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「ああ……。到着致しましたね」
何の振動もなく止まった馬車を、セグルさんの手を借りて降りる。
目の前には白亜の壁。
正門よりは質素だけど、庶民目線では絢爛豪華な門がある。
普段は騎士たちが主に出入りする場所。
敷地に入ってすぐに騎士団の屯所があり、訓練所や厩舎が並んでいる。
今は休憩中なのか訓練中なのか、騎士達の姿はあまり見えない。
「さあ、シオン様。参りましょう」
アナが私の手を引いて歩き出す。
「お任せしますよ。私は先に報告しております」
セグルさんは綺麗なお辞儀で私たちを見送ってくれた。
騎士団の屯所の横を通り抜けて、細い裏道を歩く。
あまり手入れはされていない、たまに使うだけの通路。
といっても全く使われないわけじゃない。
人がいないからサボり場所とか密会とかに最適だからって、たまに人影を見かけることはある。
通された一室の中、すでに何人かの侍女が待っていて、彼女達は私の顔を見た途端に破顔する。
「お久しぶりでございますわ、シオン様」
「さあさあ、こちらへ。腕がなりますわ〜」
「うふふ。今日は一段とお姫様にしてさしあげますわよ」
その笑顔が怖いです。
その洗練された立ち姿と動作に似合わずワキワキと動いている手は見なかったことにして、連れられるままお風呂に入れられる。
全身を現れて磨かれてそのあとはドレスをかぶせられた。
デコルテを惜しみなく出す、紫と黒のグラデーションがかったドレスはタイトなデザインで、胸から腕にかけてと腰のあたりに捻りが加えられている。
それでも体のラインは想像できる程度にしかわからない。
ピッタリとしすぎない細身のドレスは絶妙なシルエットを出している。
腰まで伸びた紫がかった白銀の髪は緩くまとめあげられて少し濃いめの化粧。
目元を強調されるだけで印象が変わるから面白い。
「できましまわ!シオン様」
「今回も上出来ですわね」
「最近は騎士服やらお仕着せやらばかりなんですもの。久しぶりに好き勝手にいじれて満足ですわ」
顔見知りの侍女たちが満足そうに息を吐くから、私も鏡の前から振り返る。
にこりと、笑顔は微笑程度に。
「ありがとう」
ほんの少しだけ首を傾けるのも忘れない。
「これで、国王様もイチコロですわよ」
「嫌だわ。国王様はもうすでにシオン様にメロメロよ」
若い侍女たちがキャッキャと騒ぎ始める。
思わず苦笑しそうになるのを抑えた。
ここで完璧な化粧が崩れるのは嫌だから。
崩すのはあの人に会った後。
「苦労様です。あなたたち。今日はもう自由に動いて結構ですよ。シオン様、行きましょうか」
ゆっくりと差し出された手をとる。
アナは今しがたまで壁際から微動だにせずに待っていた。
最近店に立つことも少なかったから久しぶりのドレスは重くて動きにくい。
ゆっくりと足を進める。
高いヒールでもバランスは崩さずに、背筋を伸ばして。
今の私は国王陛下のためのもの。
このドレスはまあ、国王様への貢物のラッピングみたいなものかな。この場所を堂々と歩くための鎧でもあるけど。
だってここは王宮の中。
王族の居住区の廊下。
謁見の間はすぐそこ。だけど、行くのはその隣の部屋。
正式な謁見の間ではなく、簡易的な間の方へ。
私と国王陛下とのら。これは逢瀬で密会だからね。
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