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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
53/270

13 銀彗伝説の矛盾とある推測

 起きると真上にあった太陽がやや傾いていた。

 ルーは自分の頬や額をさわってみたが、とくに熱も残ってないし、気分もいい。

 それでサディスに武器を買いたいので、どこか街に寄って欲しいと頼んだ。

 彼もこころよく承知してくれた。

 街の広場には、垂直にたつ石の影で時間をはかる日時計があった。

 影は午後三時すぎを指している。

 広場を中心に南北にのびる大通りはいろんな店があり、広場の中には屋台も多く人通りもあって、なかなか盛況だ。南へ向かう通りの道沿いに、白いテントが並んでいる。

 市らしい。鍋や食器、古衣装や靴なんかが人ごみのすきまから見えた。

 武器もあるかも知れない。

 とりあえず、サディスとそっちに向かうことにして広場を出かけたそのとき、弦をかき鳴らす音がひびき渡った。

 ぼろをまとい大きなつばの帽子を目深にかぶり、やや猫背のその人は、手に弦楽器のリュートを抱えていた。どうやら吟遊詩人のようだ。

 ぱらぱらと足を止めている人たちがいる。

 彼は歌い出した。



 それははるか昔のこと。

 世界は〈魔法戦争〉により滅びかけた。


 六聖人と多くの犠牲で、〈魔法禁止令〉がつくられて、

 魔法はこの世から消え去った。

 そして千年、時はうららに流れゆく。


 少女が外道の書をしたためた。

 彼女の名はララ・ギネ。

 書は「やさしい悪魔の召喚法」という。

 暗き地の果てにありし、〈地涯〉の住人たる悪魔を呼ぶ書。

 地上にて魔力消えゆく理〈ダウンフォール〉ありて。

 肉体なき神よ、精霊よ、悪魔どもよ。

 この世界に踏みいれることは叶わず。

 【存在の喪失】を意味するがゆえに。

 人よ。幸いあれ。その魔力を守りし器に。


 ララ・ギネ。人の子にして人にあらず。

 麗しき朱金の髪と真紅の瞳。

 太陽の色彩をもつ美貌の主よ。

 魂は闇より深く、邪悪にして狡猾なり。

 地涯を訪れる稀有なる力をもつ。


「よろずの悪魔どもよ、出ておいで

 この書に記した契約において

 我が器をよりしろに」


「よろずの悪魔どもよ、出ておいで

 我は破壊の力を欲する」


 悪魔化した少女は七十七日をかけて、

 クレセントスピア大陸を焦土となした。


 悲嘆と絶望に暮れる人々よ。無心に祈り続けるならば。

 蒼穹の彼方にありし天涯より、孤高の精霊、現われん。

 嗚呼、銀髪の麗しき乙女よ。銀彗の精霊よ。

 銀の刃を片手に颯爽と、よろずの悪魔どもを打ち捨てる。

 それは長き戦いのはじまり。

 その快進撃は大陸を風のごとく駆け、

 人々の希望となった。


 ララ・ギネよ。

 かつては太陽のごとく美しく、いまや忌まわしき醜悪なる娘よ。

 天をつく巨大なる悪魔よ。光の奔流で焼かれたあわれな娘よ。

 おかえり地涯の淵へ。契約の書は燃えて灰となり、

 銀彗の精霊は天涯へと還る。


 平和の日々はつかのま。

 いずこから湧きだしたるか、悪魔に憑かれし者ども。

 失われしララ・ギネの書よ。悪魔をまねく召喚陣が、

 いずこより鉄塊に写されたのか。悪魔どもが大量に生まれくる。

 破壊信仰の偶像なりし、ララ・ギネよ。

 彼女を奉る背徳の者は多く。

 そは黒きメダル、ブラックサインと称し広まった。

 それを身に埋めし悪魔憑きを、〈憑物士〉と呼んだ。


 千年久しく生まれぬ魔力の使い手が、

 ぽつりぽつりと目覚めはじめた。

 千年久しく現われぬ天涯の精霊たちが、

 ぽつりぽつりと召喚されはじめた。

 それを成した彼らは〈魔法士〉となった。

 銀彗の代わりであるかのように。


 かくて〈魔法士〉と〈憑物士〉の、

 はてしない戦いは、今も終わることなき物語。



 歌が終わると、吟遊詩人の足下にある籠めがけてコインが投げられていた。

 広場の隅から大通りに出ようとした所で、吟遊詩人からはかなり離れていたのだが、とてもよく通る声だったようだ。

 その歌はどうやら、サディスのあだ名ともなった〈精霊・銀彗〉の英雄譚だったらしい。

 大陸の救世主だというのは曾祖父から聞いて知っていたが、その詳細を聞くのは始めてだ。


 なにか違和感があった。

 違和感というか……矛盾?


