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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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42 白銀の使い魔による正しい報復

 銀の球は、雲の上にあった。

 その中で目をぱちぱちさせながら、このタイミングで引きあげたことに疑問をもった。

 背を向け立っている彼に声をかける。

「さっきの……町役人だよね? 状況説明とかしなくてよかったのか?」

 翠緑の美しい双眸がこちらを見た。つい緊張した。


 いや、ちゃんとマントにがっちりくるまってるから、恥ずかしくはないんだけどね。


「以前から子供が失踪して騒ぎになっているからな。被害者の中には町の有力者の孫も含まれていたらしい。おまえが路地裏で老女を介抱してるのを見た者が何人かいた。誘拐犯一味の人相情報だけでも、大銀貨三枚出すそうだ。隠れ家を見つけたら金貨十枚。よかったな、おまえのあとをつけていた奴らがいて」

「……サディスはどうやってここに?」

「隠れ家をつきとめた連中から聞いた」

「え、そんなに簡単に教えてくれたの?」


 ふつーお金が絡むと分け前が減るから、言わないんじゃないかと思うんだけど……。


「役人に通報したあとだからな」

「なんだ」

「顔を見るなり、相手をしなければ答えない、というので望み通り相手をしてやった」


 たぶん、そーゆー意味じゃないと思うけど。

 わかっててやったんだろうなぁ。


「あれ? フードで顔隠してなかったの?」

「かなり背の低い男だった」


 なるほど、フードを深く被っていても、下から見上げたら見えるもんな。

 おいらはいつも見えてるけど。


 線が細い上に流れる銀糸の髪に白皙の美貌なので、わりと背が高くて刃のように剣呑な空気をまとっていても、女性と勘違いする輩は多い。わずらわしいことだ。

 今はマントをルーに貸してくれているため、その玲瓏なる横顔も陽の下にさらしてはいるが、雲上なので人目を気にする必要もない。

「……壁にめりこませたの?」

「町の井戸に叩きこんだ」


 敵とみなした相手への魔法攻撃も容赦ないけど、魔法なしでも容赦ないよね。


「この町に斥候がいる可能性があると言っただろう」

「え、この町に?」

 首をかしげると、彼は呆れたように言った。

「昼前、屋台で買った大量の肉饅頭をおまえが食っているときだ」

 彼は移動球の床に腰をおろした。ルーもつられて、ぺたんと座りこんだ。


 あぁ、食べるのに夢中で、にぎわう雑踏もサディスの声もろくに聞こえてなかったかも。たぶん、てきとーに相槌打ってた気が……。

 斥候の話は前々から聞いてたけど追いつかれていたとは……。


 ひきつった笑顔のまま謝っておいた。

「ごめん、聞いてなかった」


 できれば、食べてるときに重要なことは言わないでほしい。


 彼は軽くためいきをついてから話を続けた。

「銀球を使ったから俺のほうが一足早かったが」


 ……おいらのせいか。

 緊急時がくるまで魔法は極力使わないって、サディス決めてたのに。

 特に移動・攻撃系の魔法は魔力消費がおおきい分、痕跡がのこりやすく感知されやすいから。


「さっき役人たちがいただろう。その中にあきらかに動きのおかしいのが一人いた」

「それって……?」

「通信系の術を発動させていた。町の外へ向かって発信の軌道が見えたからな。わざわざ誘拐犯の捕り物に、町の外へ連絡するのは不自然だ」

 こちらは天才魔法士と名高いサディスに護衛してもらってるため、軍国キャラベの追手はとうぜんながら魔法士だ。

 なので、むこうが魔法を使ったばあいもこちらに居場所が知れる。

「つまり、町の外にいる軍を呼びよせてるってこと?」

「そうだ……」

