結末は平凡で
「それで? 結局レミリアはどうなったの? 死んだの?」
「なら貴女のまえにいる私はなんなのかしら?」
ここは紅魔館。
丸いテーブルの上に紅茶と御菓子をのせてお茶をする少女二人。
一人は博麗霊夢。
もう一人は、 レミリア・スカーレット。
「冗談よ、 で? そのあとどうなったの?」
「まぁ、 大体予想はつくでしょうけど……」
☆☆☆☆☆☆
「ルーミアー!!!すとーっぷ! すとーっぷ!!」
今にも槍を投げようとしていたルーミアの手がとまる。 聞こえてきた声の主が自分のよく知ったものだったからだ。
「ち、 チルノ!? 大丈夫!? 怪我ない?」
「大丈夫、 アタイは最強だからね! それよりルーミア、 レミリアを殺しちゃダメ!」
自分と同じく宙に浮くチルノに外傷がないことに安堵するルーミアだったが、 なぜチルノがレミリアを擁護するのかわからなかった。
「チルノ? 貴女あの吸血鬼に何かされたんじゃないの?」
「違うよ、 アタイがレミリアにどうしたら“一番の友達になれるか”聞きに来たんだ!」
(一番の……友達?)
チルノは続ける。
「アタイ、 大ちゃんはきっとアタイもルーミアも一番の友達だって言うと思ってた」
ドクン、 と鼓動が高鳴るのがルーミアには聞こえた。
チルノと思ってたことが違った、ルーミアはチルノが選ばれると思っていたから。
「でも選んだのはルーミアだった! アタイ、 ……悔しかった、 仲間はずれにされたと思った! ……だから……【カリスマ】で有名なレミリアに聞けばアタイも一緒に一番になれるんじゃないかって、そう、 思って………っ……」
ルーミアは自己嫌悪した。
自分とチルノでは考えていることが違う、 彼女のほうがよっぽど純粋で綺麗な考えだ。
ルーミアは、 どちらか一人しかなれないと、 そう思っていたし、 自分は友達だけど“枠
しんゆう
”には入れないと思っていた。
だから、 選ばれなかったチルノに、 内心では同情していたことに今気がついた。
「チルノちゃーん!!」
下の方から大妖精の声がする。
「大ちゃん!? な、 なんでここに?」
どうやらとっく後ろからつけられていたことに気づいてなかった様子のチルノ。
そのチルノに抱きつき、 大妖精は、
「チルノちゃん! ゴメンね! あんな言い方したらチルノちゃん傷つくなんて当たり前だよね! ゴメンね!」
涙をこぼしながら謝罪の言葉を告げた。
「え? え? だ、 大ちゃんなんで泣いてるの?」
状況に理解が及ばず混乱するチルノ。
そのチルノの様子に気づいていないのか、 大妖精はチルノに真相を打ち明ける。
「私ね、 チルノちゃんとルーミアちゃん、 どっちか一人しか選べないと思ったから……だからルーミアちゃんを一番の親友にしたの、」
「……っ」
その言葉に、 顔をうつむけるチルノ。
だが、 次セリフでその顔が、
「でもね? 一番の家族は、 チルノちゃんだから!」
驚きの顔に代わる。
目をぱちくりさせ、
「そっかぁ、 大ちゃん……アタイを、 大事に思っててくれたんだね」
「当たり前だよ! チルノちゃんは私の妹みたいなものだもん!」
「妹!? それってフランみたいな感じ? 」
「フラン?」
仲直りした二人をみて、 ルーミアはよかったと、 そう思った。 だが同時に、 疎外感を感じる。
(あぁ、 これが、 誰かが誰かを選ぶってことなのかー)
寂しさををこらえて唇を少し噛む。
あの二人は妖精で、 自分じゃわからない……絆があって、 家族で……。
だから、 自分が入る余地はない。
そう、 思っていた。
だけど、
「ねぇ大ちゃん! さっきフランから教えてもらったんだけどね、 あ! ほんとはアタイわかってたんだけど。 一番をアタイと大ちゃんとルーミアの3人で分けたらいいんじゃないかな?そうすれば平等だ!」
馬鹿
チルノ
は、 そんな小難しいことなど、 考えない。
「…………あぁ! なるほど~、 チルノちゃん頭いい~」
「え? え? いや、 そういうもんだいじゃ……、 っていうか1を3で割ったら割りきれないけど!?」
「いいから! ほら、 手を出して」
「……うん」
言われるがままに、 妖精二人より明らかにサイズが大きい手を差し出す。
