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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅱ】 魔法士と憑物士の因果
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0 ルー・クランの追われる事情

【Ⅰ】の大雑把なあらすじを、ルー視点で。

 9月6日、午後二時。


 おいらは記憶喪失だ。

 どのへんまで忘れているかと言うと、名や年齢、生い立ちといった自分に関することだけを、まるっときれいに忘れている。

 だが、そのへんは、今となりで仮眠をとっている旅の相方に聞いたので問題はない。

 おいらもさっきまで爆睡していたのだが、ふと目が醒めたので、これまでにあったことの経緯をちょっと整理しておこうと思う。




 記憶は、キャラベ軍国の廃棄塔からはじまる。

 廃棄塔というのは〈罪人〉を〈始末〉するための、この国独自の廃棄施設のことだ。

 おいらは手枷足枷つけられ、頭には鉄冑まで被せられて、光の射さないその塔の暗い床に転がされていた。

 ここに放置されることで満潮時に海水が引きこまれ、「溺死体」となるはずだったのだが、見物にやってきたキャラベのバカ殿下の気まぐれによって「魔獣のエサ」に変更となった。そこへ単身、救出に乗りこんできてくれたのが、おいらの曾祖父の元・一番弟子にあたるサディス・ドーマ。

 彼は大陸救世主とも言われる伝説の精霊〈銀彗〉の名を冠する天才魔法士であり、中性的な絶世の美人だ。美女と言っても違和感がない。

 本人気にしているのか、女とまちがえられるとすごく怒る。めちゃくちゃ怒る。

 問答無用でげんこつを落とされたぐらいだ。


 彼から、おいらの名がルー・クランであり、大陸五指にはいる大魔法士ノア・バームの曾孫であると知らされた。


 廃棄塔にいた理由。

 それは、おいらの右上腕にある不気味な赤いアザ──三叉の矛に串刺しにされた海ヘビの紋様が古代呪詛によるもので、キャラベ軍国において、これが〈クトリの殺人鬼〉と呼ばれ抹殺対象となっているからだ。


 一度、発動した呪詛。

 月光を浴びたか見たかしたのが原因らしく、急に意識が途切れたのでよく覚えてないが、廃棄塔を出た直後に、いきなり剣でサディスに斬りかかったらしい。

 その後、とりあえず彼に封じてもらったが、簡易封印なので完全に封じているわけではないとのこと。

 古いカや強い力場のある場所へ行くと、この封印が解除されてしまうらしい。

 古代呪詛は天才すらも持て余す、厄介なシロモノだということだ。

 彼は見事にキャラベ軍を蹴ちらして、おいらを曾祖父の待つスターブレス島へと連れていってくれた。




 ちなみに、おいらは魔力ゼロ。血族の中で唯一のみそっかす。

 五年前、それが元で家出し、あげく海賊生活をしていたのだという。

 といっても義賊で有名なガンドル号らしいのだが。

 つまり、その海賊船で禁忌の海域へはいりこんだのだ。

 この海域から五体無事に生還はできないとか、古代に沈んだクトリ王国の遺跡島が残っているなどの噂がある。そこへ辿り着きさらに奇跡的に生還した者は、もれなく呪詛を刻まれ、見境なく人を殺す〈クトリの殺人鬼〉となるのだそうな。

 ガンドル号はボロボロになって、ある岬で座礁していたのを発見されたが、船員はひとりも残っていなかった。




 廃棄塔から脱出して六日目。

 スターブレス島にキャラベ軍国からの追手がやってきた。

 ヒトを魔獣のエサにしようとしたあのバカ殿下が、大勢の魔法士軍とともに。

 バカ殿下にしては用意周到に、島の結界を壊せる可能性がある新型の結界破砕砲をもってきていたので、逆に島に引き入れて、おいらは変装をしてシラを切り通すこととなった。

 しかし、バカ殿下には賢すぎる従者がいた。

 勘のよすぎるそいつによってバレかけたが、間一髪、サディスに助けられた。

 まぁ、それまでにもこの六日間、いろいろ迷惑かけつつ何度となく助けてもらってはいたんだけどね。あんまり迷惑かけすぎたんで、そろそろ見限られるんじゃないかと本気で心配したぐらいだ。

 だが、あえてそれらを「最初から想定内だ」と彼は言い切った。

 さすが大物は懐が広い。

 そのあとは館内の侵入者捕獲用の罠で、敵の魔法士軍をすべてひっとらえ、戦意喪失させて島から追いだすことに成功した。

 バカ殿下の従者が勘づいている以上、新たな追手が来ることが予想されたため、おいらはサディスとともに島を出ることになった。



 クトリの古代呪詛を解くべく、〈幽玄図書館〉を探して。



 そこにはこの世から失われた本があるのだという。

 その不思議図書館を知っているであろう人物アビ・ゼルハム氏を、まずは捜すことになった。考古学者の彼は、ガレット国内で遺跡から遺跡へと流浪している。

 目撃情報を拾いながら、追いかけなくてはならない。

 そして、魔力消費の大きい攻撃や移動などの魔法を使えば、近距離にいる敵に感知されるということで、そんなときは緊急時以外は使わないとサディスは言った。

 まぁ、スターブレス島の一件で、しばらくは追手も来ないだろう。

 その間にできるだけ魔法の移動球を使って、ガレット国への距離を稼ぐのだ。




 ──昨日からとにかくホントいろいろあって、昨夜は徹夜で騒動があったし、今朝はバカ殿下の襲来があって、つまりぜんぜん眠っていない。疲労も濃い。

 移動球の中、となりで荷物を枕に横向きでしずかに眠るサディスを見てると、ふたたび睡魔が襲ってきた。

 空は青くまだ陽は高いが……いまのうちにしっかり眠っておこう。

 人生、いつ何が起こるかわからないのだから、休めるときに休んでおかなくちゃ。

 おいらは自分の布鞄を抱えると、ひとつアクビをして、ころんと横になり目をとじた。

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