 彼のつぶやきともとれる呪文のあと、空中で銀に発光する魔法陣からそれはあらわれた。サディスの荷袋と、見慣れないおおきな布包みだ。

 中身も布を包んでるっぽいので、おそらく彼が買った防寒着だろう。

 視線に気づいて彼は説明してくれた。

「おまえを探す間、買った店に預けておいたものだ」


 転移させたんだ。お店の人はびっくりだろな。預かってたものがいきなり消えて。

 でもよかった、おいらの衣装一式あのばーちゃんに盗られちゃったし、替えがないからどーしよかと思ったよ。あの白マント、もらい物でけっこう気に入ってたんだけどね……。


「見ていい?」

 うなずく彼を見て包みをあけると、厚手のマントは毛皮が裏打ちされ、あったかそうな毛織のシャツにズボン、立て襟の膝丈ジャケットがある。肌触りのよさそうな内側をなでてると、手のひらがぽかぽかしてくる。保温性もかなり高そうだ。

 サディスの分は灰色で、ルーの分は茶色で統一されていた。

 地味な色合いのわりに生地がいいのか、色が上品だ。ブーツまである。

 なぜか、靴底にするどい猛禽類のような金属爪が十コほどついていた。

 一瞬、なんだこの凶器と首をひねっていたら、これから雪山を登るから滑り止めなのだと彼は教えてくれた。靴底が二重になってるので、その爪は一番下の靴底ごととり外せるようだ。


 平地じゃいらないからか。なるほどなるほど。


 衣装を包んでいたおおきな一枚布に目をやる。

 すみっこにきれいな書体で刺繍されている。世界共通のフィアレス語だ。

「バルデンモーア、って何?」

「老舗の衣裳屋だ」

「市場で買ったんじゃないんだ?」

「この大陸でいくつか支店を出してる。幾度か利用したことがあるからな。品質は申し分ない」


 大陸中に支店をもつほどの老舗。

 めちゃくちゃ素材の良さそうな防寒着……これって高いんじゃ?


 疑問が顔に浮かんでいたのか、彼は答えた。

「プルートス大山脈は、中立地帯で術使用の制限はないはずだが、それでも何故か、ここ一年ほど前から多くの凍死者が出ていると聞く。魔法士でもな。術が使えなくなる状況が発生するのかも知れない。常識で考えても、山越えで防寒対策をおなざりにするのは自殺しに行くようなものだ」


 というので、いくら使ったんだよというツッコミはやめることにした。

 いや、待て。そうは言っても高級品。いつもは買い出しは交互にしてて不平等感なかったから、言う必要もなかったけど。


「あのさ、おいらが買った食糧のうん十倍とか百倍とか言われたら、いますぐ返せないんだけど……とりあえずツケにしといてくれる?」

「心配しなくても、そのぐらいは俺がもつ。おまえはまだ武器もそろえてないだろう」


 細身だけど太っ腹。さすが大物だ。

 ここはすなおに感謝するよ。


「ありがと~、いま着てもいい?」

 すこしだけ彼は笑って、背を向けてくれた。

 ルーは手早く着替えをすませた。やはり着心地も最高の防寒着だった。



 実はこの防寒着一式、ルーの財布の中身じゃ足りないほどの金額であったことを知るのは、もっと先のことである。



「食料は?」

「ちゃんと買ったよ! パンと果物と、肉と野菜とハーブの乾物、あと塩も。飲み水も井戸で汲んできたし」

 報告しつつ鞄のふたを開け、彼に半分を渡した。

「いま国境に向かっているが、その前に……見つけたようだな」

 サディスは立ちあがり、右手を前につき出した。

 彼の前方、銀球の壁に、銀の閃光が走り魔法陣を描きだす。

 まさかもうキャラベの追手が来たのかと、ルーはあせった。

 銀球はいつのまにか雲の絨毯をぬけ、下界を見おろし悠然と風に流れる。

 こちらに背を向けているサディスの両肩に、ちいさな男の子と女の子の精霊がちょこんと座っている。


 あれって、さっき消えたはずの精霊の子……? 

 サディスをつつむ膨大なα霊に同化したはずなのに……

 どうしてまた分離したんだろ?


