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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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31 災厄引き寄せるも悪運非常に強し

「俺がいない間にあった事を、始めから話せ」

「えと、そんな気にするほどのことじゃないよ?」

「話せ」

 低い声音で脅された。目も怖い。

 距離もめちゃくちゃ詰められ右頬を容赦ない力でひっぱられた。


 マジで顔が変形するかと思った。

 ごめんよ、名も知らぬ少年。

 彼を出し抜くには、おいらには百年早そうだ。


 ひりひり痛む右頬をさすりながら、涙目でことの顛末を話した。

 サディスが出かけたあとで、昨日の薬草売りと賊に囲まれたこと。

 薬草売りは悪魔化してサディスを追って飛んでゆき、食人の末期悪魔に自分は食されそうになったこと。

 黒髪の十歳ぐらいの少年剣士に助けられたこと。

 彼は悪魔を斬れる剣をもっていた。さらに虎頭の末期悪魔が仲間の血をかぎつけてやってきて、それも少年に倒されたこと。

 なにか訳ありそうな少年に、誰にも言わないよう口止めされていたこと。

 話を終えるころには凍気はなりをひそめ、また青草もそよぎはじめた。

 彼は黙って考えこんでしまった。

 しばらくして、確認するようにつぶやいた。

「その食人の末期悪魔に、衣装を破られたということか」

「……ハイ」

 食人の末期悪魔が魔力を行使していなかったとはいえ、サディスは個が内包する魔力を感知できる。


 魔力値がかなり低かったのかもしれないが……その存在を見過ごしたのは、薬屋の話にすっかり気をとられていたせいだ。

 わずかでも温泉町の方向に意識を向けていたなら、すぐに気がついたものを。

 アレが自分以上の女嫌いであることは知っているが、だからといって、これまで自分の近くにいた女にわざわざ害意を向けたことはない。となると───。


 勘のいい彼は答えを見つけた。


 クトリの呪詛か。奴は関わらせまいとしている。

 そのため、ルーを排除すべく動き出したのだろう。頭を使ってくるだけに、ストレートに武力のみで追いかけてくるキャラベ軍よりも面倒でたちが悪い。


 そして、もう一点、彼には気になることがある。

 それは──。

「……黒髪の子供の剣士か。……不吉な符号だな」

「……はい?」

 ルーはびくつきながら首をかしげた。


 なんかまだ声が怖いんだけど。

 なんか静かに怒ってるというか……不機嫌がびりびり空気を伝わってくる。


 さらに、彼は眉間のシワを深くしてなにか小声で吐き捨てたが、よく聞きとれなかった。

「いま……?」

 なんて言ったのか聞こうとしたら、額に左手をあて盛大な溜息をつかれた。

 それから、すっとその手がのびてきて、指の背でルーの右頬をかすめるようになでた。

 彼女は碧瑠璃色の双眸を二度まばたいて、見つめ返した。

「おまえには、本当に首に縄をつけないといけないようだな」

 思わず飛びずさった。

「な、なに言って!?」

「留守したわずかな時間に、こうも禍にはまる人間はそうはいない。おまえが飛びこんでいるのかと思ったが、それ以上に禍がおまえに引き寄せられているようだ」

「いやっ、でも、首に縄とか非人道的だから!」


 まだ、サディスの中でのおいらの評価はコザルか! 

