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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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6 運悪くムーバ国の澱みに巻き込まれ中

 魔獣車から降りたときに、頭突きと蹴りでふいをついて逃げようとしたけど、失敗した。


 カラス頭って羽毛なんだよ、人間ぽい体にも羽毛がみっちり生えてんだよ。

 だからダメージがない!


 するとヤツは無言でトントンと、自分の首を黒い羽毛の生えた人間ぽい手でたたいて見せた。もう一回、気絶してみるか? と言ってるらしい。

「く~ッ。いつか絶対ヤキトリにしてやるからな! 食べないけど!」

「クヘックヘックヘッ」

 腕を胴にまきつけるように縄でしばられた状態で、バカ笑いするカラス男に背中を蹴られつつ、古ぼけた石組みだけの殺風景な建物にはいり、その地下への階段をおりていった。

 空気がこもっててジメジメする。通路の所々に松明があるので歩くのには困らないが、そうは言っても陰鬱だ。小悪党所長の手先に連れてかれる場所が、こんな陰気な場所というなら、もう行きつく先はあそこしか思いつかない。


 ああ~、なんか、おいらってホント間が悪いよな。

 なんで、サディスがいないときに限ってこんな目に遭うんだろ。……って、結局、彼はどこへ何しに行ったんだ? ……そんなことすら聞くのを忘れるなんて……はぁ。役所に戻って、おいらがいないのを知ったらきっと探してくれるだろうけど……………めちゃくちゃ怒られそう。

 あの会議室で待ってろって言われたのに、ひょいひょい抜け出したんだもんな。


 ふと、ななめ前をやはり縄で縛られて歩いてる少年と目が合った。

 向こうがちらちらと、こちらをふり返っていたからだ。十四、五歳ぐらいだろうか。

「顔色が悪いけど、大丈夫か?」


 あ、おいらを心配してくれてたんだ? 

 サディスに怒られるの考えてちょっと憂鬱になってたから。


「うん、だい」

 大丈夫と言おうとしたら、たたみかけるように「可哀相に、こんなちいさな子まで! きっとぼくらの仲間だと間違われたせいだ。ごめんよ」と謝られた。


 え、いや、どっちかって言うと、サディスの言いつけ無視したり、所長をぶちのめしたりして、自業自得の結果なんだけど。……それに。


「あの、逆だから」

「ん?」

「おいらが所長室で〈手形読みとり魔道具〉を見つけちゃってさ。所長が机の中に隠すから、それでもめて……花瓶であいつの顔殴ったんだ。そしたら、その……隊商がおいらの仲間だと勘違いしてこんなことに」

 前の方で噴きだす声がした。

 そっちに顔を向けると、もやし役人をゆすっていた男がおかしそうに腹を抱えて笑ってる。

「ああ、なるほど、なるほど、そうゆうことですか! あの豚所長! どうりで足止めするわけです」

「長?」

 訝しげに少年が彼を呼んだ。


 やっぱり長だったんだ。


 隊商の長は笑いをおさめて訊ねてきた。

「ムーバ国の片隅に、広大な肥沃の地があるのを知っていますか?」

 話の意図がつかめなくて、ルーは首を横にふりつつ「この国ははじめてきたから」と、答えた。

「そうですか。さきほど言った場所は、獰猛な魔獣の巣窟である湿地帯にかこまれていて、地盤がよわく堅固な石造りの住居がつくれないところなのです。

 かといって国としては遊ばせておくのももったいない。そこで、危険を承知で小高い丘に小屋をつくり、柵をめぐらせそこに犯罪者たちを送りこんで畑をつくり、強制労働させることにしたんですよ。年に二度ある雨季には湿地帯がひろがり、柵をこわして侵入する魔獣も増えますからね。命懸けですよ。

