姿が見えていた。「あぁー。これは夢なのだ?」と深層意識が自覚していた。

 航西はこの館。というよりも宮殿と呼ぶ方が相応しい、世間では谷の宮門と称される甘樫丘に建つ時の帝よりも壮大なこの場所で5年前に生まれた。

  この甘樫の丘からは飛鳥の都も眼下に見渡せる。

 この国の主は誰なのかを民達に顕示する宮殿。

 周りには柵が廻らされ、常備兵が配置され、いざという時の武器庫まで備えられていた。

 しかし、今はそんな宮殿の中に兵達の怒号と女達の悲鳴が飛び交っていた。

 押し寄せる鎧を纏った兵達。

 その兵達が放つ鏑矢が「ヒューン」と風切り音を立てながら、航西の隣にいた奴婢の胸を貫く。

 阿鼻叫喚の中を母の佐伯は航西を庇うように裏門へと向かう。

 母の顔は若い。

 まだ少女のようにも見える。

 その額に汗が光って見える・・・・(母上様の汗を拭いて差し上げなくては・・・・)

「お客様?」柔らかなCAの声に航西は眠りから覚めた。

「お食事をお持ちいたしました」花柄のエプロンを付けたCAが続けた。  

 LA発、JL062便。トリプル7の機内に蘇我航西はいた。

 ダークブルーの目立たぬスーツに、ウイングショートの髪型。どこにでもいそうな30代前半のビジネスマンに見える。

 寝る気はなかったのだが、いつの間にか寝ていたようだ。航西は腕時計を確認して、「あと、2時間か・・・・」誰にでもなく呟いた。

 窓の外にはどこまでも続く青空が広がり、眼下には真っ白な絨毯のような雲が見えていた。

 ここ100年程で高度10000フィート上空を人間が自由に行き来出来るようになり、人間が生きて行く為の技術、医療、環境は恐ろしい速度で進歩してきた。

 母は「お前はその地、その人に会うまで決して死んではいけない。生き続けなくてはいけない」と繰り返し言っていた。

(その地、その人とは何なんだ?俺とは一体何者なのだ?・・・)航西の脳裏に母との流浪の日々が浮かぶ。

 ただ、ただ。目立たぬように、人々の間に隠れるように生きてきた。そして、それは今も変わらない。

 いつも考えても、考えても、答えは出ない。

 で、あるならば、生きよというのであれば、生きてやろう。

 生きて、生きて。何があっても生き延びてやる!

 そして、俺が何者なのか?どこで、誰と会えば良いのかを見つけだしてやる!

 航西は物思いにふけりながら、少し苦味のある硬水のエビアンを口に含んだ。







 

 




  













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