 そして、本気でやりそうだ。


「……たしかに非人道的だな。別のやり方にしよう」

「……なぁ、今、おいらが考えていたのと違う意味で考えてなかった?」

 つまり首に縄というのは、ただの例えで。

「たまに察しがいいな」

「何しようとしてたんだよ……?」

 聞くのも怖いが、好奇心のほうが上回ってしまった。

「おまえに魔力で印をつけて繋ぐ」

「……どーなんの?」

「アスターが女悪魔に印をつけられていただろう。あれと同じだ」

 曾祖父ノアの弟子の一人、アスター・ホーン。

 家族を人質にとられ、サディスを期限付きで殺すよう女悪魔に脅されていた。


 たしかあれは……手首に紫のバラの印が刻まれ、期限がきたら女悪魔の領域に強制的に引きよせられ、命令をたがえていたら石にされるというものだった。……てことは。


「何かあったら、おいらがサディスに召喚されるってことか?」

 悪いことでもないような気がするが、と思っていたら。

「プラス、俺がやるとおまえの思考が常に筒抜けになる」


 プライバシーの侵害じゃないか! やっぱ非人道的だ。


「遠慮するよッ」

「いや、待て。どうせおまえの考えなど吐かせるのだから同じだろう」

 まじめな顔で言われた。

「遠慮するってば!」

「しかたがない」

 右手首をつかまれた。

 ぎょっとして振り払おうとしたが、彼は前を向いてゆったりと歩みだした。

「離れるときはその都度、対策を考える」

 その言葉に、ほっとする。

 そして、聞きたいことを思いだした。

「ところで、なんで追手に気づかれたんだっけ?」

「コウモリ男を魔法弾で消滅させたからだ」


 おいらのせいか……。おいらのところに強力な末期悪魔がいるのに気づいたから、魔法を使うことに躊躇しなかったんだ。

 魔力消費のおおきい攻撃魔法は、敵にとっての狼煙となってしまうのに。

 おいらの非力さのせいで……せめて棍がすべって手から離れなかったら……やはり、あの少年の言うように、もっと手になじむものを見つけたほうがいいのかも知れない。


 空の青と緑の海原を、それっきり黙して歩きつづける彼の背中をみつめた。

 自分の右手首をつかんでいるその左手に、視線を落とす。

 自分の手と比べてずいぶんとおおきい。女性とはちがう節張った指は、けれど、なめらかでしろく細い。指先まで美人だなと思う。

 彼は、枯れ葉色マントの下には、濁緑の長そでチュニックを革ベルトでしめ、黒ズボン、革ブーツという、地味な装いをしている。

 旅にでてから、女性がズボンをはくのは一般的ではないということを、ルーは知ったのだが、それでも、彼は盗賊の男や宿屋の主に、女性と勘違いされていたようだ。

 ちなみに、宿屋の主の前で彼がフードを上げていたわけではない。主が店前でしゃがみこんでる所に声をかけたため、下から見えたのだと思われる。


 やっぱり顔を見られちゃうと〈地味〉さが消滅するからな~。彼としてはわずらわしいだけだろうけど。特にあの盗賊の男みたいなのとか………ところで、いつまで手首をつかんでる気なのだろう。


 首をかしげつつ疑問を投げかけた。

「……あの~、サディス? さすがに、こんな見通しのいいとこで、おいら迷子になったりしないよ?」

 彼はちょっとだけ振り返った。

 すこしだけ、翠緑の宝石みたいなふたつの瞳を細め笑っていた。

 やさしい、微笑。

「嫌か?」

「……ぜんぜん」

 三割増しに輝く美貌のまぶしさの不意打ちで、呆然と返事をした。

 何が原因かよくわからないが、ご機嫌なのはわかった。


 めったに見せない微笑みは貴重だ。それも小馬鹿にした感じじゃないやつ。

 何日ぶりかな。どうしたんだろう、急に……とは思ったものの、まあ、いいか。

 追手も振りきったし、天気もいいので、きっと気持ちに余裕が生まれたにちがいない。





 今夜は山の洞窟で野宿することになり、冷えるので焚き火で暖をとった。

 敵はサディスの魔法痕などを見つけないと追えないらしいが、サディスは人の魔力そのものを感知できるので、現在、キャラベ軍がまだ岩山地帯の迷路に迷いこんだままだと知っている。

 その逆はないのかと問えば、それが魔力の格差とでもいうのか、彼は自分の魔力の気配を消せるし、それを探し当てることが出来るのは、彼より魔力の高い人だけということらしい。そんなのは大陸にそう何人もいないだろう。

 じゃあ、ちょっと寝過ごしたぐらい大丈夫だったのかと思ったが、豪速魔獣が起きてくれなかったのは、かなり手痛い誤算だった。

 しかし、いつ起きるかわからない魔獣を砂漠近くの村で待つわけにもいかない。

 地図を広げ、やっと次の遺跡に近づいたことを知った。

 ここから二時間も歩けば遺跡町に出るだろうと、彼は言った。


 ならば、はやく寝るに限る。


 だが、あんなに歩いたのになぜか食欲がわかなかった。

 最後の携帯食はチーズ風味の堅焼きビスケットで、とても美味しそうに見えたから最後までとっておいたのに。ビスケットが古かったのかやたら湿気てまずく感じ、布包みにもどしてから鞄に入れた。


 もちろん大事な食料なので捨てる気などはない。

 死ぬほどお腹が空いたら食べることにしよう。


 焚き火の前で疲れからか、すぐにうとうとしはじめた。

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