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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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24 宿場町での休息と二度目の寝ぼけ

 宿場町にはいり、宿をとって昼前まで睡眠をとった。

 こちらが魔法を使えば居所を知られる、ということは敵もまた同じ。

 まだ動いた気配はない。

 距離は稼いだので、この先は相手の出方をみながら移動するつもりだ。

 転移魔法を使わないかぎりは、一気に距離をつめられることもない。

 サディスはガレット国内ぐらいの範囲なら、魔力持ちを感知できるとのこと。

 彼は自分の魔力の気配を消せるのだという。

 もちろんキャラベ魔法士軍の中にも、魔力の気配を消せる者はいる。

 だが、彼が言うにはそれは完全ではないらしい。わずかな魔力漏れがあるのだと。

 つまり、魔力値の高い人ほど自分の魔力の気配をきれいに遮断し、魔力値の低い人の漏れを嗅ぎつけることができる。そして、その逆は不可能ということらしいのだ。

 いまのところ、幸運にもサディス以上の魔力の持ち主は敵中にはいないようだ。


 大陸中をさがしても、わずか一握りだとは思うけどね。


 だから、彼は強い魔力痕ののこる移動や攻撃の術を使わない。

 使うとすれば、敵とかちあったりしたときなどの緊急の場合のみ、と決めている。





 寝起きでひろい庭にでて、新しい武器の三節棍を試しに練習していたら、鎖がこわれた。


 ちっ、また不良品か。

 大銀貨八枚もしたのに!


 自分的にはこれまでの買物のなかで一番の高額商品だ。

 くやしいが自分じゃ直せそうもない。そう思っていたら、武器商人だという男が通りかかったので見てもらった。

 鎖部分は安物だが棍そのものの物は悪くないからと、大銀貨四枚で買いとってくれた。


 無駄にならなくてよかった!


 それに、三節棍というのはあつかいが非常に難しいものだとも教えてもらった。

 まだ昼食時にははやいため、がらあきの食堂で彼の品物を見せてもらうことにした。

 なかなか材質に高級感があふれているものばかりだ。

 とりあえず、また棍を選んだ。

 使いやすそうと思うのがもっともな理由だが、勝手に尻をなでまわしたやつを、いつかこれでどつきたいと思っているせいかもしれない。


 やはり、やつとはどこかで少なからぬ因縁があるような気がする。

 あまりいい関係とは言いがたいような。


 棍は上質の魔獣の牙だと聞いた。なんとなく手もちに微妙な違和感があったが、ほかに良さそうなのはないし、武器をもたない心許なさといったらありゃしない。

 だからそれに決めた。金貨一枚分の値段だった。

 どのぐらいの価値かというと、生きた若い良質の牛一頭分だ。

 武器商人とそのまま食堂で武器をひろげていろいろ世間話をしていたら、そこにほかの客も加わって、自分が通ってきた町や国の話をしてくれた。

 前の失敗を踏まえて、一応、警戒心は忘れなかったけど、どうやらその場は旅人同士の意見交換会みたいな感じになっていった。

 ルーもガレット国の砂漠からセシル国に襲来した砂嵐が、いまはやんでいることを話した。

 サディスが食堂のすみっこの席で、寝たふりしながらこっちを眺めていたので、安心といえば安心だったのだが。


 やたらまわりに集まった男たちが「赤毛の嬢ちゃん、これやるよ」とか「赤毛の嬢ちゃん、これもっていきな」と、ちいさな子供と勘ちがいされ飴やお菓子を山ほどくれてるときとか、ひそかに背後から眉間にしわをよせ、射殺しそうな視線で殺気をとばすのはやめてほしい。近くの土産物屋の包みにはいってた菓子なので、薬なんか盛られてはないだろうと思うし。


 殺気に気づいた武器商の男が、そのいかつい風貌に似合わずビビりながら、あんたの連れかと聞くので、そうだと言っておいたら。「兄さんかい? それとも姉さんかい? おっかねぇな」と青ざめていた。


