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見切り発車です。
プロット考えようかと思ったんですが諦めたので行き当たりばったりで進んでいきます。
何かあれば改稿版でも作ろうかと。
お付き合いくだされば嬉しいです。
裏口、といってもこの建物で不自然ではないほどには整っているここ。裏って言いつつ通りにも面してるし言うほど裏じゃない。
ここから入ってくるお得意様がいるからっていうのもここが綺麗な大きな理由かもしれない。
「君はこんな所にいるべきではない。私のもとに戻ってきてはくれないか。そうでなくとも、私が君を買い続けよう」
大きなドアを自分で開いて足を踏み出せばそんな声が聞こえた。
珍しくはない言い争いに、とくに気にせずに足を進める。修羅場って言うのがよくこの辺で起きるから慣れちゃったんだよね。
「何度言えばわかるのかしら。私は娼婦に誇りを持ってるのよ。どうして貴方にそんな事言われなければならないのかしら。私を捨てたのは貴方でしょう」
金色の髪、見るからに高級そうな衣装。どこからどう見ても上位貴族様な男の人。
対するのは「はあ」とため息をつきつつ、見惚れてしまうような笑顔を浮かべた絶世の美女。
少し前は魔性の女、悪女、だなんて馬鹿馬鹿しい名前で呼ばれていたカトレア。カトリー姉様。
家名は捨てたらしい。
どこまでも毅然とした態度でいる彼女に、男の人はついに顔を歪めた。
いっぱい後悔してるような顔。
私は自業自得だと思うけど。
「た、頼む!私が悪かった……っ。あのときの私はおかしかったんだ!せめて……せめて一夜だけでもっ!あの日をやり直させてくれないか!!」
それは懇願に近かった。
頭を下げることはないからその程度なんだろうけど。
「どうして?」
凛とした声が通る。
不思議そうな声でもなく、嘲笑うような声でもなく、ただ平坦な声が続く。
「どうして、私があなたに買われてあげないといけないのかしら?申し訳ないけど、私あなたは好みではないの。それに馴染みでもないのに裏口から押しかけるなんて非礼やめてくださる?ここはそこらの娼館ではないのよ。あなたはここで貴族でもなんでもない」
はっきりとした否定。
それも当然、ここでは娼婦のが立場は上だから。客をとるかどうかは娼婦自身が決める。好みじゃなければ断れる。
……ていってもそんなに断る人は少ないんだけどね、ほんとは。
姉様たちはみんなこの仕事に誇りを持ってるしなんだかんだ楽しんでるし、何より仕事だし。
ほんとに無理な相手以外は受け付けてる。
話すだけコースもあるし、体を売らなくても客は取れるし。そういうとこも普通の娼館とは違うから。
それに、無理な相手って言っても見た目じゃなくて、女の敵とかそういう人はお断りらしい。
確かにたまに気分で断ったりもあるみたいだけど。
この娼館で本当に買えないのなんて、この娼館の一番だけ。
通称姫様。
いや、名前もあるんだけど、太夫だとか花魁だとかわけわかんない呼び名使おうとされていろいろあってここに落ち着いた?みたいな?
この娼館の一番人気で、オーナーで、責任者で。
まあ、いろいろ呼び名とか役職はあるんだけど。
お得意様でも常連様でもそこまでは簡単に行き着けない。
常にいるかどうかもわからないし、気分次第なとこもあるし。買えるどころか会えるか声を聴けるかさえもわからない。
手の届かない花ってことでものすごす人気はあるらしいけど。
誰があの花を染められるのか、なんてね。
みんな暇だねぇ、と思ったり思わなかったり。
「カト……リーナ……」
「あらやだ。誰かしら、それ?私はカトレアよ。やり直しも何もあなたとは初めから何でもないじゃない。ここにはいい男がいっぱい来るし、あなたなんか目に入らないわよ。っと、あらシオンお出かけ?」
カトリー姉様がばっさりと止めを刺して、私に気づいた。
さっきまでとは違う柔らかい笑に私も微笑んでみせる。
「遊びましょ、ってお誘いが来たの。ちょっと行ってくるわ」
手に持ったちょっといい紙の手紙をひらひらと降りながら伝える。
封蝋に紋章もない、差出人も書いてない手紙だから気楽にひらひらできる。
今日の朝届いたばかりの手紙には遊びのお誘い
が。
これは行くしかないじゃない?
だって最近暇してたし、面白いことがあるならね!
なんて1人で意気込んでたら、項垂れるように俯いていた男の人がキッと睨んできた。
「……下女風情が、誰にそんな口を聞いているんだ」
唸るような声に思わず足が止まった。
「あー……」
なんて言おう?
困ったように笑うしかない私にまた眉を顰められた。
やめて欲しいなー……。
「カトリーナの足元にも及ばない。遊ぶ暇などあるなら私が買ってやる。1から貴族に対する礼儀を教えてやるぞ」
ひゃー。
怖いこと言っちゃいますね、この人。
ていうかさっきの姉様の言葉何も聞いてなかった?ここの仕組みも知らない?そんな人いるんだ。
カトリー姉様から殺気。
後ろからも殺気。
多分出入口にいる護衛からのやつ。
あと、私のすぐ側の周囲からも殺気。
どこかわからない所からも殺気。
………物騒だよ。
私には向いてないといえども。
ていうかこの人さっきカトリー姉様に謝ってなかった?
後悔してますっていう雰囲気はどこに行っちゃったの?
「………あなた、ほんとに使えない頭してるわね。あの頃から何も変わってないじゃない。使えない、ちょっと可愛い女に騙されるような能無し男がうちのシオン侮辱してくれてるんじゃないわよ」
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