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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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★27 温泉町の惨劇とその続き

 9月12日、午前五時。


 早朝に山小屋を出立した。立ちトカゲ魔獣はやはり脚をひきずっていた。

 つらいのか息づかいも荒い。

 この世は〈癒し魔法禁止〉という、なんとも納得のいかない魔法使いたちが厳守すべき不文律がある。

 それをやぶって使えば、古代邪神に地中にひきこまれるからというのが理由らしい。

 たしかに、自分の命が危うくなるというのならしかたがない。

 薬草療法と補助魔法(痛みどめ・解熱などの間接的な癒し)を、天才魔法士がもちいても、やはり治癒にはそれなりの時間が必要なのだ。

 旅をつづけるためにも、次の町でべつの魔獣を調達するしかなさそうだ。

 迂回した獣道からひろい道にでた。北からやってくる旅人と幾度かすれちがうようになると、昨夜のあの火事についての会話が聞こえてくる。どうやら賊に襲撃されたようだ。

 大規模な惨殺劇がこの先の町であったらしい。

 だが、その町を迂回するルートがない。

 いや、ひとつだけあるのだが……そこは昨夜、サディスが感知していた追手らしき魔力持ちが集まっている場所なのだ。

 それで前方からくる旅人をつかまえて詳細を聞いたところ、この先の温泉町に生存者はなく、賊も盗るものは盗リ尽くして夜のうちに去ったらしいとのこと。

 死体の数が尋常でないので、迂回したほうがいいと勧められた。

 ルーは羊皮紙の地図をひろげ確認してみる。

「死体は見たくないけど、次の遺跡は温泉町にすごく近いんだよな~。迂回路とはまったく逆方向だし」

 結論。大虐殺のあった温泉町を通るしかない。

 サディスはなんだか気乗りではなさそうだが、ほかに選択肢もないので行くことになった。

 もともとひとり乗り用の立ちトカゲ魔獣。こんなときは子供並の重さなのが幸いというべきか。ケガをしたほうの手綱をもち、もう一頭にルーは彼といっしょに乗って、速度をおとして進んだ。





 午後二時。

 温泉町に到着。軒をつらねて並んでいた宿屋は焼き討ちされ、死体がころがり酷いありさまだった。まともに営業していられるところは、もはやないようだ。

 とある宿屋の入口で、肩をおとしてうなだれている中年の男がいた。

 聞けば、使用人が粗相をして機嫌をそこねた上客に詫びの品をもって隣町の屋敷へ訪ねていたおかげで、災難をまぬがれたらしい。

「この近くの遺跡にきた、考古学者のアビ・ゼルハム氏を知っているか?」

 サディスが訊ねると、男はしばし肉つきのよい顎を指でなでたあと、思いあたったようで深くうなずいた。


「あぁ、あの人騒がせな遺跡の先生ですね! 四ヶ月ほど前ですが、遺跡調査中に何度か倒れてうちの宿に運ばれてきたのですよ。胸に疾患があるようで、遺跡学者の卵さんや薬師殿に養生を勧められていたのですが、とても頑固なお人でしてね。そのうち反対を押しきってファリフォン遺跡へ移動したんですよ」


「ファリフォン遺跡か」

「おや、そちらの魔獣は脚を痛めているようですね。元気がない」

 ケガをした立ちトカゲ魔獣に気づいて、宿屋の主は「もし腕に自信があるなら、ですが」と前置きをして、野生の魔獣がいる岩山地帯を教えてくれた。

 それはチャウダー遺跡。三千年前に岩山をくりぬいてつくられた住居が、風化しつつもかろうじて残っている場所だ。

 そこにいる魔獣は獰猛さはないが非常にすばしこい。

 首に縄をかけて捕まえたら、すぐ自分の手で餌をやればなつくのだという。

 サディスが無傷な立ちトカゲ魔獣に乗って捕まえてくると言った。

「その魔獣なら十分ほどで着くでしょう。ケガをしたほうは、よければ私どもが引きとりましょう。雑食だし手間のかからないコですから」

 サディスはその申し出をこころよく受けた。どうせ旅に連れていけないなら、ちゃんと面倒をみてくれる人に任せたいと思ったのだろう。

 ルーも行こうとしたが、断られた。

「三十分で戻ってくる。ここに残れ」


 つまり彼は十分もあれば捕まえられるということか。

 自信満々だな。そして、おいらは足手まといということか。


 サディスがケガをしてない立ちトカゲ魔獣に乗ろうとすると、宿屋の主が思いだしたように引きとめ、なにかを話していた。

 その間にルーは何気なく近くの宿屋をのぞいて……息をつめた。


 なんだ、これ……!?


