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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
60/270

20 完璧主義者と無防備なコ

 おかしい。


 午前七時。

 外はあいかわらずの砂嵐。

 うす明るくなった部屋で、ルーは考えこんでいた。


 ナゼ、自分の寝台で寝ていたのか? 

 たしか、サディスの寝台のほうに無理やりひっぱられたはずなのに。

 夢? おいら、夢でも見ていたのか?


 ちなみに、悩みの元凶は目覚めたらいなかった。

 銀光の軌跡が部屋の中央ではじけた。次の瞬間、サディスがそこに現われる。

「どこ行ってたんだよっ、出かけるなら一声かけてくれればいいのに──」

「外のようすを見てきただけだ。やはり、移動球での飛行は無理そうだな。国境をふくむ山河をへだてた近隣の大きな街を、三つほど砂塵が飲みこんでいる。へたに動かないほうがいい」


 わざわざ調査してきたのか。あのすさまじい砂嵐の中を。

 よく飛ばされなかったな。

 それはそうと、アレは夢だったのか聞いておくべきではなかろうか?


「あのさ、夜明け前に」

 彼はマントについたフードを目深に被り、扉の前へと移動した。

「朝食はまだだろう、食堂に行こう」

「うんっ!」


 はっ、ご飯につられてしまった。


「待って」

 かけよって、はしっと彼のマントの端をつかむ。取っ手をつかんで扉をあけていた彼は、そのままの体勢でルーのおおきな瞳を見た。


 いや、そんなガン見されると、ちょっと言いにくいよ……。


 ひるみつつも「あの、おいら、サディスのとこで寝てなかった?」と、ついちいさな声でたずねた。

「──勝手に人の寝台にころがりこむのは感心しない」


 ん?


「以後、気をつけろ」

 彼はそれだけ言って、すたすたと廊下を先に歩いてゆく。


 ──あれぇ!? 

 なんか、おいらだけ寝ボケてやっちゃったことになってるんだけど!?


「まっ、待って待って! なんか誤解してるよ──ッ」




 サディスは寝ぼけがひどいと判明した。

 しかも都合よく記憶がなくなることも判明した。

 ついでにこれが一番厄介なことだが、彼はそれをぜっっっっっったい認めないこともわかった。




「だからさ、何度も何度も言ってるけど! サディスが寝ろって自分の寝台にひっぱったんだってばっ」


「おまえは昔から寝相が悪かった。俺の寝台もよく占領されていたからな。べつにいまさら驚きはしない」

 完璧主義はおのれの過ちを認めたがらない。


「いつの話だよ! いつの!?」


「おまえが家出する前、九歳以前だな」


「記憶ないからわかんないし! そもそもいま現在、寝相が悪いのはサディスの方だから! 離そうとしても離れなかったし!」


 思わず、ばんばんテーブルを叩いてしまった。

「俺が目覚めた時には、おまえがしがみついていたが?」


「うううううそばっか! そんなことするわけないじゃん!」


 四十人分の席がある食堂には、いま二人だけしかいない。

 砂嵐で外出不可能となったせいで、ほかの客はまだ部屋でゆっくり休んでいるのかだれも来ないのだ。だから、ついおおきな声で言い返してしまった。

 そのうち料理を運んできた女将にたのしい痴話げんかととられてしまい、やむなく矛先を収めることとなった。

 とりあえず、今後は寝ぼけた彼に近づかないと決めた。

 「いまさら驚きはしない」とか言われながら、その実、心の中でチカン疑惑……否、チカン判定されたのではたまったものではない。


 たしかに、一度はうっかり間違えて無断侵入したけどさ、気づいてすぐ寝台から出たんだし。おいらは潔白! 無実!


 なので、当然ながら不機嫌一直線だ。


 もう、口なんか利いてやるもんか!


 頬をぱんぱんにふくらませて真正面から睨むルーに、されど、サディスは動じない。

 優雅な所作で黙々と食事をすすめていた。

 この時期は街中でも遭難するらしい。女将の話によれば、外にでてもとなり二件目までがかろうじて見えるぐらいだという。街の人は慣れてるようで、この時期はしっかり各家庭に食料を備蓄してるらしい。早ければ一日、長くても三日ほどよと彼女は笑った。

 朝食を終えて席を立ったが、いま彼と一緒に部屋にもどるのは業腹だ。

 それで女将の手伝いをして宿泊料をすこし負けてもらおうと交渉したら、快諾してくれたので、さっそく厨房の皿洗いにむかった。

 サディスがなにか言いたげに背中を見送っていたが、知らんふりした。


 一人で時間もてあましていれば?