「あれ? ルーミア、 なんかおーきくなった?」
「え? 今さら?……っていうか、 なんでわかったの? 私、 今外見も中身も大人になってるんだけど……」
するとチルノは、 キョトンとした顔で大妖精と顔を見合わせ、 大笑いしながらてこう言った。
「そっ、そんなの……親友だからに決まってんじゃん! ルーミアはそんなのもわかんないのかー」
口調を真似され、 少しイラついたが……。
「そ、 そーなのかー」
と、 腕を伸ばしてその言葉に答える。
その目尻からは、 綺麗な水玉がこぼれ落ちていた。
そして、 その体が蒼く光出す。
「ルーミア!? ルーミア!!」
「ルーミアちゃん!」
「落ち着きなさいあんたら」
心配してルーミアに駆け寄ろうとしたチルノを誰かが制止した。
「何すんだ霊夢!! はーなーせー!!」
「いいから止まれっての! ……時間制限
タイムオーバー
よ、また封印されてるだけ、 もとに戻るのよ 」
渋々引き下がるとほどなくして、 霊夢のいった通りルーミアの体は縮み、 服装ももとの白黒の洋服に戻った。
「ルーミアー!!」
「ルーミアちゃん!」
一目散にルーミアにダイブする二人。
突然の出来事にルーミアはバランスを崩してそのまま二人共々地上へ落下する。
「いてて……なんなのだー?」
「ルーミア、 大丈夫なの!? 」
「二人のせいで落ちたのだー」
「そっかぁ、 なら大丈夫だね~」
「大ちゃんそれなんかおかしくない!?」
「そーなのかー」
「あたしのセリフとるなー! チルノー!!」
色々不思議なこともあるし、 わからないこともあるけれど、 三人はそんなものは気にしない。
一番を分け合った三人なら、 どんなことがあったってその絆が消えることはないのだから。
空には、 幼い子供の声がこだましていた。
☆☆☆☆☆☆
「ここまでが事の結末よ……っていうか、 途中から貴女見てたでしょう?」
ティーカップを手に持ちながらレミリアは聞く。
「まぁ、 いくつかわからないことがあったし……、 ところでアンタ傷はいいの?」
「あら、 あの程度で私が傷つくとでも?」
頬をつきながらやる気のなさそうに聞いていた霊夢に気遣われて少しカチンときたのか意地を張るように答えた。
「エイっ」
「っ~~!!!」
突然、 霊夢がレミリアの腕をつつく。
本当に軽くつついただけなのだが、 レミリアは声にならない叫びをあげていた。
「なにすんのよこの淫乱巫女!!!」
「やっぱり痛いんじゃないの」
「…………っはぁ……。 全く、 私に傷をつけるだけじゃなくてダメージまで残すなんて、 あそこまでとは思わなかったわ」
「全部アンタの自業自得じゃないの」
紅茶に手を伸ばして、 ため息のような呆れる仕草を見せる霊夢。
「そ、 そんなことはないわ! 元はと言えば貴女が作った原因でしょう?」
「何いってるのよ、 アンタが『ルーミアの本気を見たい』なんて私欲を満たすがためにチルノを利用するからでしょうが」
「別に利用したわけじゃないわ、 元々フランの遊び相手になってもらおうと思ってたけど、 途中で面白そうなこと思い付いたから実行しただけよ」
「九割九分九厘アンタが悪いじゃない」
カリスマ吸血鬼は博麗の巫女相手となると少々そのカリスマが消えるようだ、 いいようにもてあそばれていた。
「それにしても、 一体なんなの? ルーミア……宵闇の妖怪って」
「わざわざ言い直さなくていいのに」
「別にいいでしょ! ……とても貴女が無関係とは思えないのだけれど、 あのリボンとい、 “封印”といい」
だんだん素のレミリアが見え隠れしているがあえて霊夢は突っ込まなかった。
というか、 この吸血鬼が実は結構中身が幼女であることなどとっくに知っていた。
「……………なんだっていいじゃないの、 平和だし」
紅茶を啜り、 そう呟く霊夢を見て、 レミリアは少し微笑む。
「……そうね、 フランにもいい遊び相手が増えたことだし、 よしとしてあげるわ」
「あれ? てっきりアンタも遊びに混じりたいとばかり思ってたけど」
「ぶっ! そ、 そんなわきぎゃにゃいでしょうがー!!」
「誰が腋ですって!?」
「言ってなぅにゃー!?!?」
幻想郷は、 なんだかんだ平和だった。