 ちっちゃな男の子がちいさな腕をあげて眼下を指して、なにかサディスに知らせているようだ。豆みたいな目が細くなってる。その横顔は怒ってるようだ。

 ちいさな精霊たちは、サディスの肩から透明な四枚羽をはばたかせて飛びたち、銀光はなつ魔法陣をくぐった。

 とたん、白銀に輝く優美な首のながい水鳥が出現した。大人の身の丈二倍ほどの大きさがある。それは地上の一点をめざし豪速の矢のごとく飛んでいった。

 あっけにとられる間もなく、白銀の水鳥はかなりの敷地面積をもつおおきな屋敷につっこんでいった。

 屋根をドカンとぶち破り、窓を割ってぬけ出して、また壁をぶち破って突撃。

 それを何度かくりかえす。まるで、あのながく伸びたくちばしが巨大な鉄鎚のようだ。

 家にいた人間たちが、アリの巣でもつついたかのようにとびだしてきた。

 用心棒であろう男たちが、剣や斧を手に庭先から応戦しているが、まるで旋風のような動きの白銀の水鳥にかすりもしない。

 やはり用心棒なのだろう、魔法士らしき男が杖をむけ炎を噴射してきたが、あっさりその羽ばたきひとつでふっ飛ばされ、炎は景気よく屋敷に燃えうつった。

 その惨事を真上まで移動した銀球から見おろすルーは、となりで涼しい顔をして暴挙を指示したであろう彼に尋ねた。

「あれって人買いの親玉の家?」

「そうだな」


 サディスにしては珍しい。

 クトリ呪詛の謎を追う以上、それ以外の面倒ごとは回避したがってたのに。

 今回、役人が時間差もそれほどなく動いてるのだから、人助けは任せて追手が来ないうちに国境を出ると思っていたんだけど……。

 だからこそ、おいらも今回は首をつっこまなかったんだけど。

 なにか、彼が動かざるを得ないような理由でもあるんだろうか。

 おいらの誘拐未遂が気に食わないんで仕返し、て感じでもないと思うけど。


「俺の顔になにかついているのか?」

 じっと見つめてしまったので、サディスが怪訝そうに問うた。


 理由なんか別にいっか。

 自分的には悪党退治はいつ何時でも大賛成だ。


「いや、なんでもないよ」

 笑ってそう言うと、彼はちょっと片眉をひそめたものの、追及はしてこなかった。

「ん?」

 白銀の水鳥がさっきより、さらにでかくなってる。

 そして、さっきはなかったはずの透明なシャボン玉のようなものをくちばしに銜えている。


 それにしたって強いぞトリ。群がる武器持ちの人間どもを足蹴にして、ばっさばっさと風きり羽根で投げ飛ばしている。

 なんか遠目にもキンキラキンにひかる上着を着たでっぷりしたおっさんが、だれよりも空高く飛ばされていたが、あれは屋敷の主ではなかろうか?


 ふと、あの白銀の水鳥になった精霊ふたりを思いだし、サディスに聞いてみた。

「あのコたち、さっき人型で出てきたけど……なんで?」

「α霊の集合体に吸収されても、個体としての意識がのこったらしいな。珍しい現象だが従属してる分には問題はない」

「人に擬態する以外の能力なかったんじゃ……?」

「ほかの同属性のα霊の核となったせいで、個体に集まる魔力値は増えている。こんな便利なものを使わない手はない。よって、使い魔として術で二体を融合させてみた」

「それがあの鳥ってこと?」

「ああ」


 どっかん どっかん


 足下では破壊活動が行われている。

 優美な美しい水鳥というみてくれによらず、飼い主に似て物騒な使い魔だ。

「そういえば、あのコたち……さっきすごいサディスのこと見てたよね」


 なんてゆーかな、一目ボレしたよ兄貴~て顔だったけど。

 だから、その芽生えた気持ちを捨てられなかったのかな。

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