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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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3 大雑把な捕り物で不審者判定された訳

 青年はしかたなく、さきほどの暴挙をていねいに謝罪すると、あらためて順を追って話しはじめた。

 まあ、内容は悪態カラスの言ってたこととほぼおなじだ。

「友好国ベレネッタの国宝を盗んだ泥棒がこの国にはいりこんだので、捕まえるよう国王命令が出たのです。この街でも役人総出で駆り出されています」

「傭兵どもはどうした? この国においての荒事にはうってつけだろう」

 地上から青年の仲間らしいおなじこげ茶の制服を着た男たちが、やはりカモシカ似の魔獣に乗ってやってくるのを、サディスは一瞥した。

「は、いや、まあ……これは我々役人の仕事ですので」

 そう言いつつも「所長が手柄を独り占めしたいからなんですけどね」と、ぼそぼそ小声でぼやいてる。

「盗まれた国宝というのはなんだ?」

「剣です。とてもすばらしい宝飾がなされているものだと聞いています」

 職務に忠実なのかそれをまっとうしようとしてなのか、彼は意を決したように早口でまくしたてた。


「そ、それでですね、そちらのお連れの方が黒髪とお見受けしたので……その、役所まで来ていただきたいのです。ほ、ほかの不審……いえ、昨日から国外へぬけようとした該当の方々も、おなじく足止めをさせてもらっています。

 無ざ……いえ、身元証明されればすぐに帰っていただいてけっこうですので……あ、簡単なことですよ、国境をこえたときの通過証による身元確認と、荷物の検査だけですから。〈通過証の読みとり魔道具〉があるので、ご足労を、ねがいた、い、と……」


 なんだか、だんだん言葉がしりすぼみになってる青年。

 フードの下からすさまじい凍気を発するまなざしに、射すくめられているらしい。

 わずかにフードからはみだしてる銀髪で、サディスは国宝ドロの該当からはずれてるようだが、呪詛のナゾ解き要員でありルーの護衛もかねてる彼だ。

 すなおに従うはずもない。

 そして、ばかばかしいまでの矛盾点を指摘した。

「国宝泥棒が黒髪の男だとして、年齢や体格の特徴でしぼれるはずだろう」

 それもそうだと、ルーも思う。

 だれもかれも黒髪で男ならひっぱっていくというのは大概おかしい。

 つっこまれたくなかったのであろう、青年の片頬がひきつった。

「実は、その……まだ黒髪の男であるということしかわからないもので、疑わしきは連行せよとの所長の命令なんです……」


 なんという大雑把な捕物。


「それと、所長の使い魔が言っていた、逃げたら鞭打ち百回禁固刑というのは、たぶん〈逃がしたら〉のまちがいで……灰色判定の不審者を逃がしたら僕らが処罰を受けるんです! どうか、人助けと思って役所にきてください!」


 なんか変な告白されたよ。なんで捕物してる側が処罰されるんだよ。

 だれにだよ。所長とかにか? なんかものすごい権力に圧迫されてんだね。

 ちょっとだけ同情するよ。サディス、どうする?


 目線を頭ひとつ半たかい位置にあるサディスに向けてみた。

 背が低いと見あげただけで、フード下の彼の顔がよく見える。

 玲瓏なる氷の華という表現がぴったりのその美貌が、もう何を言いたいかわかったので、断るの「こ」の字にかぶせるように「いいよ」と、ルーは答えた。

 案の定、サディスはルーに鋭い視線をぶつけてきた。


 いやもう、目に力があったら、おいらサックリ分断してるよ。


「すぐ終わるって言うんだからさ、おいらだけ行ってくるよ」

「おまえは」

 怒りが沸点に……いや、彼の場合、零下マイナス百度に到達しそうな気配に、ルーはあわてた。以前、彼の命令無視に対してビンタと蹴りを了承してしまったので、これはマズイ、命令はされてないが勝手をしたと根にもたれてはたまらない。

