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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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◆幕間① 盗賊と女占術師の事情

 街外れのなだらかな緑の丘陵に、時に置き去りにされた名もなき廃墟が佇む。

 風化の中で頑丈な土台部分だけを残した、かつての城。

 その瓦礫の上に座るふたつの人影が、夜明けの空を真横に過ぎ去ってゆく銀のほうき星の尾をながめていた。


「だから言ったでしょう、あなたが欲しがってるアレのことは覚えてないって」


 頭から爪先まですっぽりと黒いベールに覆われたほうが、となりで鬱陶しげなこげ茶色のぼさぼさ髪をひとつに縛っている男にそう言った。

「まあ、いいさ。それなりに収穫はあったしな」

 男は別段、気落ちしてるようすはない。

「収穫?」

 声からして若い女だろう。目もとはこまかな網目になっているが、それも黒いので女の容貌は一部すらわからない。

「六戦で六敗した〈怪盗ルチル〉に嫌がらせできた」

「……サイテーね」

 女は呆れたようにつぶやいた。

「おまえの占い、本当に当たるな。傾城の」

「今さら何言ってんの? 知ってて訊ねたんでしょうに」

 女はコホンと小さく咳払いし、となりにいる男に体を向けると、黒いベールの下からしなやかな白い手の平を差しだしてきた。

「ところで、お代を頂けますかしら? あのコが現われる日時場所を正確に教えたんですからね」


 それなのに──目の前の男はずいぶん前から牢に居座って、ただ酒をかっくらってたようではあるが。


 男は一瞬、何を言われたかわからなかったようで、常なら獣じみた金褐色の目をまるくし、ぽかんと口を開けたまま彼女を見た。ややして。

「は? 交換条件はクリアしたはずだろうが。牢であいつを助けてやることで」

「あら、助けだすところまでが条件だったはずよ?」

「だから、助けだす途中で邪魔が」

「まあ。美味しいとこは持ってかれちゃったからねぇ、八つ当たりで代金踏み倒すなんてダッサイ男のすることだけど、あなたはもちろん違うわよね?」

「……」

 男はばりばりと頭を乱暴にかくと、その手をもう一方の袖の返しにつっこみ、中に隠していたものを取りだして投げてよこした。

 キラリ。

 陽光に反射したそれは、親指と人差し指で輪をつくったほどのおおきさもある大粒のトパーズだ。女はうまくそれを宙でつかみ、陽にかざして角度を変えながら、そのしっとりと落ち着いた淡黄色の石をじっくりとながめた。

 そして、実にうれしそうな声で笑った。

「ふふっ、毎度ありー」

 どうやら、女には宝石の価値がわかるようだ。さっさとベールの下の懐にしまいこんでいる。以前、あまりに怪しいので無理やりベールをひっぺがしたときの、目もくらむような黄金夕陽を彷彿させる色彩の美貌と、メリハリのある体つきを思いだし、男は少々がっかりした。

 中身はド守銭奴という、このギャップに。

「おまえ……そのがめつささえなけりゃイイ女なのに……」

「あなたこそ、風呂ぐらい入ってヒゲを剃るなり整えるなりしなさいな。その格好じゃ、むさいオヤジと勘違いされるわよ?」

 男はオヤジという言葉にひっかかりを覚え、小首をかしげた。

「……そうか?」

「そうよ。もう行くわね」

 女は腰かけていた瓦礫から音もなくするりと滑りおりると、地面に置いてあった背負い袋を手にした。

「おい、今度はどの辺に行くんだ?」

 女はふり返らずに手をあげて答えた。

「また、運命が交わることがあれば出会うでしょう」


 そのときはまた利用させてもらうけどね。


 そんな言葉はこっそり胸にしまって、女は野道を歩きはじめた。

 ひとり残された男は、のばし放題にしていた顎ヒゲをしばらくなでていたが、ふと疑問がわいた。


「もしかして、ルチル……ルーにもオヤジだと思われてたってぇことか?」


 逃げないようにしつこく抱きしめてたら、涙目で嫌がられてたことを思いだした。

 なりが汚いからだと思っていたが……。それが真実ならちょっぴりショックだ。


 まだ二十三だってえのによ。まぁ、別にどう思われようと気になんぞしていない。

 気にしてたまるか。相手はガキだ。尻をなでたのは本人か確かめるためだ。

 あの発展途上のうすい肉付きの触り心地からしてまちがいはねぇがな。

 これまでに奪われた獲物を全部横取りするために、さんざん探してようやく見つけたってえのに……あの女占術師の言うとおり、オレのことだけに限らず、命懸けで集めていたモノの存在すらキレイさっぱり忘れていやがった。

 当然ながら、そのモノ自体も持ってねーし。

 ……いつも愛用の棍の中に隠していた、その棍すら知らねえと抜かしやがる。


「運命が交わることがあれば、か」


 それはあの女を訪ねるのと、あのガキの所在を知るのは同義となるだろう。

 今回のように。


「未来を読む傾城の占術師───」


 何のつもりかはしれねえが、結局、ガキの助け手をあの女は欲していたようだ。

 たまたま使えそうなのがオレだったというだけで、誰でも良かったのだろう。

 ……別にそれがわりぃってことじゃねぇがな。

 あれに死んでもらっちゃ困るのはお互いさまだ。今は諦めるしかねえか。

 なんか厄介そうな魔法士の男が護衛よろしくくっついてやがるし。

 記憶もねーんじゃな…………無論、あきらめたわけじゃねーけど。

 何にせよ、いまは無理ということだ。


 オレは盗賊ドルク。宝石および、精霊とその二世から摂れる魔力の結晶体である〈精霊石〉を専門に狩る者。

 再び時至るまで、ほかの獲物でも追って待つとしよう。

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