氷の妖精と宵闇の妖怪の喧嘩
「ルーミアのバカっ!」
「バカって言ったほうがバカなんだ! チルノのバーカ!」
暑さが幻想郷を包む、 ある夏の昼下がり。
とても幼稚な痴話喧嘩が勃発していた。
その中心にいるのは氷の妖精チルノ、そして宵闇の妖怪ルーミア。
「ま、 まってよ、二人とも落ち着いて……」
「「大ちゃんは黙ってて!」」
大妖精こと大ちゃんが喧嘩を止めようとするも二人にその声を遮られてしまう。
「ふっ……、 とうとうアタイを怒らさせてしまったね!ルーミア!」
「怒らさせてしまったじゃなくて怒らせてしまっただよ! これだから⑨は……」
「なんだとっ!!?」
「殺る気なのかー?」
今にも戦闘を始めてしまいそうな二人に、 おろおろとする大妖精。
見た目は全員が少女だが、 ルーミアは妖怪、 チルノは妖精の中では随一といっても過言ではない強さは持っている。
二人が戦い始めれば辺り一帯、 大変なことになってしまうこと間違いなしだ。
と、 そこへ
「うっさいのよアンタらぁっ!!」
「あいたっ!」
「な、 なんなのだー?」
二人に突然拳が降り下ろされた。
拳の主は博麗霊夢、 超凶暴にて凶悪な博麗神社の巫女(文々。新聞アンケートより)で有名な少女である。
なんで博麗の巫女が!?
と、 二人して驚いているが、そもそも喧嘩している場所は博麗神社の敷地内。
霊夢が怒るのも、 ここにいるのも当然である。
「全く、 騒ぐならよそでやりなさいよ」
「うっせー貧乏巫女!」
「そうだ腋巫女!」
殴られて怒り心頭の二人は思わず霊夢に悪態をつく。
「あ゛?」
人間であるはずの霊夢に、 鬼のようなつのが見えたのは、 幻覚かどうなの
かは二人には判断できなかった。
☆☆☆☆☆☆
「……それで? なんでアンタら喧嘩してたのよ」
そこらへんに転がってる岩に寄っ掛かり、 腕を組ながら尋ねる。
ちなみにこの岩は数日前、 とある天人によって落とされたものだ。
「れーむには関係ない!」
「そうだ関係ない!」
と、 それに答えるチルノとルーミアの頭の上には大きなたんこぶが二つのほどついていた。
「……また殴られたいのかしら?」
ギロリ、 という擬音が似合いそうな目付きで二人を睨む霊夢。
「「ごめんなさい」」
正座させられていたため手を地面につけるのはとても素早かった。
「あ、 あのぅ……。 」
「なによ、 えーっと、大妖精……だったかしら?」
チルノはちょくちょく退治してるため知り合い程度の認識はあったが、 大妖精はその横にいるモブとしか見ていなかったので面識がほぼほぼない。
うろ覚えで名前(?)を尋ねる。
「はい。 その……、 チルノちゃんとルーミアちゃんは悪くないんです」
「ここで騒いでたのがすでに悪いことなんだけど」
「実はさっき……」
「意外と図々しいわね」
霊夢の言っていることを聞いていないわけでも、 そこまでバカなわけでもないのだが、 かなり天然キャラと妖精の間では有名な大妖精。 霊夢も呆れた表情をしていた。
いったいどんなしょうもないことで喧嘩してたんだろう、 と僅かながらも興味をもつ霊夢。
しかし、
「私のお嫁さんになるのはどっちかっていう話でもめてしまって!」
「は?」
その唐突に告げられた言葉を聞き、思わず声を溢す。
一瞬、 耳が飾りになってしまったのかと疑った霊夢は、 引っ張ったりして自分の耳が正常なことを確認する。
今一現状が理解できていない霊夢だったが、
「大ちゃんはアタイのお嫁さんになるんだ!」
「違うのだ! わたしのお嫁さんになるの!」
と、 口々に詰め寄る二人をみて、 自分に詰め寄られても困るんだけど……。 と内心面倒くさくなった霊夢。 だが、 一応誤解というか、 色々間違っていることを教えることにした。
「「ええええええっ!! お、 お嫁さんになれないってどうゆうこと!?」」
「別にお嫁さんになれないとは言ってないわよ、 ただね、 女の子同士は結婚できないのよ、 幻想郷じゃ」
驚愕の事実に芸人も顔負け、 見事な反応を見せる二人。
「そ、 そんな……だって、 アタイ、 最強なのに……?」
「最強なのは関係ないとおもうぞー?」
ただ単純にバカなチルノに対して冷静なツッコミを入れるルーミア。
彼女のほうがいくぶんかおつむはいいらしい。
「じゃ、じゃあ! アタイらはどうすれば大ちゃんのお嫁さんになれるんだ!?」
「だからなれないっつの! ……そうね、 お嫁さんは無理だけど、 “親友”なら、 なれんじゃないの?」
「親友?」
「親愛なる友達ってことよ、 あれ? 違ったかしら……まぁいいや。 ようするに一番の友達ってことよ」
霊夢のその説明に、 『おおっ!!』と目を輝かせる二人、 そして、
「「じゃあ大ちゃん! どっちが一番の友達!?」」
二人して大妖精に問いかけた。
霊夢は(しまった……)と心の中で後悔するがもう遅い。
大妖精は、 ほぼ悩むことなく、 こう言った。
「ルーミアちゃん」