 それで、彼のフードのはしをひっぱり耳もとに小声で、「サディスの通過証で身バレは避けるべきだろ。追手にそんな痕跡をのこしたくないし!」と言ったら、彼はおしだまった。凍気も心なしかすこしだけ引いた気がする。


 確証があったわけじゃない。

 サディスはクレセントスピア大陸中、六割の国の要人らから通過許可をもらっている。

 それって多いよね。多すぎる。


 だから「只者じゃない!」てことで身バレするのではと思い、彼を止める口実にカマかけ同然で言ったのだ。反論しなかったので、やはり当たりということらしい。


 でも……「断る」って言いきったあとは、なんらかの形で強行突破したような気がするよ。たぶんだけど。


「ありがとうございます、助かります!」

 糸目の青年に感謝された。

「おいらの身元証明に通行手形でもいい?」

 通行手形。

 それは国境や街の門をくぐる時につかう、魔力なしの一般人がもつものだ。

 二十センチほどのたて長の木札で、出身国名と発行者のサインがある。

 発行者とは王族・貴族・領主・地主といったその地の支配者や、組合、例外的に大陸五大魔法士を指す。

 ルーの木札には大魔法士である曾祖父ノア……の名ではなく、知らない人の名があった。サディスに聞いたら、曾祖父の友人のやはり大魔法士らしい。


 まあ、大魔法士ノアの名を使ってたら追手バレしちゃうからね。

 こまかい配慮をありがと、ひいじーちゃん。


「大丈夫です、〈手形の読みとり魔道具〉もありますから」

 糸目青年は答えた。

「……魔道具?」

「はい、そのサインの筆跡の真偽を確かめるためのものです。人の目で判断するより確かですからね」

 彼の説明では、魔道具とは魔法をサポートするために錬金術から生まれた道具で、わずかな魔力量でも使えるものがあるそうだ。

 〈手形の読みとり魔道具〉というのは、あらかじめ大陸中の手形発行者のサインを記憶させてあるので、それに通行手形をかざすだけで真偽がわかるらしい。かなり高価なものなので、国や街の関所や役所ごとにひとつずつしか置けないとのこと。


 便利だね。

 便利だけど、盗品判定はできるのかナ?


 聞いたら「できません」とのこと。


 そうか。この手形、盗まれたり失くしたりしたら大変だね。

 悪用されちゃうからな。気をつけようっと。


 国境の〈網〉を無効化する通過証の〈読みとり魔道具〉も、やはり機能はおなじらしい。

 ちなみに、糸目の青年がさっき投げたまるい物体〈捕縛用の投網〉も、やはり魔道具の一種で、戦闘能力皆無でもちょっとだけでも魔力がある役人たちが、今回のように臨時で駆りだされたとき、危険人物や魔法使いを捕縛するために使うものだという。

 一度きりの消耗品のため、高額品の多い魔道具にしては比較的安いらしい。

 だからといって威力が弱いわけではないのだという。

 青年の弱い魔力=魔道具の力ではなく。

 魔力は単に魔道具にこめられた力を発動させるきっかけにすぎないのだと。

 その投網が破られるのはかなり魔力レベルの高い証拠で、その場合、町役人の手には負えないので、城に常駐する魔法士軍に連絡がゆき、彼らが捕縛に乗りだすことになるらしい。

 それを聞いてやっぱり逃げないでよかったと、ルーは思う。

 だが、彼はちがうようだ。

 魔獣で地上へ降下する青年らのあとを、しぶしぶ移動球で追ってはいるものの、すこぶるご機嫌ナナメな空気をまとわせている。

「……あのさ~、ここで強行突破したらよけいな追手増えるだろ?」

 とりあえずそう言ってなだめておいた。

 まだ旅のはじまりなのだし、トラブルは穏便に回避したいのだ。

 しかし、物事はうまくいかないものである。

 のちのち、サディスの行動を阻害しなければよかったと悔やむことになろうとは、いまはまだ露知らず。

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