 いつのまにか足を止めていたルーに、少し先を歩いていたサディスが「行くぞ」と声をかけた。吟遊詩人がもう一曲、歌いだす。今度は陽気な流行り歌のようだ。

 近くで遊んでいた子供たちが、リズムに乗って手をつないでダンスをはじめた。


「……あ、そっか。ダウン……フォール……!」


 ほんの二日前のことである。

 曾祖父の弟子のひとりであるアスターが、悪魔絡みの事件に自分たちを巻きこんだ。

 そのときに、悪魔がこの地上に来ると魔力を失う現象があると、サディスが言っていた。

 それが魔力無効化現象〈ダウンフォール〉だと。

 さっきの歌の内容から察するに、神や精霊にも同じくそれはかかるらしい。


 えっと、だから矛盾ってのは……


「なんで、銀彗の精霊は、魔力を失わずに戦えたんだろ……?」


 そうだよ、これ。


 ふと前が翳ったので見上げたら、サディスが戻ってきていた。

 そして、その疑問に答えた。

「伝説というのは長い時をかけて、多くの人の口を渡るものだからな。解釈の違いや虚飾で真実から離れ、矛盾を内包するものだ」

「……じゃあ、銀彗は精霊じゃなかったってこと?」

「推測するならば、歴史に名を残さなかった召喚者が招いた高位精霊か、あるいは生粋ではない二世……といったところか」


 ララとかいう怖い女のコが現われたのは、魔法士がいなかった時代のはずだろう。


 ルーは首をかしげた。

「つまり、魔法士がいない時代に魔法士並の能力をもった人がいたか、いくらか精霊の血を引いた人間が活躍したかもしれない……てこと?」

「推測だがな」


 でも、サディスが言うと本当っぽく聞こえるよね。

 どっちかが、だけど。


 ダンスをする人々の輪が増えてきた。

 楽しそうに踊る人々を見ながら、彼女は訊いてみた。

「前者なら魔法士の元祖になるんじゃないかな?」

「そうだな。だが、すでに魔法士の元祖を名乗る家系はいる。その出現はララ・ギネが滅んで十年以上経ってからだ」

「もしかして、ひいじーちゃんのご先祖だったり?」

「いや、彼ではない。アスターの元師匠だ」

「へー……」


 アスターの元師匠か。


 知らない人だしあまり興味ある話ではないので、ルーの思考はもう一方のネタに切り替えられた。


 人間と精霊のハーフ……とかってどんなヒトだろ。

 サディスが言うからには存在はしてるってことだよね。

 精霊の血を受け継いでるわけだから、きっと、そうとう魔力が強いんだろうな。


「なあ、精霊ってどんな姿してるんだ?」

 魔力なしの身では見ることは叶わない。

「最下位のα霊〈アルファ・スピリット〉は光の粒子、高位は透き通る美しい人型」

「すきとおる……?」

「神・精霊・精霊獣・悪魔・魔獣。異界にいる彼らは、もとより一種のエネルギー体だ。

 ダウンフォールを受けると、魔力を封じられるとともに物質化して肉体を得る」


 ──これが人間に害意をふりまく悪魔だけの話なら別に同情もしないけど、精霊とかには気の毒な話だ。生まれ持った力を失うなんて。

 もしや、元の世界にも戻れなくなるんじゃないのか? 

 ……だから二世が生まれちゃうのか?


 ふいに周囲で拍手がわき起こった。

 銀彗伝説を歌ったときよりもウケがよかったらしく、吟遊詩人の足もとの籠にコインが多く投げられていた。それを見つめながら、何気なく思いついたことを口にした。


「サディスって、精霊二世だったりして?」


「何故そう思う」


 ひやっとした冷たい声だったので、思わずとなりにいる彼を見あげた。

 フードを目深に下ろしているが、背の低いルーからはその顔がよく見える。

「……え、なんか怒ってる?」

「怒ってない」


 たしかに怒っている顔ではない。むしろ表情がない。

 冷ややかなまでに無表情。だが。

 なぜか雰囲気がコワイ。なんていうか空気がぴりぴりしてる。


「えっと……魔力最強だし、超美人だし。考え方から何からいろいろ人間離れしてるから……なんだけど……?」

 それを聞いて彼はちいさく嘆息した。

「残念ながらそれはない」

「そうなんだ?」


 そうだと言われたら、やっぱり~と納得したものだが、ちがうのか。

 …………ほんとにちがうのか?


 思わずじっと見つめると、彼もこちらに目線を合わせてきた。もし、彼が嘘をついたとき、自分に見破ることができるだろうかと、そんなことを思った。

 彼がおだやかな口調で、その思考を断ち切った。

「武器を買うのだろう?」

 言われて思い出した。

「はっ、そうだった!」

 この街に寄った最大の理由をうっかりすっかり忘れていた。


 いつまでも武器なしでは心もとない! さくさく買いに行かないと! 

 あ、でもその前に、詩人さんにコイン投げて来なくちゃ。


 なぜか広場の中心に駆け出そうとするルーの襟首を、彼はすかさず捕まえた。

 そして、仔猫のようにつまんだ状態で、市場の立つ大通りへと向かうのだった。

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 当作品「Silver tails」は、現在、2chRead対策を実施中です。

 部分的に〈前書き〉と〈本文〉を入れ替えて、無断転載の阻止をしています。

 読者の方々には大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解の程よろしくお願い致します。 

 (C) 2015 百七花亭 All Rights Reserved. 

 掲載URL: http://ncode.syosetu.com/n0709co/


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