 しばらくすると、宿泊客が食堂におりてきて、洗う皿の量も増えていった。

 そのまま昼食の下準備の野菜を洗ったり、パン生地をまるめたりしてるうちに、食堂にある柱時計が十一時を知らせた。

 軽快なオルゴールの音楽が鳴りひびく。

 ちょっと早いがお昼のサンドイッチをもらった。

 白パンにフルーツソースと果物をはさんだものと、揚げた鴨肉とリーフレタスを挟んだものと林檎ジュース。昨日、ごはんを大盛りにしてもらったせいか、今回も多めにくれた。

 サディスの分もあるらしい。


 いま、ケンカしてるんだけど。手渡しとかしたくないんだけど。

 そりゃあ、旅があるからずっと無視ってわけにもいかないだろうけど、今日一日ぐらいは意地でも仲良くしたくない。


 女将が苦笑して「じゃあ、それは部屋に置いて、あなたは食堂で食べたら?」というので、それならいいかと頷いた。がらんとした食堂で自分の分のサンドイッチを食べてから部屋にもどると、彼はまたいなかった。

 三階まであがる階段の途中でも会わなかったので、転移で外に出かけたのだろうが……この砂嵐の中をいったいどこへなにしに行ったのか。

 テーブルに彼の食事を置いて、窓の景色をみた。

 暴風に巻かれる黄色の砂の勢いはまったく衰えることがない。まるで、この街に居座りつづけているようだ。よく目を凝らせば竜巻みたいな渦もみえる。

 宿を一歩でればまちがいなく、見知らぬ地まで吹き飛ばされそうだ。

 昨夜、干しておいた洗濯物を鞄にかたづけ、床に地図を広げて座りこみ、次の行き先であるガレット国内の遺跡箇所を確認した。

 〈幽玄図書館〉を知るゆいいつの尋ね人アビ・ゼルハム氏は、あちこちの遺跡をぷらぷら流浪しているという。その足跡を追うわけだが。


 ……けっこう面倒な人だな。

 それにしても、ガレット国には遺跡が多い。二桁越えてるじゃないか。

 となると、国境の関所から近い所から捜すべきだろうから……。


 ふと、気配を感じてふりむいた。扉がわずかに開いてる。


 あれ? ちゃんと閉めたはずなのに。


 でも鍵を忘れたことに気づいて立ちあがったら、扉のすきまから覗いてる人と目が合った。妙におどおどして頼りなさそうな印象の青年だ。無論、知らない人だ。


 ここの宿泊客だろうか。部屋をまちがえたとか?


「何か用?」

 そう聞くと男は何度も瞬きしつつ、なにかに怯えつつ「一人?」と聞き返してきた。


 なんだこのヒト。部屋をまちがえたわけではなさそうだ。


「そうだけど?」

「あ、あの、……怖そうな連れの人は……?」


 コワそうな連れ? サディス、何かやったのか。


「いま出かけてる」

「食堂じゃ見なかったけど?」

「外」

 驚かれた。


 まぁ、そうだろう。砂嵐の中を? って感じだし。


「そ、そう……えと、ヒマならゲームでもして遊ばないか? ほら、砂嵐で退屈だろうと思って、ほかの部屋の客にも、声かけてるんだ。……け、警戒しなくても大丈夫だよ? オレらの仲間にも女の子いるから」


 うーん、どうしよ。悪いヒトじゃなさそうだけど。

 やたらビクついてるのが気になるな。


 迷っていると、男の横からもうひとり顔をだした。

「いらっしゃいよ、多いほうが楽しいから」

 童顔だが、やけに色っぽい笑みの女が親しげに誘ってくる。


 たしかに、皆ここで足止めくってて退屈してるんだろうな。


「じゃあ、ちょっとだけ」

 とりあえず、だいじな鞄は部屋にのこして鍵をかけ、その鍵をズボンのポケットにおさめた。案内されたのは二階の奥の部屋だった。

 そういや、昨日の熊男の部屋がその部屋のななめ向かいだったことに気づく。

 部屋にはいる前にあわてて聞いた。

「待って、あのさ、こっちの部屋の宿泊客も呼んだりした? 熊みたいなやつなんだけど」

「いや、彼は断ったよ。寝たいからって」

「そっか、ならいいや」

 さっきの女性が一人、男性は誘いにきた彼を含めて二人いた。

 歳は十代後半から二十代前半だろうか。便利屋をしながら旅をしてるのだという。

 どんな小さな依頼でも受けるのだとか。

 やたらテンションの高い女に、簡単なカードゲームを教えてもらった。

 運がいいのか、何度か勝ちつづけた。飲み物をもらってしばらく遊んでいたが、急に頭がふらついてきて瞼が重くなったので、そろそろ帰るよと言って立ちあがろうとしたら、膝ががくんとなって倒れた。

 急速な眠気の中でぼんやりと霞がかる視界に、扉から熊男がはいってくるのが見えた。

 やつはこちらを見下ろすと、ニタリとでかい口をゆがめて笑った。

 意識が閉ざす寸前に、ただ一度会ったきりの、空色の瞳のちいさな少年のことばが鮮明に脳裏によみがえった。


「キミ、無防備すぎるから」

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