 思わずサディスに振り返って、そのことを言おうとした。

 だが、彼はもう、魔獣で駆けだしたあとだった。

 通りのあちこちに賊に斬りふせられた死体はごろごろころがっていたけど、さっき見たものは常軌を逸していた。手足があらぬ方向にねじり曲がっていたのだ。


 サディスは……いや、気づいてたら、おいらを置き去りにはしないだろ。

 もしかして、ここを襲った賊って……。


 とたんに心臓が早鐘を打ちだした。

 手にした棍をぎゅっと両手でにぎりしめる。

 青ざめてたたずむルーに、宿屋の主が力なく声をかけた。

「アレを見たのですね……? 酷いものでしょう、とても人間の仕業とは思えませんよ。家の中に逃げた者のほうがより惨い殺され方をしていて……逃げたのがそんなに許せなかったんですかね。……特に、厨房を見たときは衝撃で吐いてしまったほどで」

「……厨房? いったい」

 聞きたくもないが、反射的に何があったと問いそうになったとき、「おやおや~」と間延びした声がかぶさってきた。

 道の向こうから、昨日の薬草売りがあらわれた。


「赤毛の少年、コンニチハ」


 細面に柔和な笑みをたたえて、片手をふりふりやってくる。


 そういや、このヒト、昨日こっちの道通ってたよな。


「昨夜、ここでお見かけしなかったので、とてもとてもとても! 気になっていたんですよ~。でも、死体がなかったので、きっと遅れてるだけだろうと思い、待っていた甲斐がありました!」

 やさしい笑みでほがらかに語る男に、ルーはなにか気持ち悪さを感じた。

 さも心配したような言葉に、なにかいびつなものが含まれていたように感じたからだ。

 とてもが三回。一度会ったきりの相手のことが、ナゼそんなに気になるのか。

 いや、それだけでなく。すぐにそれが何なのか知らないとマズイことになる。

 どこかからそんな警鐘が聞こえた気がした。

 ルーはさっきの言葉のひっかかりを頭の中で抜きだした。


 〈死体がなかった〉〈待っていた〉


「あの美しいお連れはどうしました?」

 薬草売りの青年は、茶色のすこし長めの髪をゆらして小首を右にかたむけた。


 〈ここで見かけなかった〉〈気になった〉


 この人なんで無事なんだ? 昨夜この町にいたはずなんだろ。


「銀髪の美しいお嬢さんのことですよ~。質素な身なりでありながらも、まるで白百合のように清楚で、棘ある薔薇のように気位の高い」

 茶色の目をほそめた。

 それだけでやさしげだった印象が、どこかいやらしいものにすり変わる。

「もう一度ぜひぜひぜひお会いしたくて~、昨夜は一睡もできなくて困りました!」


 やたらサディスを気にかけているな。

 ……どうも、美しいお嬢さんと少年の二人連れだと勘ちがいしてるらしい。

 みつあみにしなくても女性とまちがわれるんだ。

 本人聞いてなくてヨカッタネ。血祭りだよ。


 やはりその執着ぶりに、なにか異様なものを感じたらしい宿屋の主が、ルーと青年を何度も交互に見ていた。

 青年は胸に手をあてつつ、わざとらしく溜息をついた。

「だから、その気持ちをなだめようと、ど~っでもいい人たちをたくさん殺してしまいました」

 背後に殺気を感じ、ルーは振りむかずに自分の右肩の上めがけ、棍をつきあげた。


 ゴッ


 重い手ごたえがあった。振りむけば剣をもった男がふっとんでいる。

 いつのまにか囲まれていた。賊だ。ざっとみる。十……、袖口から隠し武器であろう長い針のような刃をちらつかせ、にやにや笑っている薬草売りをふくめ十一人。


 やばい。一人で片付けられる人数じゃない!


 とっさに足手まといの宿屋主人を逃がすために、敵に突撃し活路をひらいた。

 新しい棍は手に馴染まず、思ったようになめらかな動作にならない。それでも体はかってに動く、なんとか奇襲で四人の頭を狙ってはげしくつき、昏倒させ囲みをやぶった。


「逃げて!」


 なぜかパニクった彼は、扉の焼けおちた家屋の中にとびこんだ。しかし、すぐ悲鳴とともに、ダンゴムシのようにごろごろ後転しながら道端に倒れふしてしまった。

 暗い家の中から、やたらでかい男がでてきた。

 二メートル半はあるのではなかろうか。玄関の上部に手をかけ、つかえる頭を下げてから外にでてきた。まだ若そうだ。

 ぴちぴちに張る筋肉に、血管がミミズのように浮いてて気持ち悪い。

 どうやら賊の頭っぽい。中で食べ物を物色中だったらしく、右手に血濡れた剣……ちがった、肉切り包丁だ、もう片方の手には焦げ目のついたばかでっかい骨つき肉にかぶりついている。しかも半生なのか血がしたたってる。指がついてる。


 人肉じゃないか! わざわざローストしたのか!?


