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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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1 旅の始まりは傭兵王国の監獄

 ぴとん   ぴとん   ぴとん


 しずくが高い場所から床へと落ちる音がひびく。

 あたりはうす暗い。ここは地下室だ。

 某軍国の廃棄塔に捕まっていたころのことを思い出す。

 あれからずいぶん経ったような気がしていたけど、たった七日前のことだ。

 光のほぼ差しこまない人間を廃棄するための塔だった。


 せっかく脱出し、お日様のもとを歩けるようになったと思っていたのに、また似たような境遇に遭うとは……おいらも、ついてない。

 まわりには十数人の気配がある。

 ひとりで閉じこめられていた廃棄塔に比べれば、まだここは死の臭いがしない。

 ただ、少々……いやだいぶ、強烈に臭いけど。なんていうか……おっさん臭い。

 汗と垢とカビとホコリとか、もあっと……あ、加齢臭か? 

 まあ、たぶんここにいる連中が汚いなりのおっさんばかりだからだろう。

 傭兵ぽいとでもいうのか。装備がボロいし髪もヒゲも伸び放題……ハゲもいるけど。

 とにかく風呂に何ヶ月も何年も入ってないのが、パッと見でわかるひどさだ。

 臭いぐらいで人間死にはしないだろうけど……息がつまりそうだ。慣れそうもない。

 いや、慣れてどうする。とにかく新鮮な空気がほしい。


 鉄格子の向こうには壁にひとつだけ設置された松明がゆれている。明かりはそれだけだ。室内のすみは濃い闇が落ちている。時刻はおそらく午前四時ごろ。

 ここへ連れて来られる前に、ここの管理者でもあるだろう男の、ごてごてと悪シュミで豪華すぎる部屋でみた金ピカの置き時計は、午前二時をさしていた。

 おそらく魔獣車でここまでの移動に三十分、ぶちこまれて一時間三十分ぐらい。

 つまり体感で、なのだが……二時間ほど経ったと思われる。


 わりと暗がりにも利くおいらの目が、はたして、いま現在この状況下で幸いと思うべきなのかどうなのか。


 周囲からは聞きとれないほどの低いつぶやき声とかいびきとか歯軋りとか、獣じみたぐるぐる唸り声みたいなのとかが聞こえてくる。

 寝てるのは二、三人で、他はじっとこちらを凝視している。


 むこうも夜目が利くらしいが、その視線がやたらねばっこいのはナゼなのか。

 いや、さっきの騒動で、なんとなく、おいらで遊びそこねた不満がたまっているのはわかってるけど……。


 おっさん傭兵どもの巣窟で、この場にそぐわない〈小柄で少年的容貌〉をしたルーは溜息をつく。自分に太い腕をがっしり巻きつけて居眠りしている、この目の前の無精ヒゲのおっさんをどうにかして欲しい。


 ヒゲがおでこにちくちく当たって不快だし、痛いんだけど……

 しかも、なんかすっごく酒臭い。


 先ほどから何度も、ぶあつい胸板と鉄棒のような腕の間から抜けだそうと奮闘しているが、寝てる人間とは思えない怪力でびくともしない。

 洗濯バサミにつままれたアリの気分だ。


 鉄筋肉の酔っ払いめ! 

 そもそも、こんなところに放りこまれた理由っていうのが……

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