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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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5 小悪党所長とカラス男と思いっきり冤罪

 窓から下をのぞくと、幌のついた魔獣車が広場に入ってくるところだった。

 魔獣車とはその名のとおり、魔獣の引く四輪のついた車だ。

 この世界には野良魔獣がたくさんいて、その中でもおとなしく、比較的調教しやすいものが選ばれる。役人が単独で乗ってたものもしかり。

 これから、あの隊商の魔獣車の荷物検査をはじめるらしい。

 仲間に指示を出してるミントがいる。


 あ、そっか。おいらもあそこに行って荷物検査を一緒にしてもらえばいいんだ。

 ……てゆーかさ……国宝の剣を探してんだよね? 

 折り畳めでもしない限り、おいらの肩掛け鞄にはいるわけないと思うんだけど。

 ミントさんはまともそうだから、やっぱりこれって所長の指示なのか。

 ……まあいいや、下に行こう。すこしでも早く済ませたいもんな。


 またもや、とっても理不尽な気持ちに苛まれながら、ほてほてと薄暗い廊下にでて階段をおりていった。

 玄関ホールまででると、右が広場にむかう出入口で左にはふたつの扉がある。右は玄関をへだて大勢の人の気配がざわざわしていたが、左側からも人の気配を感じる。

 そちらに目を向けると、扉のひとつがすこしだけ開いていた。


 あれ? 皆、外に行ったんじゃなかったのか。


 なんとなくその隙間を見てると、やたら幅の広い背中が中でごそごそ動いている。

 さっき見かけた役人たちは、中肉中背かひょろりんな体格の人しかいなかった。


 え、ドロボーとか?


 すぐに違うとわかった。

 ふりむいた姿はまさに玄関ホールで来訪者をげんなりさせる、前所長の銅像及び肖像画に瓜二つだったからだ。……ただ、頬や腹のたるみ部分がぱんぱんに張っているので、本人でなく、まだ若いという現所長の方だろう。


 血筋のミラクル恐ろしいな。


「誰だ!? そこで何をしている!」


 こっちがびっくりするような、野太い誰何の声をあげた。

 そして、気づいた。彼は手に何やらつやつやしたキレイな板をもっている。

 ガラス板にしては分厚すぎるし、なにか文字のようなものが浮かんでは消えている。


 なにその不思議板……めちゃくちゃ魔法っぽいよね。 


 ルーはつい扉を開けて、疑問をぶつけていた。

「それって〈手形読みとり魔道具〉だろ? ミントさんたちが探してた」

 所長の顔がひきつった。

 即座にでっぷりした腹の外側に手をまわし、不思議板をうしろへ隠す。


 思いっきり犯人自分ですって、言ってるようなものなんだけど。


「なんで隠してるんだ? はやく広場にもっていけよ」

「な、なんだ、オマエは……はっ」

 ルーの黒髪に目をとめ、「そうか、あの隊商の仲間か」とつぶやくと、急ににこやかに笑顔をとりつくろって両手を広げてみせた。

 うしろ手で机の引き出しにほうりこみ尻で押して閉めたらしい。

「いったい何のことかな? ここは所長室だ、出ていきたまえ」

「机の中にしまった魔道具、出せよ」

 むかっと来たので、ずかずかと室内にはいりこみ、ルーの五倍は胴囲のある男に片手をだして催促した。

「強盗の罪状が欲しいのかね? ん?」

 覗きこむようにばかでかい顔でせせら笑う。しかし、ふと何を思ったか、左手でうしろの机の上をまさぐり手にしたものを顔につけた。

 眼鏡だ。金ぶちに金鎖と、いろんな色のちいさな宝石がこれでもかとじゃらじゃらついてる。顔に当たってうっとうしくないのか。

 ミントほどではないが、眠そうな細い目がレンズの向こうで、くわっと見開いた。

 しかもみるみる頬を紅潮させてゆく。

 なにか不穏に気持ち悪かったので、ルーは一歩あとずさった。

「そう、オマエはあれだね? ベレネッタの国宝泥棒かも知れない嫌疑をかけられているんだろう? うちの職員に連行されてきた」

 なぜか鼻息を荒くしながら、にじり寄りつつ確認してくる。


「見てのとおり剣なんてもってないし、連行されたんじゃなくてお願いされてきたんだよ。さっさと魔道具出せよ、皆足止めされて困ってるんだぞ!」


 ブチ切れかけて、つい机の引き出しに手を伸ばそうとしたものの、手首を掴まれそうになったので、さっと引いた。

 殺気でも怒気でもない、なんともいやな感じの空気を感じて、おおきく三歩後退した。

「悪い子だねェ、勝手に机を開けようとするなんて~」


 なんか、急に口調がべたついてきてるんだけど。


「見てのとおり? わからないなァ。なにせ国宝の剣は縮小の魔法でちいさく変化させてるらしいからねェ」


 なにそれ、初耳だよ! 

 そんな重要なことは先に教えといてよ、ミントさん!


「あぁ、職員たちは忙しそうだからねェ、ワタシが直々に隅々まで検査してあげよう。

 さあ一枚ずつ脱いで。それとも脱がせて欲しいのかね?」

 肉付のよすぎる手をわきわきさせながら、じりじりと迫ってくる巨体。


 なんで鞄の検査が、身体検査にすり変わってるんだ!?