「旨そうな餓鬼だな、ギヒヒヒヒ」

 下品で耳障りな声を発した。

 視線がこちらに向いている。気のせいだと思いたい。

 さっきの十一人の中にちいさいヤツがいないか目線だけめぐらせて確かめる。

 子供はこの場にひとりしかいない。


 おいらだ。おいらがウマそうなのか。


 血の気が引いた。

 自分が食べ物に見られるとは考えたこともなかった。


 脂肪どころか肉なんてろくについてないのに。


 薬草売り、もとい賊の仲間だろう茶色の青年は、もはや、やさしげでもなんでもない。

 欲望剥きだしの三日月のような目で笑っていた。

「それはあなたに任せますよ。自分は美女を頂きます。そこにいる魔獣がケガをしているようですから、きっと彼女は、野生の魔獣を捕えに遺跡へ向かったのでしょう」

 前半なにか耳を疑うようなことを言った。

 懐から丸くて黒い鉄塊をとりだすと、喉元に押しあてる。

 ずぶり、ずぶずぶと食いこんでゆく。

 まるで皮膚がそれを食べているようにもみえた。


 黒きメダル! 憑物士になる気だ!


「どんな時にコレを使うか考えていたんですがね~、お高くとまってとりすました女を追いまわして、悲鳴をあげさせてやるのも愉しいでしょうね」

 ヤツは鋭い爪をだす。

「このツメで引き裂けば、命乞いして泣き叫ぶでしょう」

 そして、背中のシャツを破ってうす汚い蝙蝠の羽をだす。

「それを上空へ引きずりあげてたたき落す。あの美しい顔もぺしゃんこです、あぁ、愉しい!」

 耳まで割けた口にずらりとするどい歯牙をならべ、もはや人間とは思えない高い声で哄笑すると、岩山地帯に飛んでいった。


 えーと…なんだこいつら……憑物士が賊…? 

 いや、もう、店の中にころがる死体の損壊状態みてそうじゃないかと、予想はしてたけどさ………さっきのやつ、サディスが魔法士って気づいてなかったのか? 

 そういや魔力の気配断ってたからわからなくて当然か。瞬殺されるぞ。というか、むしろされてしまえ。サディスを想像で貶めるような輩に同情の余地はない!


 目の前の食人する憑物士は、バキバキと肩口から変な角をあらわす。

 口と頬骨が前につきだしヒヒのような顔だ。

「餓鬼はいい、肉がやわらかくて甘い」

 舌なめずりしながら肉切り包丁で襲いかかる。

 巨体のわりに敏捷なその動きに一瞬、避けるのが遅れた。

 マントの留め金をかすめるように斬りつけられた。とっさに棍で打ちかえす。

 マントがはずれて宙を舞った。

 残った賊の六人が、ヤジをとばしている。


 あっちはただの人間ぽいな。

 憑物士を恐れずその悪事に便乗するやつらもいるのか。腐ってる。

 それにしても、強い。隙がない。

 もとが武道家の人間か、それとも武芸に秀でた悪魔が召喚されてるのか。


 肉切り包丁でがんがん攻めたててくる。耳にいたい金属音。


 互角じゃない、翻弄されてる。

 人肉食ってるならすでに悪魔化進行レベルは末期だろう。サディスがこの場にいたとしても、さすがに、そんなやつの命乞いはしたくないしする気もない。


 今さらながら、憑物士に対する自分の認識が甘かったと知る。


 もと人間なのだから、どこかに人間としての良識が残ってて、それさえあれば人にもどるのはそう難しいことでもないんじゃないかって。

 でも末期は完全な悪魔だ。人間の心は喰われてのこっていない。

 通常の武器では倒せないと、サディスは言っていた。

 それでも、魔力なしのおいらに、この末期悪魔が倒せるのか!?


 逡巡した。汗で手がすべって棍がはじかれた。


 しまった!

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 当作品「Silver tails」は、現在、2chRead対策を実施中です。

 部分的に〈前書き〉と〈本文〉を入れ替えて、無断転載の阻止をしています。

 読者の方々には大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解の程よろしくお願い致します。 

 (C) 2015 百七花亭 All Rights Reserved. 

 掲載URL: http://ncode.syosetu.com/n0709co/


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