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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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4 消えた手形読みとり魔道具

 着いたのは、静かな闇につつまれた広場。

 不夜城のあかりが街並みの向こうにみえた。

 目の前には、唯一、玄関にあかりの灯るおおきな建物がそびえている。

 ここが役所らしい。どっしりとしていて、ずいぶん年季のはいった立派な建物だ。

 華美さはないが石造りのこまかい部分に凝った彫刻のもようがある。

 古い時代は貴族の小館だったと説明する糸目の青年に導かれ、その玄関をくぐった。

 役所にしては不似合いな、真っ赤な絨毯がしきつめられていた。

 ひろい玄関ホールの真正面に、ものすごくばかでかい肖像画が飾ってある。

 見上げないと全体が見れないほどの大きさだ。

 顔の肉がたるみ太りすぎた男が上等そうな衣装に身をつつんで、ななめ目線でアゴをあげ居丈高に出迎えている。これは見るんじゃなかった。

 そう思い目線を下げると、またそれを立体的にした原寸らしき銅像が、玄関ホールのどまん中に、どーんと置かれていた。


 なんで、こんな回れ右して帰りたくなるようなモノを、あえて入口に置くのかな。


 糸目青年……もとい、事務員のミントが苦笑して、これが前所長で現所長の伯父だと教えてくれた。

「お二人は血縁のせいか、姿形から中身まで非常によく似ておられるんですよー。

 ……ホント迷惑な話」

 最後に、ぼそっとつけ足した。

 ホールを過ぎて奥の階段へはいると、上の方からざわめきが聞こえた。

 どうやら二階に複数の人がいるらしい。

 先導するミントについて行こうとして、ふと、後にいるサディスをふり返った。

「サディスは白だって思われてるんだから、わざわざついて来なくてよかったのに」

「預かりものが心配する必要はない」

「過保護だよ、ホラ、ミントさんだってイイ人っぽいし」

「楽観しすぎだ。自分の立場を忘れるな」

 クギを刺された。


 わかってるよ、追われる身だってことは。

 けどさ、通行手形だってあるんだから、そんなヤバイことになるわけないじゃん。


 不機嫌を煽ってもいけないので、心の声はしまっておいた。

 二階の廊下にでると、古いせいか黄色く曇ったおおきなガラスケースと出くわす。

 中には武器が入っていた。斧が七本と、ものすごくでかくて刃の長い剣が一本。


 定期的に磨かれてるのか、刃こぼれもないようだが……ずいぶん使い込まれている感がある。戦闘用にしては、なんとなくだが使いにくそうだ。

 刃が重そうにみえるせいだろうか。かといって、儀式などに使うような装飾的なものではない。何故、こんなところに飾っているのだろう。


 ルーは好奇心で、曇りガラスの向こうにあるそれらを立ち止まって見つめた。


「斬首剣だな」


 サディスが言った。

「え?」


 ザンシュって……処刑用の?


「ええ、昔の処刑道具を展示しているんです。そちらの斧も。さすがに、今はそんな非人道的なことはこの国ではしませんけどね。重罪でもせいぜい終身苦役です。

 ムーバの片隅に広大な畑があるのでそこに送られて、陽がある間はずっと働かされます」

 ミントの説明に、ルーが眉をひそめた。

「……あんまり見たいものじゃないよなぁ」

 やたら、斧の柄がどす黒く変色してると思ったが。染みついた血のようだ。

「所長のシュミなんです。あの人、昔の権威の象徴をかき集めるのが好きなんですよ。

 まだ自分は若いから……といっても二十代後半なんですけどね。箔をつけるためだとか、よくわからないコトを仰ってましたが」

 彼は乾いた笑みをはりつかせていたが、はたっと思い出したかのようにルーに言った。

「いま所長は外出していていませんが、万が一、出会っても、所長の使い魔に火をつけたことは絶対言わないでくださいね! あんなのでも所長のお気に入りなので、難癖つけてくると思いますから」


 火をつけたのはサディスなんだけど……まあいいか。

 いろいろ苦労してんだなミントさん。気の毒に。


 ふいに、さきほどから聞こえていたざわめきが強まった。なにか騒ぎが起きてるらしい。男の怒号がひびいてくる。それも、一人二人ではなさそうだ。

 あわてたミントが廊下の奥にある二階の一室に飛びこむと、役人の制服を着た男が、一人の男に胸倉をつかまれている。

 役人はもやしのようにひょろっとしてるせいで、がくがく揺さぶられると風になびくねこじゃらしのように揺れる。ミントが割って入った。


「落ち着いてください! 何があったんですか!?」


「何がじゃありませんよ! 身元証明すれば、すぐ帰すとかほざいておいて! 