「逃げようなんて思うなよ~」

 ポケットからミントが投げていたのと同じ、丸い物体をだしてチラつかせた。

 弱い魔力でも発動する捕縛用の投網だ。


 それって、たしか危険人物とか魔法使いに使うものだろ。


「それとも縛られたいかね?」

 ルーは首をふるふると横にふった。

 魔法なんか使われたら、魔力なしの自分の逃げ道は完全に断たれてしまう。

 それにしても何故こんな状況になってるのか。


 ──はっ、もしや、おいらが女だって気づかれちゃって迫られてるとか!? 

 だとしたら、こいつロリコン!?


 実年齢十四歳。見てくれチビガリなので、十歳ちょっと出たぐらいにしか見られないルーは戦慄した。


 いや、待て。それならそれで回避策はあるじゃないか。


「あの~……おいら、男だよ?」

 冷や汗ものでそう宣言してみた。

 だが変態は止まらない。それどころかしまりのない顔で不気味に笑う。

「当然じゃないか」

「……」


 あっちのシュミの人か。


 がばあっと、抱きついてくる肉だるまを交わし、その背後にすばやく回ると、机に置かれたものすっごい高価そうなひと抱えもある極彩色に富む悪趣味全開の陶器のツボを両手でひっつかんだ。

 ふり返ったでかい顔面にしたたかに叩きつける。

 ピシッ。瞬く間に亀裂がはいり、ばらばらと砕け散る。

 目の焦点があってない所長が、ドウとひっくり返った。

 やれやれと、机の引き出しをあけガラス板のような魔道具をとりだした。


 今のうちに、これをミントさんに渡して──。


 首筋に衝撃がきた。思わず魔道具をとり落とす。

 ガチャンと割れる音。

 視界に黒い羽根が一枚ひらりとよぎったのを最後に、ルーの意識が暗転した。





 気づくと、まわりがやけに騒がしい。


「ちょっと待ってください! その子が何したっていうんですか!」


「ワタシを襲撃し部屋を物色していたのだよ」


「そんな馬鹿な……! 礼儀正しい子でしたよ! こちらの無理強いにもこころよく応じてくれて! それにどこの世界にあんたみたいなデカブツを襲撃する人がいるって……

 いえ、何でもアリマセンよ空耳デスハイ」


 この本音をうっかりぼやくのは、ミントさんか。


「ワタシの優秀な使い魔が捕まえてくれたのだよ」

 ぼやけた視界に全身まっくろい人が映る。


 口がとがってて黄色い……そうか頭がカラスで体が人間ぽいんだ。


 こちらを覗きこんでる。

 クヘックヘッと変な笑い声をもらした。


 ……ムカつくな。


「ふぅ、ったく危うく職場で殉職するところだったよ」


 部下の仕事妨害してるやつがなにを言う。


「殉職の意味まちがえてやしませんかね」

「む、何か言ったかね?」

「空耳デス。それより〈手形読みとり魔道具〉が紛失したのですが、どこか心当たりは」

「なにィ!? 失くしただと!? けしからん! オマエたちの給料から差っぴいておくからなッ」

「ええ? いきなりですか! 調査もなしですか!」

「それから、そっちにいる不審者一団も、護送しろ」

「まっ、まだ荷物検査の途中ですよ! だいたい、通行手形による身元確認もしてないのに! 無茶苦茶ですよ! となり町に魔道具をとりに行かせてますから、もうすこし待ってください!」

「だめだ、そいつらはワタシを襲った餓鬼の仲間だからな! 愛しのカータ君、そいつらも連れて行きたまえ」

 カラス頭の全身まっくろなやつは、ゲヘヘとまたもや変な笑いをもらしたかと思うと「ガッテーン、所長~」と、甲高い声で叫んだ。


 なんと、カラス男に名前があったのか。そして状況からするにアレが所長の使い魔か。

 てことは、最初に上空であったカラスと同一か。


 これは幻覚だろうか。ルーは目をぱちぱちと瞬いた。

 カラス男が横にずらずらと分裂してゆく。

 そして、ものすごい勢いで隊商の男たちにとびかかっていった。

 阿鼻叫喚。逃げようとする商人たちの中に不幸にも魔法使いはいないらしく、所長が魔法投網の玉を次々投げて動きをとめてゆくと、分裂したカラス男が彼らに縄をかけて、ルーのいる魔獣車の荷台に乱暴に投げこんでゆく。

 そして、魔獣車はガタゴト走りはじめたのだ。御者台にはやはりカラス男がいる。


「待ってくださいって、所長! その子の連れ、すんごく怖そうな方でしたよ!? 

 眼力だけで凍りつきましたよ!? かなりヤバそうな感じがしましたよ!? 

 むしろ敵に回さない方がいいと、僕の本能が叫んでいるんですが!」


「この小心者め、悪党なんぞにビビリおって。そんなで天下の役人が務まるか! 

 フン、そいつが来たらカータ君の真の恐ろしさを見せてやろう。くくくく」


「いやいや、絶対ムリですって! そのアホガラスじゃ」


 うっかり本音で抗議の声をあげていたミントさんが、遠ざかる広場でカラス男に飛び蹴りを食らわされて、ふっ飛ばされているのが見えた。

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