 サディス、性別不詳にとられてるよ。


 旅の意見交換会のなかで、またもや「宝石コレクターのルチル」の話がでた。


 ムーバ国の牢でエロボス狼が…………あれ? 思いだすたびにエロボス狼と頭の中で連呼していたから、名を忘れてしまった。まあ、いいや。で、そいつがおいらを、知りあいのルチルと勘ちがいして牢から助けてくれたんだけど。

 このルチル。どうやら宝石だけをねらう怪盗らしい。しかも圧制を強いる領主や貴族の邸にしかあらわれず、ついでに不正もあばくことで庶民に人気があるとか。

 ふうん、ある意味、義賊っぽくなくもないのか。


 絵姿まで出回っていて、旅人のひとりがファンなのだと見せてくれた。

 親指とひとさし指で輪をつくったぐらいのちいさな油絵なのだが、なかなかの職人技で上半身が精彩に描かれている。目もとに仮面をしてはいるが、あざやかな長い金髪に青い瞳で、胸もでっかくきゅっとしたくびれの目の醒めるような美少女ぶりだ。


 全然、まったく、おいらと似てないじゃん。エロボス狼よ。

 いったいどこが似てたんだ? 瞳の色だって海の青じゃないか。

 おいらの碧瑠璃とはちがうぞ。碧瑠璃ってのは緑味がかった青のことなんだ。


 自分の胸を見おろした。ワンピースの上からでも、すばらしくまったいらだ。

 ささやかなんて言葉もあてはまらない。


 ──別にいらないけどさ。

 跳んだり跳ねたり走ったり棍をふりまわすのにもジャマだし。





 宿で食べたお昼ご飯は豪勢だった。

 宿場町の宿泊料金は通常宿より六割と安いが、別払いの食事料金がわりと高い。

 そのぶん、山の幸と川の幸と鮮度のよい食材をつかい、皿数もおおくたっぷり出してくれる。となりのテーブルで食べてた男の二人組が食べのこしていたが、こちらのテーブルではサディスが食べきれなかったぶんも、ぺろりとルーがきれいに完食していた。

 そのせいか、席を立ち食堂をでるときに、まわりから驚愕の視線が向けられていた。

 主にルーの胸と同じく、ぺったんこのお腹に。

「おまえ……あれだけの量を一体どこに入れた?」

 十八歳の男性にしては少食すぎるのではないかという相方に疑問を投げられたが、きっとヒトより消化がはやいだけだろう。そう言ったら。

「いや、おまえの胃は底のない異次元ホールにつながっているにちがいない」


 なんかそれは失礼だ。

 人間に分類されない要素が増えた気がするじゃないか。


 食堂をでた廊下の窓から通りをはさんだ向かいに、土産物屋がみえた。

 店先になかなか着やすそうな男物の衣装をみつけた。

 そろそろ着替えたいところだ。

 サディスにそう言ったら、あえて女装で敵の目をごまかしているのに、着替えてどうすると怒られた。


 あぁ、うん。そうだっけ……女装か。

 一応、おいらは女のはずなんだけどね……。


「でもさ~、旅に女のコ連れだと変なのよってこない?」

「何のための護衛だと思っている」

「え~と、……だからさ、フード被っててもサディスって性別不詳に見られてるし、人によっちゃ女性の二人旅に思われちゃうんだよ。おいらだけでも男っぽくしたほうがいいと思うんだけど」

