おまけ 市場でのひとコマ
本日、二話連続更新。43とおまけ。
最新話にアクセスした方は前ページ(43)から読んでください。
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市場でルーは、自分用の地味な下着を買った。
そのあと、衣装や雑貨の買取りを専門にしているテントがあったので、例の、胸の谷間の切れこみがきわどい上に透け透けの悩殺的な高級下着を売りに行った。
しかし、あろうことか「盗品だろ」と、若い男の店員に難クセをつけられ買い叩かれそうになった。
ルーは、ムッとした。
「こんなお嬢様の着るものどこで盗むっていうんだよ」
「それこそ、どうやって手に入れたか聞きたいね」
「……知り合いの金持ちのイタズラ好きなヒトに、かってに鞄の中に入れられちゃったんだよ」
まさか、大陸五大魔法士のひとりでもあるひいじーちゃんのしわざだと言えるわけもない。
「なんだそれ。説得力ないな」
呆れたように言われた。
「と、とにかく、もらいものだからっ! でも、こんな恥ずかしいモノ持っておきたくないんだよ。それにこれ、絹なんだよ!? もすこし色つけてくんないかな!?」
「そうは言ってもな、砂埃もついてるじゃないか」
それは、誘拐婆に無理やり着せられたおいらが、汚いボロ小屋に転がされていたからだ。好きで砂埃をつけたわけじゃない。
しかし。
「確かに一度着てるから、新品とは言えないかも知れないけど……」
店員は鼻で笑った。
「じゃあ中古だな、はい、コレで妥当だよ」
「銅貨三枚!? いくらなんでも安すぎ! 染めもきれいだし、レース編みもすっごい細かいのにっ」
そこへ背後から背の高い影が近づいてきた。
「まだかかるのか?」
ふりむくと、マントフードを深く被ったサディスがいる。
近くの木立ちにもたれて待っていたが、遅いのでようすを見にきてくれたらしい。
「あ、うん。もうちょっと」
ふと、彼のフードに目を留め、自分の赤毛がすでにキャラベ軍にバレているだろうということに思い当たり、さりげなさを装いつつ、ルーもフードを被った。
「向かいの店にいってくる」
「飲み物買うの? じゃ、おいらのも、お願い。すぐ行くから。甘いのなら何でもいいよ」
「わかった」
強い風が吹いた。フードがおおきく揺らぎ、めくれあがってしまった。
ルーがそれを両手でおさえ直していると、視界の端で店の男が目をみひらき驚愕しているのが見えた。彼は例の下着と、すでに背を向け人ごみのなかへ去ってゆくサディスを交互に見くらべている。
「やっぱり、よそで売るからいいや。お金いらないからそれ返して」
次の市場は大山脈を越えた向こうの国だが、しかたがない。
いくらはやく手放したい恥ずかしいブツであっても、曾祖父が買ったものを二束三文の安値で売るのはいささか気がひける。これまでに市場の品を幾度か見たことで、この下着が最低でも、小銀貨一枚(=銅貨二十五枚)を下まわる価値ではないことぐらいわかっているのだ。たとえ、一度着た中古でも。
ちなみに、ルーが買った新品の麻下着は上下とも銅貨四枚だった。
中古だと銅貨一枚になるのだが、武器を買うためにムダ遣いはしないようにしてるとはいえ、さすがに他人の使い古した下着はいやだ。
ごわつく麻より、だんぜんやわらかいリンネル製なら新品で小銀貨一枚。中古でも銅貨六枚。絹なら、最低でも新品は大銀貨(=小銀貨四枚)数枚にはなるはずだ。
意匠が凝ったものはもっと高いだろう。
「ちょ、ちょい待ち!」
積みあげたレンガに長い板を横渡ししただけの簡素なカウンターの上から、ぶどう酒色の高級下着を持ち去ろうとするルーに、店の男はあわてて引き止めた。
「な、なあ、さっきの美人、坊主の連れかい?」
「うん」
どうやらさっきの突風で、サディスのフードも一瞬めくれてしまったのだろう。
顔を見られたようだ。
「こ、これ、の持ち主…?」
ルーの手元の下着を指しつつ、頬を染め声をひそめて訊いてくる。
ルーは半眼で男を見た。
「それ、本人の前で言ったら、岩壁にめりこむほど後悔することになるよ?」
「なんてこった、あれほど高貴な気品漂う美人が下着を売るほど金に困ってんのか……」
「いや、売ってんのおいらだし」
サイズ見ろよ。どう考えても合わないだろ。
おいらの身長は、彼と頭ひとつ半も差があるんだから。
「恥ずかしいし知られたくないよな。それで坊主に頼んで……。わかった! いい値で買ってやるよ! 彼女の持ち物ならまちがいなく本物の絹だろうしな。ちゃんと金はあのお嬢さんに渡すんだぞ」
変な方向にいらぬ同情をされたようだ。
まあ、本人が聞いてないなら問題ないか。
ちなみに買取価格はシュミーズと布面積の非常にすくない下穿き合わせて、大銀貨三枚になった。それにしても、おいらの持ち物だと銅貨三枚って……。
百倍も価値がちがうとか……世の中、世知辛いな~。
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