 〈手形読みとり魔道具〉が無いとはどうゆうことです! 一刻もはやくセシル国に入らなくてはいけないというのに! 大口の得意先をフイにしたらどうしてくれるんです!?

 あなた方、責任とれるんですか!?」


 頭を白い被り物でおおった商人らしい若い男が怒鳴っていた。

 きれいにそろえたみじかい口髭と顎ひげと眉が黒い。言ってる内容から隊商の長っぽい感じだ。身なりは清潔にきれいに整えてるし、鼻筋も通り目許もきりりとシャープな男前でもある。しかし相当、切迫してるようすでていねい語でも、もやし君を揺さぶる力はまったく容赦ない。

 ルーはあたりを見回した。玄関ホールの半分ほどの室内は、やはりはでな赤い絨毯がしきつめられ、机や椅子もなかなか重厚で立派な細工のものだ。

 きっと町の有力者なんかが会議するための部屋なのだろう。

 ミント含む五人の役人と、二十二人の、黒髪の男がいるので、いまここは人口密度が非常に濃い。

 嫌疑をかけられ連れてこられたのであろう二十二人は、ルーと歳の近そうな少年から、青年、中年、壮年、老人と年齢幅はひろい。

 皆一様に、白の被り物で頭髪をおおい、足下まである白い長そで筒衣の上に、はでな色合いのそでなし上着と腰帯をつけていた。肌も一様に浅黒いので隊商の仲間なのだろう。


 ほんと、大雑把すぎる投網だな~。


 観察はそれまでにして、魔道具がないとどうなるのか心配になった。

 役人たちをみれば、最後に魔道具をどこで見たか確認しあっている。

 三時間ほど前に、彼らがこの建物をでる前には、たしかに一階の隠し金庫にしまっておいたらしい。

「魔道具って高価なんですよ~、私たちの給料三年分ですから、こんなこと所長に知られたら、だ、だれが首を切られるか……いえ、首だけならまだしも、家族に何かされたら……」

 もやし青年は青ざめて両手をにぎりしめ、ガクブル震えている。


 どこまで小悪党ぶりを披露すれば気がすむんだ、所長サンよ。


「こちらの知ったことじゃありませんね! さっさと何とかしてください!!」


 隊商の長らしき若者に、もやしはぶんぶんふり回されている。

 ミントとその仲間たちがあわててそれを止めつつ、必至になだめている。


「と、とにかく荷物検査をさせてください!」


「馬鹿ですか!? 魔獣車五台分あるっていうのに!」


「こちらも全員で急いで見ますから! あ、ひとりは隣町の役所へ魔道具を借りに行かせますので!」


 やんやと隊商の人たちを部屋から押しだし外へむかう途中、ミントはルーに「すぐ戻ってきますので、こちらで待っていてください」と、声をかけるとあわただしく行ってしまった。

 広くなった会議室に、サディスとふたり取り残されてしまった。

 あの怒れる商人を見てると、こっちは一人なんだし先にして欲しいとも言えない。


 このまま逃げちゃいたいけど、もうちょっと待つか。言い出しっぺはおいらだし。

 でも、おいらが国宝ドロでもないんだから、これってすっごい理不尽な待遇だよね……いまさらだけど。


 溜息をつきつつ、そばにある椅子にちょこんと腰かけた。

「ルー」

 急に声をかけられたのでそちらを向くと、意外に近いとこから覗きこまれていておどろいた。

「なっ、なに?」

「彼らの中に移動の術を使える者はいなかった。隣町までは一番速い魔獣を飛ばしても、戻ってくるのは陽が高く上ってからになる」

 手許の地図を丸めてよこしてきたので何となく受け取った。


 ……て、コレ。おいらの地図じゃん。

 いつ鞄から抜き取った!?


 そんな疑問の眼差しはスルーされた。

「少し出かけてくる。ここで待っていろ。命令だ」

 淡々と告げられた。そして、銀の軌跡を描いて転移魔法を発動しかけたので、逃すかと彼のマントをがしっとつかんだ。


「ちょっと待て! どこに行くんだよッ」


 ひとりで淋しいじゃないか……じゃなくて!


 とりあえず転移を止めたサディスが、ぺいっとマントを払い、つかんでいた手をふり落とした。

「いつまでも無駄に費やす時間はない」

 冷ややかな眼差しで言いおいて、姿を消した。


 ぐっさり刺さったよ。悪かったよ、おいらのせいでさらに足止め食らっちゃって。

 でも、アクシデントなんて旅にはつきものじゃん。そんなに怒らなくても……。

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