「……」

 なにかいろいろ葛藤があったかもしれない沈黙のあと、「好きにしろ」と言われたので、そっこーで土産物屋に行った。

 そこには土産物のほかに、旅に必要な装備品や中古の衣装も売っていた。

 その中から黒いズボンとうすい空色のシャツと革のヴェストに決めた。

 ついでに着ていたワンピースと姫衣装の一式は下取りしてもらい、そのぶん値引きしてもらった。白いマントは気にいってるし必要なので売らなかった。





 午後一時。

 宿をでて移動を開始した。それから三時間後に、最初の目的地であるカランクム遺跡についた。千六百年ほど前の、町のごく一部が地下に半分埋もれた形でのこっているという。

 そこで遺跡調査をしている考古学者の団体に、〈幽玄図書館〉への手掛かりとなるアビ・ゼルハム氏の所在を訊ねた。

 残念ながら、そこにはここ数年、ゼルハム氏は訪れてないとのことだった。

 次に近い遺跡をめざすことにして、また立ちトカゲ魔獣を駆けさせた。





 陽がとっぷり暮れてきたころに小さな村に辿りついたので、今夜はそこに宿泊することになった。宿屋がないので民家の主人に銅貨をいくらか渡して、飼い葉を貯蔵する小屋の二階を借りた。


 いまのとこ、一昨日以来、サディスのすさまじい寝ぼけっぷりで抱きつかれたことはないのだが、寝台が別々にないこの状況は非常に危険な気がする。

 ……ていそーヤバイという意味よりも、むしろ記憶がすっ飛んでる彼にしたら、こっちがチカン行為をしてると誤解されかねない。そのための自衛は必要だ。


 枕代わりの布鞄を抱っこして、ほてほてと彼から十分に距離をとる。

 まわりは干草が山積みだが、けっこう床はひろい。彼とは対角線の位置になるよう、干草を背にして腰をおろした。距離は七、八メートルはあるだろうか。

 けっこう遠すぎたせいか、なにかもの言いたげな視線が向けられてきたが、にっこり笑って「おやすみっ」と言うと、鞄に顔をうずめて夢の世界へダイブした。





「ん……?」

 夜中に手首のあたたかさで意識が浮上した。

 ふと、横を見れば、サディスがルーの右手首をしっかりつかんで、同じように隣に腰をおろし、曲げたひざに頭をのせて眠っている。

 ちょうど小屋の真上の換気窓から月のあかりがひとすじさしこんで、無防備に眠る頬を照らしていた。


 ……なんか、寝顔がかわいいんだけど……。

 気のせいか……?


 年上の超美貌の青年をかわいいと表現するのは、なにかまちがっている気がするが、なぜかそう見えてしまうのだ。


 ナゼだろう。やっぱ、眉間のタテジワが消えて険が抜けているから? 

 そういや、タテジワなんて歳相応じゃないよな~。

 きっといつも小難しいことを考えて、頭を使いすぎてるからできちゃうんだ。


 にぎられた手首に視線を落とす。


 また迷子にならないよう手を引いてる夢でも見てるのかな?


 ふと視線をあげて、最初に彼が座っていた位置を確認。


 今回は、わざわざおいらのところに来てる。


 自分がべつの場所へ移動しようかと思ったが、あまり動くといきなり抱きつかれかねない。前回で学習したので、このまま放っておいて、目が醒めたときに自分で移動してきたのを自覚してもらうのがいいかもしれない。


 うん、それがいい。


 第一回目の甚だ腹立たしいチカン勘ちがいは、早々に払拭したいのだ。

 右手首はにぎらせたままにして、ルーも再びまどろみはじめる。

 きらきらとちいさな輝きをはなつ月光下の銀糸の髪と、ふだんの鋭さはなりをひそめた穏やかな氷華の寝顔を見つめながら。






 9月11日、午前四時。


 夜明け前のうす闇の中で目がさめた。隣に彼はいない。

 とっくに起きて小屋の外に出ているのを窓から見つけた。

 そのすらりとしたうしろ姿をながめつつ、ルーは首をひねる。


 彼ははたして、自分の寝ぼけ癖に気づいたのか? 

 それとも気づいてないのか?


 窓辺にいるルーをふり返り、彼は常の無表情で「出立するぞ」と言った。


 どうやらこれは失敗のようだ。

 きっと、おいらの知らないうちに、寝ぼけて元の位置にもどったにちがいない。

 この記憶隠匿完璧主義め。


 鞄を体にななめにかけて小屋の二階から梯子をつかって下りると、彼のもとへと向かった。

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