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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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5 怒り狂う山の襲撃者の標的にされた

 外でかきあつめた雪を、暖炉の鉤につるした鍋にほうりこむ。

 白火石で沸かして溶かし、飲み水をつくってルーは水筒に詰めた。

 そのあと、再び雪を投入し、鍋で煮もどした乾燥ハーブと干し肉で、簡単なスープをつくってふたりで食べた。味付けはサディスがしてくれたので美味しかった。

 今回は遭難した時のためにも、前の町で、ひとり十五食分の携帯食料を購入してある。

 すでに自炊宿にいたときに夜朝二食分、昨日の山登り中の昼に一食分と、夜は食べなかったから……今朝一食分消費したので、残りは十一食分だ。

 次の山小屋まで、昨日より二時間多めに歩くノルマが待っている。体調は回復した。


 しかし、まさか高山病とは……彼の説明によると、空気の密度が薄くなるのが原因で起こることらしいが、体力には自信があっただけにちょっぴり、いや、わりとショックだった。今回の強行軍を「おまえなら出来る」とか言われていただけに。


 そんな感じでしょげ返っている胸の内を、またもや看破された。

「おまえがここ五年間、ほとんど海上で生活していたのを失念していた。休憩は多めにとる。だが、ムリだと思ったら我慢せずにすぐ言え」

「うん」





 午前五時。

 山小屋を出立。


 それにしても、サディスが熱出してる相手に膝貸してくれるとは、予想外だった。

 そういや、ガレットの町では攫われた子供を自ら救出していたし、意外に弱者には優しいのかもしれない。まぁ、たとえ弱者に分類されるはずの老人でも、ウソついたり悪事に手を染めていたら、まったくもって容赦しないんだけどね。


 昼前の休憩で足を止めたとき、彼はガルボの案内所からのルートが、公的案内所のルート頂点三千八百メートルよりも、千五百も高度が高いことを教えてくれた。

 ちなみに大陸を横断するプルートス大山脈は一番高い海抜が八千メートルを越えており、ガレット国からはいる山は海抜六千メートルだという。

 数字だけ言われてもよくわからない。

 そもそも、大陸の山だの国だのの距離はだれが測っているんだろうと、たまに思う。

 すると、クレセントスピア大陸の錬金術師組合の中に、測量機関というものがあるのだと彼は教えてくれた。魔道具屋で売られている詳細な地図の発行元は、だいたいその機関なのだという。

 ちなみに、ルーがもっているクレセントスピア大陸の北半分を描いた羊皮紙の地図もそうだ。ガルボから買った地図は、それを元に大山脈の一部を拡大複写して、さらに彼独自のルートを詳しく書きこんだものらしい。

 とりわけ魔法を使う者の中でも、錬金術師というものはジャンル問わず、様々な難関に挑むのが大好きな連中らしい。

 ものごとの真実を探求するのに命懸けもままあることで、自分たちの住む大陸の姿を知りたいという欲求のもと、一家離散になるまで借金をして巨大な測量機を開発したり、測量に夢中になりすぎてプルートス大山脈で凍死したヒトも出たとか。

 情熱も過ぎると恐ろしいな。





 午後五時。

 今日はさらに急勾配のはげしい登山だった。

 〈氷雪の裂け目〉と呼ばれるしろい大地の亀裂があちこちにあり、うっかりしてると足を踏みはずして底の見えない氷の谷間へ落ちてしまう。

 何度もサディスがこちらの様子を気にして、声をかけてくれた。

 ベールをしっかり顔に被っているので、顔色がわからなかったからだと思う。

 辛くなる前に休憩を度々いれてくれた。だから、なんとか歩き通せた。

 お昼前に途中にあった洞窟でそこに泊まろうとサディスが言ったが、まだぜんぜん体力に余裕あるし、陽は高いからと彼の提案を断った。

 そろそろ疲れもピークに達するころ、ようやく今夜の宿泊予定の山小屋が目前に見えた。高度五千メートル以上の場所にあるせいか、石造りでとても頑丈そうだ。

 それにしても、こんなところに誰がどうやって建てたのかと不思議に思うが、それよりもまず、たどり着けたことに「やったぁ!」と心の中で叫んだ。


 いやもう、声は出ないほど疲れてるんだよ。くたくたのへろへろ。

 でも、あとは明日一日かけて、北方諸国側の山の斜面を下りるだけだ! 