 魔獣除けに設置した道具も豪雨で流されたりしますから。軽罪人だと刑期が過ぎて運よく生きていれば釈放されます。だけど、出来れば、終身苦役させることのできる重罪人が欲しい。なにせ、そこからでた利益は、一旦、犯罪者を送りこんだ役所の所長のもとへ、諸経費を落すためにはいることが決まっていますから。

 そこから国への納付をちょろまかすことなど、けっこう簡単なんですよ。

 送った犯罪者を死亡したことにして、その分を搾取すればいいだけの話ですので」

「よく知ってるね……」

「そんな裏事情……」

 小悪党が、実は悪党レベルに昇格するほどの悪事をしていたと知り唖然とするルーと、一隊商の長が、一国の闇を淀みなくすらすら言えるほどに知ってることに呆然とする少年。

「なに、昔、軽罪でそこに送りこまれたことがあるというだけの話ですよ」

「長、よくご無事で」

「ささいなことで刑期を何度か延ばされたんで、不審をいだき脱走しました。

 郷里に帰ったら私の墓があって。婚約者が喪服で暮らしていて。

 世間では私は死んだことになっていましたけどね。まあ、おどろきました」

「「……」」

「この街とはちがう役所でしたが……この国じゃ、どこでもやってるってことでしょう。

 きっと苦役の地を監視する役人も一枚噛んでるはず。でなければ、国の監査に引っ掛からないわけがないですからね。つまり、あの豚所長は最初からてきとうに難癖をつけて、我々を苦役の地送りにするつもりだったということです」

 ルーは、おずおずと言った。

「でも、やっぱりおいらが捕まるきっかけになっちゃったし……長さんも皆もごめんな」

「いや、別にそれは……元はといえば、所長の悪事に気づいたから起こった不運な出来事ってことだし!」

 少年が気遣うように言えば、長も頷いた。

「気にしないでください。あなた、もう一矢報いたでしょう。それで十分ですよ。

 あなたも私たちも運悪くこの国の澱みに巻きこまれただけ。だいじょうぶ、苦役の地まではかなり距離があるはずですから、その間の移動で抜けだす手立てを考えますよ」

 後半はカラスに聞こえないよう小声でささやいた。

 他の隊商の人たちもさきほどから話を聞いていたのだろう。

 こちらをふり返って、長と同じようにやさしい表情で頷いていた。


 迷惑かけてるのに。彼らに何をしてあげられる? おいらは非力なのに。

 非力だけど。他力本願だけど。


「──あのさ、おいらの連れが、きっとおいらを探してくれてると思うんだ。

 すごく強い魔法士だから、きっと、助けに来るから、そしたら」


「ハイハイ、ソコ、イツマデ、ボソボソ喋ッテルデスカ~! サッサト歩ケヨ、ボゲェ」


 二又の道があって、そこで一度立ち止まったカラス男は、また分裂してもうひとり増えた。右の道に商人たちを、左の道にルーを、カラス男が強い力でぐいぐいとそれぞれ押しこんだ。


「えっ、なんで、おいらだけ別?」


 もう一方の道に連れこまれた人たちは、すでに見えない。

 こちらへ来たカラス男は、グフゲフッといやな含み笑いをした。


「所長ノ~、言イツケデェ~ス! ……イイカネ、愛シノカータ君、アノガキヲ左ノ牢ヘホウリコムノダ! 地獄ヲミセテヤレ! ソノ様子ヲ、シッカリ見届ケテ報告スルノダ! 

 ……ワッカリマシタ~ッ、ダ~リ~ン」


 ヤツは右へ左へ移動しつつ一人二役演じながら、所長との会話を再現してみせた。

 所長のときは、胸というか腹をつきだしてふんぞり返り傲慢さをだしている。

 なんか一人漫才みてる気分だ。

 ルーのあきれた視線をものともせず、カラス男、もといカータ君は彼女の縄をひっつかんで通路の奥へとつき進んでいった。

 その先の松明は消えかかってるものが多く、通路はさらに暗い。

 闇の向こうからうごめくような気配だけが伝わってきて、なんとも不気味だった。

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