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部屋にたどり着く直前の廊下で1人の男の人とすれ違った。
着ているものは一目で上等なものなものだとわかる。ただ歩いているだけで溢れる気品に、服の上からでもわかるしっかりとした体格。細身ではあるけれど筋肉がしっかりとついていそう。腰にはこれまたかなり出来のいい剣。
カツカツと音を鳴らしながら歩く彼は整った顔で力強い視線を向けてきた。
すれ違いざまに一瞬、訝しげな目をされたけど隣にいるのがアナだとわかると何も言わずに通り過ぎていった。
目的の部屋の前、アナが扉を軽く叩いた。
中から返事はしないまま、ドアを開けて私を中へ促す。
部屋の中にはソファとテーブルが揃っていて、趣味のいい調度品でまとめられていた。
ローテーブルの上にはお茶とお茶菓子。
柔らかそうなソファに腰をかけていた男性が立ち上がって流れるような動きで私に近づいてきた。
背後では扉が閉まる音。アナはいつも通り部屋の外、すぐ横にある部屋にでもいるんだと思う。
この部屋の中には侍女も執事も護衛もいない。
私と、この国の国王陛下であるこの人のふたりきり。
「待っていたぞ、私の愛しい姫。招待を受け入れてくれたことに感謝を」
私のすぐ前で膝をつき、私の手を取って口付ける。
まるで物語の中の胸がときめくワンシーンのような絵になる光景。
「ごきげんよう、陛下」
私も負けじと艶やかな微笑を意識する。
で紙の差出人でもあるこの人は間違いなくこの国の国王陛下。
王妃が1人。私よりも年上の王子様も1人いる。
年相応の落ち着きをもったこの人が浮かべるのは優しげな顔。本気になる時は怖いけど。
1人の小娘に恭しく頭をたれる国王陛下の図にだんだんと面白さが勝ってくる。
まだ手を握られたまま、私も視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「久しぶり、お父さん」
今度こそ本当に表情を崩して笑う。
「ああ。最近店にも行けてなくてすまないな、シオン」
「国王様は仕事たくさんあるんでしょう?落ち着いたときにくればいいよ。お父さんは特別だからね」
頬を緩めて私の頭をなでた後に、私の手を引きながら立ち上がった。
「とりあえず座ろうか。シオンの好きそうな菓子を用意したんだ。この前より茶の入れ方も上達した」
飲んでくれ、というお父さんは国王陛下で間違いない。
私のための紅茶を入れる練習をこっそりとしてたりするけど、この国の一番えらい人。
最初は渋すぎて飲めないくらいだったけど、最近は美味しいお茶を入れてくれる。
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