 登ると下りるじゃ、絶対的に下りるが楽に決まっている。

 まだ陽は沈んでないが、さっさと寝てしまいたい。


 気は急くのに、目の前の山小屋が近いはずなのに、なかなかたどり着かない。

 すでに雪も止んでいて、あたりは静か過ぎるほどだ。風の音すら聞こえない。


 おかしいな? ちゃんと歩いてるはずなのに。


 急に膝がかくんとなって、へたりこんでしまった。


 あれ? 足に力がはいらない……?


「ルー?」

 いつのまにか、サディスは山小屋の真ん前に着いていた。

 怪訝に思った彼が踵を返して、こちらに引き返そうとした。

 まさにそのとき、頭上がまっ暗になった。



 バサササササササ──



 空をおおう巨大な鳥が舞った。

 しろい岩と雪しかない見通しのよい斜面。

 なにかを探すかのように旋回し、二度三度と、ふたりの頭上を行き来する。

 よく見れば頭が蛇で胴体は猛禽類だった。人間の大人の二倍ほどの体長だろうか。

 カッと開かれたおおきな口の中、甲高い風の唸りを聞いたと思った。

 刹那、そこにゆがんだ空気の塊のようなものが見えた。

 蛇頭をのけぞらせそれを鎌のごとくするどく振り下ろし、気塊のようなものを、ドウと地上に向けて吐き出した。それはすさまじい勢いで、一直線に山小屋の十メートルうしろにある巨岩を粉砕した。魔法弾並の威力だ。


 え? 魔獣が魔法弾? 

 いや、でも魔法使ってるなら閃光が見えるはずなんじゃ……

 やっぱり気塊? 空気弾?


 呆気にとられつつも、ルーはなんとか雪面についた腕の力で体を支え、もうもうと雪煙の立つ場所をみた。そこから鎧をつけた複数の人が現われた。

 その先頭にいる真青な短い髪の青年が、ひたと、こちらに目を留めた。


「あの馬鹿ども……挑発したのか!」


 サディスが忌々しげに吐き捨てる声が耳に届いた。

 蛇頭鳥の攻撃力はハンパじゃない。まるで怒り狂ってるかのような奇声をあげ、気塊をぶつけて岩を砕き雪面を深く抉り、地形を変えてゆく。

 むろん、山小屋なんてすでに跡形もない。追手は全部で七人。

 こちらの存在に気づいたが、蛇頭鳥の攻撃に応戦するのに手いっぱいらしい。

 そんな仲間を見捨て、こちらに突進してくる約一名を除いて。


「見つけたぞおおおっ、黒髪女───ッ!」


 びくっと、ルーは肩をふるわせた。


 髪短いし、なんか顔がまるきり違うし、ヒト違いだと思いたいが、でもキャラベ軍に混じってるし、あの台詞を言うやつはたぶんこの世にひとりしか思い当たらない。

 あいつか? あいつなのか!? キャラベの拷問吏か!


 ルーもサディスも、防寒用のベール付フードマントを被っているので、そもそも顔も姿も一見でわかるはずないのだが。


 断定できるその根拠はなんだ? 執念か? 

 ちなみにいま髪は染めてて赤いんだけどね! 

 それより、この雪の大山脈を甲冑なんか着こんでよくへばらないな。


 拷問吏は二人には近づけなかった。

 その行く手を狙ったかのように、空から気塊の爆撃がきたからだ。

 蛇頭鳥がいつのまにかもう一羽増えている。


 えっ、どこから現われた!?


 先ほどのやつより体が二回りは大きい。体長が五、六メートルはあるだろうか。

 そいつが吐き出しつつある気塊がどんどん膨れ上がった。

 空に歪んだ巨大な水玉が浮かんでいるように見える。

 さすがにそれに気づいた拷問吏もこちらに向かうのを止め、蛇頭鳥に武器を構えた。

 棒の先端に舟形の大刃がついている長柄戦斧だ。以前、サディスに叩き折られたのと同じもののようだが、まったく同じモノを新調したらしい。

 蛇頭鳥はその頭を大きくのけぞらせた。その体長を越えて巨大化した気塊を、吐き出す。ルーの頭上めがけて落ちてくる。

 吹き飛ばされる直前に、ルーの周りを銀色の膜がおおった。

 そのままものすごい爆風に飛ばされた。

 そして、あろうことか、しろい大地をかち割ってできた〈氷雪の裂け目〉へと落ちていったのだった。

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